Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    リビットの通行人1

    @Eugene_vijitan
    ビッキ主を書いてるのが幸せなので

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 25

     東雲、城下の大通りに軒を連ねる飲食店街。その一角にある古びた喫茶店で、藤目と姫は向き合って座っていた。ガラス越しの陽光に照らされながら、藤目はゆったりとした動作で、目の前のチョコレートケーキをフォークですくった。一方、姫は自身のケーキには目もくれず、藤目の口に運ばれていくチョコレートを渋い顔で睨みつけてた。
    「ありえません」
    「おや、ケーキではお気に召しませんか?」
    「まさか騙されるとは思いませんでした」
    「はて、何のことだか」
    「帰ります今すぐ」
     「まぁまぁ」と藤目は今にでも沸騰しそうな姫の怒りを沈めるべく、ひらひらと手招きをした。「安心してください。今日お呼びしたのは、先日とは別件のお願いですから」
     藤目は、姫に嫌われていた。発端はほんの数日前のことだ。授賞式がきっかけで度々交流を深めていたふたりだが、その仲は藤目の一言でぶちこわしとなった。
    「ぜひ貴方に、私の妻になって欲しいのです」
     誤解しないで欲しい。真剣な求婚ではない。正確には、疑似夫婦ーーー夫婦とは何たるモノかを身をもって検証する、という斬新かつ画期的な取材の一環に過ぎない依頼であった。が、姫は考える間もなく返事を吐いた。
    「嫌です」
     のちに藤目がいくら説得しても、姫が首を縦に振ることはなかった。そればかりか、姫は傍に控えていた飛鳥の腕を引っ張り、己の前に立たせるとこう言った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited

    recommended works