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    柏木かしぎ

    たまに絵を描く。主に小説。
    普段はhttps://twitter.com/2_kashigiにいます。

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    柏木かしぎ

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    ユリフレ。ユーリの女装。

    麗しきフロイライン※ユーリの女装。


    「女を装うと書いて女装。読んで字の如く男にしかできないことだ。ならそれは一周回って最も男らしい行為だと、そう思わねぇか?」
    「そんな口車に乗せられた結果がこれか」
     ユーリはあくまで居直っている。ソファーの背もたれに両腕を預け、足を組んでふんぞり返る様は、その手の店にいる女王様か何かの様だ。つややかな長い黒髪は三つ編みにされてシニヨン風に結い上げられ、僅かに余った後れ毛が白いうなじによく映えて絶妙な色香を醸し出している。身にまとっているのは髪と同色の真っ黒なイブニングドレス。派手な装飾はないものの絹特有の光沢を放つ生地には細かな刺繍が施されており、紗を何枚も重ねた繊細な仕立ては彼が生来持つ線の細さをいっそう際立たせている。肩幅が目立たないのは首元に巻いた毛皮のストールでごまかしているからか。きちんと足を閉じて行儀良く座っていれば、彼が男だと誰も思わないだろう。そう、行儀良く座っていれば。
    「抵抗しなかったのかい」
    「首領に売られた時点でオレの命運は決まってたんだよ。目を輝かせて力説するエステルと面白そうだって笑うジュディを前にして逃げられるとでも?」
     そっぽを向いて、ユーリは真っ赤に紅を引かれた唇から小さく息を吐き出した。表情だけは憂いを帯びた淑女に見えなくもない。自由と自立を重んじるギルドでは騎士の様に上下のはっきりした社会で生きるストレスと無縁だと思っていたのだが、どうやらそうとも言えない様だ。
     騎士団長として、凛々の明星に潜入捜査の協力を頼んだのはフレンだ。下級貴族の令嬢が三人も行方をくらましている。いずれもヨーデルやフレンの貴重な支持者である家門の出身者だった。騎士としても現体制の人間としても放っておけない。同行者として囮捜査に協力してほしいと依頼したので、てっきりジュディスが来てくれるものだと思っていたが、当日の会場で彼を待っていたのは女装をした幼馴染だった。
    「確かに僕はジュディスを指名はしなかったけれど……」
    「オレもジュディがやるもんだと思ってたさ。けど、危険な任務の囮役を、年下の女の子にやらせる気? ってさ。そうまで言われてやらなかったら、男が廃るだろ」
     子供の様に頬を膨らませてユーリはそう言った。男としてのプライドを保つために女装をするとは、それはそれで倒錯的な気もするが。
     フレンは笑みを必死に抑えながらも、その足元に跪いた。切れ長のアイラインに彩られた宵闇の瞳が胡乱な視線を投げかけてくる。
    「拗ねるなよ。責任持って僕がエスコートしてやるから。さあ、お手をどうぞ、レディ」
    「おまえ絶対面白がってやがんな」
     赤い唇をへの字に曲げてユーリは恨めしく悪態を吐いた。フレンはここ数年評議会との応酬で鍛えられたアルカイックスマイルで「そんなことないよ」と白々しくも否定する。ユーリはもう一度息を吐き出すと、観念したのか、黒いレースの手袋で覆った手でフレンに捕まって立ち上がった。二人は赤い天鵞絨の絨毯の上をゆっくりと歩いていく。社交の場に疎いフレンのため、エステリーゼが事前に用意してくれた衣装の中には身長を僅かに高く見せるためのシークレットシューズがあった。そのおかげで、並び立つとユーリの目線の位置が普段よりもやや下にある。およそ五センチ程度。もともと百八十を超える長身の自分がなぜ更に身長を高く見せる必要があるのかと内心で訝っていたフレンは、ここでようやく納得した。今宵のフレンは、冴え冴えとした美貌の貴婦人をより美しく完璧に見せるための引き立て役なのだ。
    「ところでフレン、今日ってただの夜会じゃなくて舞踏会だよな。おまえ踊れんの?」
    「え」
     小さく囁かれて、フレンは歩みを止めた。すっかり忘れていた、と目が泳ぐ。
     今度はユーリが笑う番だった。彼は愉快そうに真っ赤な唇を釣り上げると、作り物の胸を叩いて自信満々に請け合う。
    「どーせそんなこったろうと思ったよ。エステルからどっちも教わってある。オレがリードしてやるから任せろ」
    「……よろしく頼むよ」
     どっちも、とは男女双方のステップを教わったのか。ユーリの態度は実に頼もしいが、フレンは複雑な気持ちだった。エスコートするはずの貴婦人にリードされるとは、果たしてどちらが本当の騎士なのだろう。愉快満面とばかりに微笑むユーリは変なことを考えていないか。一抹の不安をおぼえつつも、フレンはもう彼に恃むしかないのだった。
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