遠い星からKV前提。砂の星に住むヴァッシュと赤く染まったプラント。
おやすみ、ナイ。
あちらで眠って、此方で目を覚ます。薄暗い室内にはゆらゆらと赤い光が揺れている。瞬きを何度かしてから、背後の彼女に「おはよう」と挨拶すると、かすかな空気の振動が感じとれた。
ここには彼女と僕の二人きりだ。町の中央にある、ひび割れた壁と砂があるだけの部屋。かつて栄えたこの町も、すっかり寂れて住人はいなくなってしまった。この町に最後まで残っていた老夫婦は、名残惜し気に近くの街へ引っ越していった。しきりに残されるプラントを気に掛ける彼らを説得して見送ったのが五日前のこと。
「今回はね、友達に会ったよ。一緒に旅をしてた人たちなんだ」
今日も見た夢の話を彼女に語る。僕の知っている人たちによく似た登場人物との楽しい毎日。彼女は聞き上手で、僕のつたない冒険談を楽しそうに聞いてくれた。
街をパトロールしていたら猫に囲まれて動けなくなっていたところを、偶然通りかかったメリルが助けてくれたこと。その後連絡を受けたロベルトがやってきて三人でお茶したこと(僕は飲めないけど雰囲気を楽しんだ)驚いたのが彼らは僕のことを覚えてると言ったのだ。びっくりして大きな声が出てしまった。
「ロベルトはお茶よりお酒がいいって嘆いてた。それをメリルに叱られてたよ。ふふ、久しぶりに聞いたなあ」
「あの子の話?うん、もちろん一緒に過ごしたよ。ナイとカードゲームをしてね、でも僕の綿が詰まった腕じゃカードが持てなくて」
人間の子供のナイ。よく食べてよく眠り学校に通う、僕の兄にそっくりだけど遠い星の住人であるナイ・セイブレム。最初は僕のことを警戒していたのに、すっかり慣れてからかってくるようになった生意気だけどかわいい少年。そんな彼と一緒にいると、僕もシップで過ごした頃に戻ったみたいで楽しいのだ。……でも、忘れてはいけない。あの子供は僕のナイじゃない。だって僕の片割れはずっと昔にいなくなった。
ミリオンズ・ナイヴズは灰になって散った。彼を壊したのは――
空気がまた揺れた。僕を気遣う声だ。いけない、心配をかけてしまった。ごめんと口にすると、やさしい振動が返ってくる。
赤く発光するプラントは、ひどく疲れている状態だ。数百年働き続けて彼女も限界が近づいている。それでも寄り添えるはずだ。この身体に残った力は僅かでも、彼女の不安を少しでも取り除けるならそれでいい。
「大丈夫、僕がいるよ」
硝子越しに右手を重ねて、安心させるように笑った。瞼を伏せて歌をうたうと彼女と共鳴していく。視界が暗くなったらじわじわと眠気がやってきた。
(またナイに会いたい)
あの墜落の日から時間が流れた。たくさん歩いて、出会って、見送った。たくさんの命を奪ったことだってある。
夢に浸る自分を許せないのに、甘い誘惑に逆らえない。
糸を手繰り寄せるイメージをする。遠い星に手を伸ばせば、かちりとかみ合って接続した感覚がある。
目的である特別製の弾を回収し終えたら、夢は終わってしまう。やだなあ。まだ終わらないでくれ。昔、片割れをなくしたときに一緒に置いてきたはずの子供が駄々をこねてる。
眩しい白い光と、僕の名前を呼ぶ懐かしい声。ひとつきりの太陽は「馬鹿だな」なんて、わらってるかもしれない。
「おはよう、ヴァッシュ」