第六話第六話
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。かくれんぼをして少し疲れた真斗はレンの膝の上で眠っていた。
「その子どうしたの?」
「アイミー。迷い込んじゃってね。扉が開くまでここで遊んでたのさ」
「そうなの?」
レンの膝の上で静かに寝息を立てる真斗の顔をかがみこんでのぞき込む。
「レン」
「なんだい?」
しばらく真斗を見ていた藍が立ち上がり、声をかけてくる。
「そろそろ扉が開くよ」
それはつまりお別れの時間。分かっていたことだった。たったひとときの時間ではあったが真斗の存在はレンの心に爪痕を残す。
「まさと、まさと起きて」
「うーん、レンおにいちゃん?」
何度か真斗の体を優しくゆする。真斗は大きな瞳をこすりながら起きてくる。
「もう帰る時間だよ」
その言葉に真斗は目を大きく見開き、徐々に瞳に水が張る。
「もう帰らなきゃダメなの?」
「ダメだよ。それともまさとはおうちに帰れなくなってもいいの?」
レンの質問に真斗の瞳が揺らぐ。楽しい時間はいつまでも続くわけではない。むしろここに長くいればいるほど帰りたいと思うのだ。どこに帰ればいいのかもわからないのに。
「まさとはいい子だからおうちに帰れるよね」
自分で真斗に言って自分で傷つく。いい子なんて言われたことがない。むしろいい子でいようとして、さらに拒絶された気がする。
寂しそうな真斗の手を引き、ゆっくりと歩く。真斗の足取りは重く、まだ帰りたくないと言外に告げている。
「レンおにいちゃん……ふぇっ……」
真斗と出会った一枚の絵の前。そこまでくると真斗はまた泣き出してしまった。
「泣かないの。大丈夫だよ。きっとまた会えるから」
「また?」
「そうだよ。だからもう泣かないで」
嘘ではないけれど本当でもはない。そんな事実をこんな小さい子に言うのは気が引けた。けれど、ここから帰れなくなって後悔するのは真斗だから。
目の前の絵が少し揺らぐ。絵の中の部屋は月明かりが徐々に差し込んでくる。繋がった。
「ほら、もう行くんだ」
そう言って少しだけ真斗の背中を押してやる。
「レンおにいちゃん」
「バイバイまさと」
「またね」
そういうと真斗は絵の中に入っていく。水面のような揺らぎの中で時折こちらを振り返り小さく手を振りながら離れていく。
レンはただ手を振りかえすことしかできない。