再会《積怒》
自分自身への激しい怒りで立ち尽くす。
久しぶりに分かれられて自由を得た時の皆の様子が脳裏に焼き付いている。強制的に吸収してしまった時のもそうだ。本体を守るため、延いては皆を守るためだったのに 結局誰も守れなかった。判断の甘さ、自身の未熟さに腹わたが煮えくり返る。
皆の顔がみれぬ。言葉も出ない。
----
《可楽》
下二人の不安を少しでも減らそうと、いつも通りのふるまいに努めたがうまくいかない。まさか自分がこんなに動揺しているとは思わなかった。空喜の素直な心の叫びが突き刺ささる。
積怒から凄まじい念が圧となって伝わり心配になる。
「積怒…一人で背負うな。皆 お前を待っておる。」
と、口に出したところで 自分も涙声になり、首に顔をうずめた。
----
《哀絶》
今までにないほどの哀しみを感じている。でも、消えれば それも永遠に無くなるのなら…と放心状態だったが、可楽の下手な慰めと、無理矢理に貼り付けたような笑顔をみて、涙が溢れてくる。
離れていく可楽を見て空喜がさらに泣いた。空喜が幼いころどうやって宥めていたのか思い出す。
涙で冷たくなった頬を撫で、手を握りってやると、毎日卵を温めた日々や成長を見守ったあの頃が思い出された。小さい爪で必死にしがみついておったのう。
「空喜、泣くな。今までもこれからも、お前の哀しみは儂が、お前の怒りは積怒が引き受ける。可楽からは楽しいことをたくさん教えてもらったじゃろう?しっかりと思い出せ。」
そう自分にも言い聞かせた。
----
《空喜》
「嫌じゃ嫌じゃ!消えたくない!何とかしろ!何でこうなるのじゃ!」
現実を受け入れられず恐怖で当たり散らしてしまう。何故か、なんてわかっている。自分のせいだ。可楽でさえ愛想をつかしてしまったかもしれぬ。
ふと、ぎこちない動作で頬が包み込まれて、哀絶と目が合った。哀絶の言葉に、いつも皆に守られていたのだと強く感じた。優しく撫でられた爪がくすぐったかった。
---------------
---------------
空喜は耳が良い。積怒とともに戻ってきた可楽に安心したが、その涙声は聞き逃さなかった。そして、血が出るほど拳を握る積怒を見て飛びついた。
「すまぬ!!俺があの鬼狩りを仕留めれなかったから…!俺が皆の所まで連れてきてしまった…!でも俺、まだ…まだ兄さんたちと離れとうない…っ!」
積怒の胸で泣きじゃくる。
数百年ぶりに兄さんと呼ばれ、思わず額に手をやりうつむく積怒。
「お前のせいではない。空喜、お前は何度もこの翼で儂らを助けてくれた。皆に追いつこうと必死に鍛錬をしていたのも知っておる。お前は儂らの希望じゃ。」
力強く抱きしめた。涙を押し殺したその声に可楽は堪らずしゃがみこんだ。
空喜の懺悔、積怒の優しさ、可楽の涙に打たれ、哀絶も静かに口を開く。
「この名に込められた思いは果たせなかったが、どれだけ哀しくとも、皆と共にあった全てのことに後悔をしたことはない…。」
可楽は大きく頷き、背中をバシバシと叩いた。
この痛みは覚えておきたいと思った。
しかし残された時間は、もうわずかなようだ。
脚から消えてよろけた空喜を積怒抱いて座る。
「お前の元に戻ろうか。そうすれば皆一緒に…」
哀絶が吸収を提案した。
「いや、いい。最後までお前たちの顔が見たい。」
「照れるのう!」
抜け落ちた羽根だけはまだ消えていない。
「俺の羽根…持っておいてくれ。」
「ああ、そのつもりじゃ。」
「向こうで目印になるのう。」
「お前はこれを持っておけ。儂が一番にお前を見つけてやるぞ。」
嬉しそうに葉団扇の根付けに頬をすり寄せた。
-
「儂も哀絶を膝に座らせておけばよかったのう」
「恥ずかしいことを言うな…手だけで充分じゃ」
「そうかそうか!」
「哀絶、色々背負わしてしまったな。」
「気にしておらん…積怒の怒りを分かち合えたのは儂の特権じゃろう。」
二人の大きな手が心地よい。
体術も槍術もこの手に教わったのだ。
-
「お前とは長かったのう。寂しいか?」
「ああ。とても。」
「っ…。」
即答された。
「自ら守りたいと思うたのはお前が初めてじゃ。」
「今言うのはずるいの…。」
「ハハッ 最後くらい許せ。」
はにかんだ笑顔は自分とそっくりだった。
-
「一人か…。いや、」
僅かに内に残っている憎珀天に話しかける。
「よく頑張ったな。もう誰も憎まなくていいぞ。」
返事はなかったが、心が軽くなった気がした。
赤い彼岸花が見える。
『また皆と…』
(おわり)