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    kiaratwst

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    トレジャミ
    ⚠️喫煙描写あり

    #トレジャミ
    treasureFlea

     NRCにはいくつか人目につきにくい場所が存在する。ハーツラビュル寮の迷路の、右に二回、左に二回、最後にもう一度右に曲がった所だとか、スカラビア寮の砂漠にある洞窟の中だとか、学園裏の森だとか。ジャミルがいる体育館裏もその内の一つだ。こういった場所は得てして誰かしらがいるものだけれど、その日は運良くジャミル一人だけだった。喜びに指を鳴らし、口端を持ち上げたジャミルはポケットから煙草とライターを取り出した。
     ジャミルが煙草を覚えたのは一年生が終わろうとしている頃のことだった。ストレスを上手く発散することができず、ほとんど不眠症になりかけていたところを、当時三年生だった先輩が見かねて一本分けてくれたのだった。最初は未成年だし、と断ったのだが、無理矢理吸わされて、そうして駄目な人間になってしまった。苦い煙が肺を汚していく感覚が、命を無為に消費している感覚が、ジャミルにとっては何よりも甘美な救いだった。
     箱をトントンと叩いて煙草を一本取り出す。チップをはずめばなんだって売ってくれるサムにカートン買いのオマケで渡されたライターは驚く程に火の付きが悪い。イライラと何度かレバーを押して、ようやく付いた火を煙草に移した。フィルターを食んで、口内に煙を迎え入れる。苦いだけのそれを美味しいと思ったことは一度もないけれど、肺に落としてしまえば気にならない。悪いことをしているという背徳感に酔いしれ、ぷかりと口から煙を吐き出した。一切の思考を止め、ただ毒を吸い込む作業を繰り返していれば、頭や心のモヤモヤも一緒に吐き出されるような気がする。空を見上げれば雲がゆったりと泳いでいる。あんまりに穏やかなものだからジャミルは油断しきっていた。背後から人が近づいてきていることにも気づかないくらいに。

    「こーら」

     突然間近に聞こえてきた低い声にジャミルの肩は跳ね上がった。首がもげんばかりの勢いで振り返ると、そこにはトレイがいた。

    「びっ、くりした…驚かせないでくださいよ」

     危うく一本無駄にするところだったと文句を言っても、トレイはどこ吹く風だ。

    「未成年が喫煙とは感心しないな?」
    「……先輩って結構口うるさいタイプなんですね。知りませんでした」

     嫌味ったらしく返せば、トレイはニヤリと笑った。
     
    「いや、そうでもないぞ。一本くれたら見逃してやるさ」
    「ハァ?」

     まさかこの男も煙草飲みだというのか?規律正しいトランプ兵なのに?いつもあのリドルの後ろに控えている姿からはとても想像できなかった。

    「リドルが知ったら今度こそ頭の血管切れちゃうんじゃないですか」
    「はは、確かにな。けど、リドルは絶対に気づかないよ。アイツは煙草の臭いなんて嗅いだことないだろうから」

     遠回しの否定はのらりくらりと躱された。ジャミルはわざとらしく溜息をついて、べ、と舌を出した。

    「ヤ、です。ご自分で買ってください」

     喫煙者に厳しい世の中だ。ただでさえ高い上に、サムにチップまで渡しているのだから安い買い物ではなかった。なけなしの金をはたいて手に入れた大切な煙草をみすみす渡すつもりはない。

    「そうか」

     ジャミルはふん、と顔を逸らした。そもそもこの、何かと己を甘やかそうとしてくる男がジャミルは苦手だった。けれども結局甘えてしまっている自覚もあった。こんな子供じみた素振りだって、トレイにしかしない。トレイの手が伸びてくる。どうせいつもみたいに頭を撫でようとしているのだろう。

    「ジャミル」

     ほら、そうやってドロドロの蜜みたいに甘い声で呼ぶから。恥ずかしくて堪らなくて、フードを被ろうとした手を掴まれる。そしてもう片方の手が頬に添えられた。熱いそれにうっかり目を細めてしまう。

    「なんです、か、」

     あ、と思う間もなく眼鏡が顔に当たった。唇に柔らかい、しかしカサついたものが触れる。驚きに開いた口の中に舌が差し込まれて、味わうように歯列をなぞられ舌を吸われた。ぼーっとする頭で、この人案外人相が悪いんだなぁと考える。ちぅと甘い音を立てて離れていったトレイの手元には煙草が。

    「あ」
    「お前、結構重いの吸ってるんだなぁ」

     トレイの口から煙が吐き出される。灰と、飲み下しきれなかった唾液がぽとりと地面に落ちた。
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