レオナも夢中になるとまではいかずとも途中まではそれなりに楽しんでいたようだったが、物語も半ばを過ぎる頃から飽きてきたらしい。腹を撫でていた手がするりとジャミルの内腿へと滑り落ち、ゆっくりと輪郭を確かめるように肌を撫ぜていた。そこにいやらしさは全く無く、まるで子供を落ち着かせるような穏やかな手つき。だが膝の上から足の付け根のきわどい所までを撫ぜる温もりにジャミルの方が知らず、期待してしまう。
その先を望む気持ちは、ある。大抵映像を眺めながらアルコールを嗜んだ後はそのまま雪崩れ込むことが殆どであったし、当然準備だってしてある。でも映画だって見たい。先の展開はわかっているとはいえ、改めて見直すとやはり新たに気付く細やかな監督の拘りやシナリオの巧妙さが見えて面白いのだ。
レオナとて、無理に引き摺りこむ気はないのだろう。ただ、じっとりとした熱だけをジャミルの肌に分け与えていた。空調は効いているはずなのに、ほんのりと体温が上がった気がする。掌は静かに内側の薄い皮膚を撫ぜているだけだ。ひたりと馴染む掌の中で学生時代のマジフトで出来た胼胝がほんの少し引っかかる、その小さな感覚まで察知出来るほどに意識を奪われているのに、ただ手触りの良い愛玩動物の毛並みを撫でるようなレオナの手の素っ気なさがずるい。まるで自分は全くその気はないのだと言わんばかりの態度でジャミルからねだるのを待っている。
だからジャミルも、ただ鬱陶しかっただけなのだと言うように、レオナの手首を捕まえて左右両方ともまとめてベルトのように自分の腹に抱え込んでやる。つむじのあたりで、ふ、と吐息が擽っていた。それからぎゅうと抱き締められる。
「触るくらい良いだろ」
「俺のお腹で我慢してください。腿はくすぐったいです」
抗うように身を捩らせて座りやすい場所を探せばあっさりと拘束は緩まったが、変わりに腹に置いた筈の両手がするりとTシャツの裾から中へと潜り込んだ。
「……レオナ」
「腹なら良いんだろ?」
咎めるように後ろを睨むが、そう言われてしまえば変えず言葉が見つからない。
「ほら、気にせず見てろよ」
不穏なものを感じるも、確かに服の下に潜り込んだレオナの両手はただぴったりとジャミルの腹を暖めているだけだった。居心地の悪さを感じながらも映画へと視線を戻す。物語は偉人が人生を左右する大きな選択を迫られている緊迫したシーン。この先の展開を知っているからハラハラさせられることは無いが、何度見ても俳優の迫真の演技に引き込まれる。
「――……っ」
ただ、熱を持った指先がぞろりと臍の内を撫ぜただけだった。掌は肌にひたりとあてたまま、爪先だけがすっぽりと臍の溝へと埋まりジャミル自身でもあまり触れない薄い皮膚をくすぐられ、不意の感触に油断していた身体がふるりと震えて息を飲む。触れるか否かの爪先が臍の奥底を淡く引っ掻いただけなのにじんわりとそこが熱を持つような感覚。それから、もう片方の手が臍よりも下をぐ、と掌全体で優しく推す。それはまるで、行為の最中に、中に入っているものを確かめるようにレオナが好んでする時のような。