世界で一番憎いあなたと 聖歌もなければ、聖書の朗読もない。
祝福どころか揶揄いや冷やかしの言葉が飛び交うような状況で、ルックは双子の兄であるササライと共に、髪を撫でつけ、白いタキシードを身に纏って〝婚礼の儀式〟を前提とした祭壇の前に立っていた。
ルックは悪友達に、ササライは部下に、それぞれが言葉巧みに騙されて、この場へと連れ出されたのだ。
かつて、ルックはササライに〝あなたがこの世界で、一番憎い〟と告げていた。
それは決して嘘の言葉ではなかったはずで、当時は憎しみに勝る感情などないと信じていた。
憎んでいたはずなのに――。
複雑な心境故に憤ることもできずにただ黙り込むルックとは反対に、ササライは自身の置かれた状況に戸惑うわけでもなく、冷静に襟を正して「どうすればいいんだい?」と、司会を押し付けられたらしい彼の副官に向かって問いかけていた。
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