当たり前の国 ごくたまに、当たり前のことがとても怖くなる。どくどくと流れる心臓の音や、眠れば明日が来るということ、人々がそれが当然だという顔をして生きていること。
「マユミくん……おーい」
「……ああ、すまない」
意識を目の前の百々人に戻し、何事もなかったかのように微笑んだ。手元のコーヒーはすっかりぬるくなり、苦みが増していく。
「ね、ボクといる時、何考えてるの」
「何って……お前のことだ」
「うそつき。マユミくん、嘘つくとき、眉がぴくってなるんだよ」
知ってた? と笑いながら自身の眉を押さえる百々人は、俺のことなんかお見通しなのだろう。百々人の頼んだパフェに乗っている白桃がつやつやと光って、百々人の指先がいっそうやわらかに見えた。
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