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    asagi

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    asagi

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    ゼロロイ。ロイドくんが花吐き病に罹った話。しょうもないギャグ。これはこれで好きだけど、二人の反応を私の好みに寄せすぎた感はある。

    #ゼロロイ
    zeroloy

    花吐き病 なんでかロイドが花を吐く病気にかかった!

     目の前の人間の口から花が吐き出されて、床に落ちた花びらが溜まっている状況をすんなりと信じられるやつってどれだけいるんだ?

    ――――オエッ

     部屋の中で談笑していると、急にロイドが苦しそうに眉間に皺を寄せた。そのまま全身を震わせて嘔吐くと口から花がぱらぱらと吐き出され、色とりどりの花が優雅に舞っている。ロイドの足元だけ春模様だ。どういう状況なのこれ?



    ――花吐き病。片思いを拗らせて罹る病気の一種。
     意中の人と両思いになるまで口から花を吐き続ける。両思いになれば花を吐くことはなくなる。この病に罹った者は自身の恋を言い出せず苦悩し、涙することだろう。今までの距離感を無理矢理変化させられる、ある種理不尽なものだからだ。しかし、勇気をもって前進すれば最愛を手にすることができるはずだ。
    ――乙女が知っておきたいバイブルから抜粋――



     花吐き病。これに罹った人は思い人へ気持ちが気付かれないように不安に苛まれるのが定石だ。言えないから気持ちが形を変えて口から花となって出てくる。こんなもんに罹るやつは大概臆病なんだよ。


    「おえぇっ、これ、花を吐くのがツラいというか、ゲホッ、ゲホッ、……くっせぇ〰〰〰〰!! 花粉がっ、喉に張り付いて、き、気持ち悪りぃ〰〰……!!」
     ご覧の通り花吐き病に罹ったはずの当の本人はこの通りピンピンしていて、素晴らしくおかしな状態にも関わらず軽口を叩く余裕さえあるようだ。悲壮感のかけらもなくて笑いを誘う。

     過去に読んだ書籍に花を吐く病気があるような記述があったような気がするが、詳しくは覚えていない。片思いを拗らせると花を吐くという事項は眉唾ものすぎて、当時の俺はさらっと読み飛ばしてしまった。

    「雄しべギンギンに働いてんな」
    「雄しべ怠けてるやつがいい!」
     男としては辛い話だぁ!チャンスがあるときはギンギンに行きたいよなぁ!
     まあその話は置いとくとして、受粉して実をつけたい花たちは花粉を飛ばすのだが、口から花を吐くというイカれた状況にはそぐわない。口の中が花粉にまみれるとか、ある人にとっては一種の拷問だぞそれ。

    「口の中から花の匂いが直接くるから強烈すぎて鼻がフローラルだぜ……」
    「フローラルロイドくんが誕生しちまった」
     ロイドが冗談めかして言うもんだからつい面白くなって、フローラルロイドくんを爆誕させてしまった。

    「なあ吐いていい? 吐いていい? フローラルゲロが出そう」
    「そこは花だろ!」
     畳み掛けるようにロイドが冗談を重ねてくる。
    「最悪だぁー!」
     ゲラゲラと腹を抱えて大声を出して笑った。
    「ふ、くく、ちくしょう他人事だと思いやがって!」
     ロイドくんも声笑ってるの押し殺せてねーじゃねーの。

    「昼食ったパスタが出ちまう……。今パスタ食ったらフローラルなパスタになるんだろうな……」
    「地獄だぁ〜!」
     花にまみれたパスタとか食いたくねぇよ。食える花じゃないなら食ったらまずいもんかもしれねーし。それに食中毒は怖いぞぉ。

    「そうだ、紅茶飲めよ。フローラルな紅茶だぜ天然の香料だぞ」
    「やだよ! 試したくねぇー!」
     食中毒は怖いと言いつつ面白がって紅茶を勧める悪い大人がここにいる。


    「ていうかなんで花なんか吐いてるんだよ……」
     ここにきてロイドが花吐き病について疑問を抱いた。状況に飽きてきたか、もしくは現実として腑に落ちたか。
    「好きな人がいるけど言い出せないとかそういう脆くて儚い話はねーのかよ?」
    「さっさと告白すればいいだけの話だろ?」
     あっけらかんとロイドが言い放った。
    「お前はそういうやつ!」
     期待を裏切らないぜ!

     正直、俺はロイドが花吐き病になってから戦々恐々としていた。なぜなら片思いを拗らせていたからだ!目の前にいるロイドに対して!
     花吐き病に罹ることを免れたことに幸運を感じている。好きだと言い出せないからしんどいのに、無理矢理気持ちを吐かせる状況に持っていかれるなんて俺なら耐えられない。


    「好きって言っちゃえよ」
    「他人事だと思いやがって」
     意中のやつなんかいないんだろ。それはそれで切ないもんがあるが。
    「あっ、花吐くの終わった」
    「まじ?なんか、あっけねーもんだな」
     一体なんなんだこの花吐き病ってやつは。
    「花吐き病なんておかしな話、あるわけねーよなぁ」
     だとしても花を吐く状況がやべーことには変わらないから、すぐに病院に連れて行って身体の隅々まで調べてもらいたい。ロイドのことが心配だ。
    「あとで病院行こうぜ。さすがに俺さま心配」
    「あ、ああ……」
     ロイドはこちらをちらりと見たあと視線を下げて考え込んでしまった。え、何?

    「なあゼロス。花吐き病が二人ともかかりそうだったら、どっちが先にかかるんだろうな」
    「あ?」
     なんだ急に。
    「きっと、より臆病なほうに出るんだと思うよ」
     普段の快活な雰囲気からはほど遠く、淡々とした口調でロイドが話を続ける。

    「花吐き病にかかるって話、俺はほんとだと思う。嘘ついてんのはどっちなんだろうな?」
     花吐き病が本当にあるなら、嘘ついてんのはロイドだ。

    「お前、は、……どう、思う?」

     ロイドの声が震える。怯えて伺いを立てるように聞いたことのないか細い声で。
     どうもご丁寧に私は嘘をついています、と告白されたようなもんだ。本心を暴いてくれ、そう言わんばかりに丸腰のまま差し出されている。
     顔を伏せているが、ロイドの耳が真っ赤に染まっているのがはっきりとわかる。

    「顔見せろよ、ロイド」
    「……っ」
     どんな顔してんだよ。なあ?
     ロイドの縮こまった肩を掴み、強引に振り向かせて顔を覗き込む。真紅に熟した林檎みたいに赤く染まった頬と、今にも泣きそうな瞳と目が合った。
     俺は今まで一度だって見たことがない。勇猛果敢に真っ先に飛び出していく普段のロイドからは想像もつかない表情だった。

     お前、そんな表情もできんのかよ。正直、グッときた。

     俺に、恋をして、ポンコツになったロイドが、なけなしの勇気で、こちらを試そうとして、いる。
     くく、俺みたいに情けない真似しちゃって。はあ、顔がニヤけてしょうがない。
     高揚感に心臓が昂ってドクドクと心音が場を支配したようだ。うるさい。うるさい!音が邪魔だ!ロイドに集中できないだろーが!

     珍しい態度のロイドを余すことなく目に焼き付けたくて、食い入るように一層深く覗き込んだ。

    「……やっぱ、なし」
     俺に踏み込まれるのを怖がったのか、ロイドが小さな声でぽつりと呟いてから腕を振り払って飛び出す。俺の目の前から逃げようと全力疾走し始めた。
    「おい、逃げんな、ロイド!」
     あんまり素早く逃げ出すもんだから驚いて目をぱちくりさせた。逃げ切られないようにロイドを慌てて追いかける。

     お前も、俺と同じように臆病者だって言うんなら確かめたい。

     好きだと一言だって言い出せない俺と何が違うのか。俺のことどんくらい好き?俺がロイドくんのことどんだけ好きか知りたくねえの?
     お前が満足するまで何度だって好きって繰り返すよ。もう十分、いっぱいだ!って恥ずかしがったって何度も何度も繰り返して満タンに、いやもっとそれ以上にしてやりてぇんだけど?

     追いかけっこ、上等!ぜってー逃がしてやんねぇ!捕まえて、吐かせてやる。楽しいなあ?ロイドを追い詰めたら好きの雨を降らせて、ロイドが恥ずかしくて逃げ出したくなったって、もう二度と逃がしてやんない。

     なあなあ、言ってくれるんだろ?俺は聞きたい。お前からの本音での好きの言葉を。期待させるだけなんて言わないよな、愛しのハニー?
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