熾火「下がれ!」
竦んだまま動けぬ少女の肩を掴んで背後へと押しやれば、逃げることすらできずにその場でへたり込もうとする子供を、編纂者である女が抱き上げ、走り出す。
「周辺地域及び住民の安全確保のため、ギルドはテオ・テスカトルの狩猟を要請します!」
「……拝命した」
大剣を背から引き抜き、紅蓮に燃える魔獣を睨み付ければ、灼熱が頬を炙る。初めて対峙する相手を目の前にした時の緊迫だけは、何年が経とうと変わらなかった。
卑小な人間を睥睨する王の双眼には、黄金色の炎が揺らめいている。
「来るよ!」
オトモのニクスの甲高い警戒声を、耳を劈く咆哮が掻き消した。大気をびりびりと震わせる大音声に、僅か足元が崩れる。額を流れ落ちる汗に視界を遮られ、瞬いた――その時。
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