黒巌村拾遺①序章1
大通りを一本外れただけで、空気が変わったような気がした。
危険な感じとか、厭な雰囲気だとか云う訳ではない。静かさの割合が増した。そんな感覚を覚えたのだ。
看板のフォントさえ古色蒼然とした幾つかの店は、おそらく四、五十年前から営業しているに違いない。それらの隙間に、レトロモダンを模した小洒落たショップを無理矢理押し込んだような、どうにもちぐはぐなレイアウトの通りだった。
一応は『商店街』と云う看板が立っている以上、そう呼ぶべきなのだろう。昔はこちらのほうが大通りだったのだと、誰かから聞いたことがあるような気がする。
そんな商店街の一角に、そのビルはあった。
昔からある建物のままなのか、古い建築様式を真似て建てたものなのかは判らない。
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