東雲、城下の大通りに軒を連ねる飲食店街。その一角にある古びた喫茶店で、藤目と姫は向き合って座っていた。ガラス越しの陽光に照らされながら、藤目はゆったりとした動作で、目の前のチョコレートケーキをフォークですくった。一方、姫は自身のケーキには目もくれず、藤目の口に運ばれていくチョコレートを渋い顔で睨みつけてた。
「ありえません」
「おや、ケーキではお気に召しませんか?」
「まさか騙されるとは思いませんでした」
「はて、何のことだか」
「帰ります今すぐ」
「まぁまぁ」と藤目は今にでも沸騰しそうな姫の怒りを沈めるべく、ひらひらと手招きをした。「安心してください。今日お呼びしたのは、先日とは別件のお願いですから」
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