Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    aruteamoon

    @aruteamoon

    🦦🐍と🦈🐍で活動中。カプ表記はなるべく上に書くので自衛して下さい。
    フォロワー限定はそのうち全部支部に載る予定なのでフォローしなくて大丈夫。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🐍 🎆 🍛 🏀
    POIPOI 125

    aruteamoon

    ☆quiet follow

    キスの日。カリジャミでウブいやつ。
    多分付き合ってないし、夜伽もしてない時空の健全な幼なじみカリジャミ。無事にタイトルつきました(笑)

    #カリジャミ
    kalijami

    口付けに愛は伝う




    その日もいつも通りの晴天で、とくにこれといって風が強そうだという訳でもなく、休日の朝から早めに洗濯物を干そうかと考えながらキッチンに向かう廊下を歩いている時だった。
    後ろから呼び止められる聞き慣れた声に平穏な朝は終わりを告げる。いつもなら起こしに行くまで寝ているくせに、何故休日に限ってこの男は早起きしてくるのか。
    その理由は腕を引きながら連れて行かれた寮長室で、開口一番知らされる。


    「なぁジャミル、今日は何の日か知ってるか?」
    着崩れていた寮長服を整えてやっていると構わずカリムが話しかけてくる。
    無意識に手を動かしながら頭の中で知りうる限りの記念日を検索したが思い当たらず首を捻っていると、カリムが今度はスマホを取り出した。
    「なんだ?なにか大事な事でもあったか?俺が忘れる筈は無いと思うんだが」
    「ああ、オレもジャミルもこう言うのあんまり知らないもんな!オレもこないだケイトに聞いて知ったんだけど…」
    カリムは取り出したスマホをカメラモードに切り替えると、自撮りをするのか並んで此方に画面を向けた。
    「なんだ?撮るなよ」
    「実はケイトに頼まれてる写真があってさー。スカラビアの分がまだ無いから、撮ってきて欲しいって!」
    ぐいっと肩にカリムの腕が回り顔を寄せられる。画面の中には嫌がる俺の顔と笑顔全開のカリムの顔がなんとか画面に収まっていた。
    「はぁ……ケイト先輩か。またマジカメにあげる写真でも集めているのか?お前はアジーム家の次期当主なんだから、そんな軽々しく…」
    「ジャミルっ、チ〜!!」
    「はぁっ?!」
    声をかけられ反射的に画面へと視線を向けた瞬間、シャッター音と同時に画面の中のカリムが俺の頬にキスをした。
    ムニっと唇があたる感触と、画面に映る動作が一致する。すでにシャッターを切られてしまった後の俺は、目を見開いて隣のカリムに視線を移した。
    「なっ…!!何をするんだお前はっ…!!!」
    「ほっぺたにキスしただけだぜ?」
    「だからっ、なんでっ…!」
    「今日がキスの日だから」
    「………は?」
    言われて漸く最初の質問の答えに辿り着く。
    熱砂の国には当然そんな習慣は無いがケイト先輩の育った輝石の国では、国で定められている記念日以外にも民間企業が色んな○○の日と言うのを設定して、企業アピールや盛り上げに使っているらしい。輝石の国と言えばマジカメの普及率も断トツに多い国だ。単純にマジカメの閲覧数を稼ぐのであれば、輝石の国の風習に沿うものをアップするのが効率が良い。さらに一見キスとは全く縁の無さそうな男子高校生が悪ノリでキスをしている写真となれば、まさに道化的な光景として注目されることは間違いないだろう。
    「ほらこれ。ケイトが今日の為に集めた写真を編集したやつ」
    見せられたスマホの中には別々に撮られた写真が小さく分割された状態で一枚の画像に収まり、センスの良い配置でまとまっていた。
    ケイト先輩はわざわざこの日の為に、沢山の知り合いや友人達に声をかけて、色んなシュチュエーションでキス写真を集めまくっていたらしい。

    真ん中は制服姿で自分のクラスメイト達と。
    寮服姿はそれぞれの寮まで行って撮影したのか。
    ハーツラビュルはノリの良さそうな一年達に困り顔のリドルが囲まれて、女王陛下に我先にと頰や指先、服の裾などにキスをしていた。ハーツラビュルらしいパフォーマンスだ。
    サバナクローはラギーが適当な後輩を捕まえてフサフサで大きめの耳にキスをしている。つい何を貢いで撮影協力させたのだろうかと考えてしまう。
    オクタヴィネルは正攻法ではなく、モストロラウンジの水槽前でケイト先輩とリリア先輩が手でハートを作っている。さて、二人のハートの中で泳いでいる魚は何という名前だったか。その様子をジェイドが興味津々と言った表情で横に立って見ていた。
    ポムフィオーレはルーク先輩が姫を助けた騎士のように傅いてエペルの手の甲に。この場に居なくとも寮をバックに颯爽と撮る姿が目に浮かぶようだ。
    イグニハイドこそどうやって撮ったのか謎だが、そこには見たことのない優しい表情でオルトのおでこにキスをしているイデア先輩の姿があった。そういえばケイト先輩と同じクラスだから、何か弱みでも握られているんだろうか?
    ディアソムニアはリリア先輩が撮ってきたのだろう。先程のカリムと同じ自撮りの距離で、寝ているシルバーの鼻にリリア先輩がキスをしていた。まるで童話の眠り姫の真似事だった。

    なるほど。ケイト先輩は制服と、全寮服の姿の写真を集めたかったのだ。こうやって全体の写真を見てみると確かにスカラビアだけは寮服を着た生徒が一人も写っていない。カリムに任せていたら、当のカリムが忘れていて慌てて俺に声をかけたのだろう。

    写真の中の生徒達は、みな笑顔だった。あのリドルでさえも困った風ではあるが怒ってはいない。
    頰だったり、手だったり、おでこだったり服の裾だったり……とシチュエーションによってキスを贈る場所は様々だが、している者もされている者も、それはそれは楽しそうに笑顔で悪ふざけに乗っているのだ。
    もちろんふざけたものだけではなく、時には本気の兄弟愛や友愛、親愛も入っているからこそ、この写真はただの馬鹿騒ぎではなくなる。
    男子高校生の悪ふざけなどと思っていたが、なかなかどうして。これだけ大量の笑顔を前にすると、興味などなくともこちらの口角があがらずにはいられないものなのだ。

    キスと言う行為はただ恋人達が愛を確認する為だけのものではなく、気恥ずさを超えて触れ合う距離に入り込む勇気を持って、この唇一つで言葉以上に他人へ己の気持ちを伝える手段の一つだ。
    何をこんなくだらない事を、と言ってしまうのは至極簡単な事だろう。
    だが、それを口に出すにはあまりにも、写真の中の顔達がなんとも楽しそうで、野暮な言葉をぶつけられる程自分はまだつまらない大人になってはいなかった。
    相手への想いを唇に込めて伝える。それは真実の愛なのだと、人間の姫を育てた妖精の女王も言っていたではないか。

    「だが、コレは駄目だ」
    「えっ?!」
    「さっきの写真は駄目だと言ってるんだ。いくら同じ学校の生徒という扱いとは言え、お前が俺にキスするような写真が家の人間に見つかったら、俺がどんなお咎めを受けると思ってる」
    たとえ一つ一つのカットは小さなもので、ここに先程の写真が紛れた所で目立つと言うような事はないが、どこに人の目があるかはわからない。ケイト先輩のマジカメはカリムも度々登場しているから、確実にアジームのチェック対象になっているだろう。
    「カリム、そこに立て」
    ルーク先輩の二番煎じになってしまうが仕方ない。アジーム家の次期当主として相応しい写真にしなければ。
    着付け終わった服のシルエットを素早く整えて、結んだリボンの先を目立つように肩に巻いた。
    大きく開かれた窓辺から逆光でカリムの輪郭が浮かび上がる。スマホを軽く魔法で浮かせると、若干引き気味に全体像を取り込んだ。
    「そのまま動くなよ。俺の顔を見てろ」
    言われたとおり俺を見ながら固まるカリムの手を取り、片膝を付いて傅いた。
    カメラから俺の顔は前髪で隠れて見えない。シャッター音と同時に手を引き寄せ、指先に口付けを落とした。
    「ジャミル」
    下から見上げると、その表情はどこか冴えない。わかっている。カリムは俺に跪かせたり、頭を垂れさせるのが嫌いなのだ。
    それでもコレは大事なパフォーマンスだ。四年間のうちのたった一日のお遊びだとしても、常にカリム・アルアジームという人間に相応しい姿を世間に見せつけなければならない。
    その顔に気付かない振りをして立ち上がると、撮れた写真を確認した。
    「ほら、こっちの方がいいだろ」
    「えー…なんか、オレはやだなぁ。みんなみたいにこう…スカラビアも楽しい寮だぞって感じで、わぁわぁしてるのを撮りたかったんだけどな」
    「じゃあそもそも俺を相手にするなよ」
    写真の中の姿は確かにカリムの言う通り面白味は無いかもしれないが、逆光を背景に臣下の寵愛を受けるカリムはさながら雄大な王のごとく威厳に満ち、たまには偉そうに見えるカリムも悪くない、などと思ってしまったのは秘密だ。まあ、逆光のおかげで表情はほとんど見えていないし、所詮静止画の中でしかカリムは大人しくできないのだから、これはこれでカリムの性格を知る者たちから見ればそれなりの面白さもあるというものだ。
    「ほら、ケイト先輩に早くこっちを送れよ」
    「ん〜〜〜わかった」
    珍しく俺の意見をあっさり聞いたなと思い、カリムの手元を覗き込む。ちゃんと最初の写真ではなく後で撮った方を送ったのを確認して顔を上げると、カリムが此方をじっと見ていた。
    「………なんだ?まだ何かあるのか?」
    「いや?……あー………っあ!!!!」
    「はっ?!」
    突然カリムが大声を出して足元を見る。もしや俺の嫌いなアレかと思い下を見ると……カリムの顔が重なっていた。いや、顔ではない。重なっているのは唇だ。カリムの薄めの唇が、けれどもその目や性格を表すように熱を孕み、俺の唇に強く押しつけられていた。
    「カっ…」
    咄嗟に顔を引こうとした瞬間、鳴り響くシャッター音。
    一枚じゃない、連続でシャッターを切るモードだ。状況を把握した途端怒りでカッと顔が熱くなるのがわかった。
    「ッリムっっっ!!!!」
    肩を掴んで引き剥がすと、如何にも悪戯が成功して嬉しいといった表情のカリムがいた。
    「なっはは!ちゃんと撮れたなー」
    咄嗟の思いつきのくせに、ちゃんと今度は逆光にならないよう反対の手に持ち替えて撮っている所が小賢しい。保存された連続写真は驚いている俺にカリムがキスをして、そして連続する写真の最後では怒りでうっすら頬が赤く染まり、まるで不意打ちの口付けに照れているように見えなくもなかった。
    「消せっ!!」
    「消さないっ!コレはオレだけのキスの日のアルバムだからな!」
    煩いくらいに心臓の音が鳴り響く。たかが唇を合わせたくらいで何を動揺しているのだと心を沈めようとしてもそれは一向に治らず、ドクドクと血管を伝う鼓動を掻き消そうと振り上げた手はあっさりカリムにかわされた。
    「こらっ、逃げるなっ!!」
    「だってジャミル、消そうとするだろっ?!」
    あっという間に距離を取り、カリムは窓から絨毯に飛び乗り逃げて行く。
    「後でジャミルのスマホにも送っとくなー」
    「要らんっっっ!!!!!」
    何処までも雲のない空の海に、星を散らした絨毯が浮かび上がる。たなびく臙脂のターバンはまるで空を泳ぐ魚のようでどうにも捉え所がない。
    これは無理に追いかけた所で時間の無駄だと諦めて、せめて少しでも早く己の頭が冷えるよう、盛大なため息を空に溢した。
    窓から燦々と砂漠の太陽の光が降り注ぐ。魔法で守られた建物から一歩出れば今日もここは暑いままだ。早くこの暑さから逃れたいと思うのに、まだ午前中も早い時間で。
    体内に篭る熱はなかなか冷めそうに無かった。


    その後、スカラビアの写真を加えて編集されたキスの集合写真がケイト先輩のマジカメアカウントにアップされ、努力の甲斐あってかそれなりに満足のいく閲覧数を獲得したようだ。
    無事に俺が撮り直したものが使われていてホッとしたのも束の間、今度はメッセージアプリからの知らせがあり画面を見た俺は、まだお昼前だと言うのに本日二度目の絶叫を上げた。
    「………っ……カ、…カリムーー!!!!」
    カリムから、最後に撮った写真が宣言通り送られてきたのだが、よくよく見ればそれが送られたアカウント先は、スカラビア寮生連絡用のアカウントだった。
    キッチンにいた俺は自他共に認める最短記録で寮長室へと駆け込み、送信30秒後にはアプリから画像を消去させた。
    流石熟慮の寮生らしくその後写真について何か言ってくるものはいなかったが、確かに消す直前、既読が16件ついていた事を俺はしっかりと確認している。
    カリムに文句を言った所でニヤニヤと嬉しそうな顔で「すまん、間違えた!」なんて反省する素振りも見せずに笑うものだから、俺はまたしても一人空に向かってため息を吐くしかなかった。
    ああ、俺はたかがキスひとつでこんなにも腹を立てているのに、寝ている間に唇を奪われたと知った物語の姫様方は誰も怒ったりはしなかったのだろうか?
    真実の愛とやらが怒りさえも湧かないほど魅力的なものであるのなら、どうか今すぐ俺の怒りを鎮めて欲しい。
    来年は、いや、今後二度とキスの日なんて乗ってやらないと、明るい昼間には見えない空の星に誓った。






    ……とは言え、カリムがやりたいと言えば従者の俺は従うしかない。
    来年はまた何を言い出すやら。形に残るようなもので無ければ良いが。
    さてあの30秒間に写真を保存した者がいたかどうかなんてそれこそ「神のみぞ知る」である。
    (ちなみに消したのはアプリの方だけで、カリムが頑なに拒否した為スマホのデータからは消去出来なかった)
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘🇪Ⓜ🇴ℹ💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works

    case669

    MEMO制服
    カリジャミ
    スリムなラインのシャツとジャケット。今まで風通しの良い服に慣れてきた身には張り付くような布の不快感が付きまとう。おまけに首を締めるネクタイの息苦しさ。着慣れぬ制服を楽しめたのは初めて袖を通した日だけで、今では朝着替える時に一々溜め息が溢れてしまう。
    「なあ、ジャミル。これ着なくちゃ駄目か?」
    ジャミルよりものびのびと育てられたカリムにはもっと苦痛が大きいのだろう。ベストのボタンを留めていた筈の指先が汚物でも摘まむようにジャケットを持ち上げていた。
    「アジームの跡取りは服もまともに着られないと謗られたくは無いだろう、諦めろ」
    「まともな服なら他にもあるだろ?」
    「入学早々目立つようなことはするなと言ってるんだ」
    「でもジャミルだって困ってるんだろ?」
    「お前一人守るくらいならなんとかなる」
    「ジャミルも無事じゃなきゃ意味が無いって言ってるだろ!」
    不服そうな顔をしてカリムが拗ねるが、正直ただただ面倒臭い。ジャミルはきっちりとネクタイを締めてジャケットのボタンまで留め終えたというのにカリムはまだ中途半端にベストを着る途中だった。
    「とにかく、着替えろ。遅刻するぞ」
    「なあ、この服だと俺が死 1046