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    NTI_Sui

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    NTI_Sui

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    ルメ璦 医者×ホストは至高
    共依存気味です

    捕食者と獲物同居中ルメ璦
    「ねえ、開けてよ。」
    その声は異様に甘ったるい声色だった。
    息絶えた獲物の前で舌なめずりをする様な。
    そんな格別に甘くも恐怖を感じる声。
    同時に気づいてしまった。
    その愚かにも捕らえられた獲物は自分だと。


    □□□
    某所の病院
    表向きは常に清潔感溢れる場所だが裏では幾つもの過酷な出来事が日常で溢れている。
    そんな出来事に翻弄される日々、それは誰であっても疲労が付き物だ。
    現在仮眠室に居る男も例外ではなかった。
    なだれ込んだのか皺が寄りぐちゃぐちゃのシーツの上で現実と夢を彷徨っている男…ルメリは燃え尽きていた。
    すぐに帰れる状態ではないと判断したのはどうやら正解だったようだ。

    病院にあるとは思えないほど薄い毛布を掛け目を閉じ直すと徐々に身体が重くなる。
    今は少しだけ…夢を堪能させて貰おう。








    目が覚めたのは日が変わる頃だった。
    我ながらよくこの硬いベッドと薄い毛布で寝れたものだと感心する程には、スッキリとした目覚め。
    軽く背伸びをし、更に頭を覚醒させた。

    次にスマートフォンを取り出す。
    初期設定のままの味気ない画面をスワイプし、たぷたぷとパスワードを打ちこむ。そして流れるような動作でメッセージアプリを開き通知がないことを確認する。
    (…この時間なら間に合うか?)
    と思い立ったが吉日。ピン留めしてある中の一人を選びメッセージを打ちこむ。




    『迎えに行っても良いか?』

    まだ就業時刻だろうか、と少し不安を抱えながら送信ボタンを押す。既読はすぐ付いた。
    数秒後『もちろん!』と謎のキャラクタースタンプが贈られてきた。なんだこのハゲ頭は。
    ふ、と声が漏れてしまっただろうが。
    仮眠室に誰も居ないことを確認してしてニヤけた口角を戻す。


    ふと、そういえばこうしてメッセージを送るのも久しぶりだったかもしれない。履歴を見てみれば2週間近く話していなかったらしい。
    メッセージでさえそうなのだから、実際に会ったのも何日と前だ。
    通りでメッセージを送ることに抵抗が殆どなかった訳だ。自分の無意識下の行いに今度は耳がじわじわと赤くなるのを感じた。
    そんな自分の反応を誤魔化すように前のめりになりながら迎えの場所を指定したメッセージを打ち込んでいく。その指が震えていることに若干の苛立ちも感じながら。



    □□□
    人1人歩いていない裏道に車を停める。
    同居人の勤務先は頭に入っているものの、この薄暗い通りを見ると毎回不安になってしまう。
    本人曰く付きまとい対策らしいが本当に対策出来ているのだろうか。足音で分かると言うがそれだけで心細くないのだろうか。
    余裕が出てきたのかそんなことを考えているとがた、とドアノブを掴む音がした。
    「お待たせ〜!結構待った?」
    快活な声とは裏腹に素早い動作で後ろの席に乗り込む。助手席は特に顔が見えてしまうので避けているらしい。
    「いや、丁度良い位だ。」
    「眉間に皺、寄ってるからさ」
    「…お前って本当に異常なほど観察力あるよな」
    「伊達にホストやってる訳じゃないってことだよ。キティって呼んであげようか?」と意地悪そうに笑うこの男、璦は同居人だ。
    ホストクラブで働いている璦は、売れているだけあって中性的で美しい顔をしている。
    透明感のあるやわらかな金髪の中にある紅梅色がよく映える。すれ違えば老若男女関係なく振り向かせてしまう魅力を彼は持っていた。
    「やめろ馬鹿。誰が子猫だよ。」
    「成猫ちゃんもいいかもね」
    「そういう意味じゃねぇよ…」
    そうだ、こいつはこういう奴だった。
    心細いなんて感情、こいつにはあるんだろうか。
    久しぶりの掛け合いも既に胃もたれしそうだ。
    「まあ、なんだ。お疲れ様。」
    このままペースに飲まれる訳にはいかない、ととりあえずの労いの言葉を掛けておく。
    「そっちもお疲れ様〜」
    と緩い返事が返ってきた。
    そのままスマホの確認をしていたので軽く合図を出して車のアクセルを踏む。


    「あ、そういえば冷蔵庫何もないからスーパーとかに寄ってもらっていい?」
    「それはいいが、珍しい気がするな」
    「いやねぇ、こっちも繁忙期であんまり買い出しとか行けてなかったんだよねー」
    「ああ、成程」
    どうやらお互い繁忙期を乗り越えた、言わば戦友だったらしい。
    「ねえ、リクエストしてよ。ルメ兄の為に作りたい気分。」
    「ハァ、お前それ今日客に言われただろ」
    「あは、バレちゃった。でも作りたいのはホントだよ」
    「…」
    狡い、と思った。
    愛嬌の具現化であるこの男は本当に人を狂わすのが上手い。あの仕事は天職なんだろう、と心から思った。







    その後は24時間営業のスーパーに寄り、探すコーナーを分担して食材を買い込んだ。
    風呂上がりのアイスを選ぶ時間が一番長かったように感じた。事実そうである。










    □□□
    家に着いたのは日が跨いだ頃だった。
    エレベーターを降り、ドアをガチャリと開ける
    「ただいま〜〜〜!!」
    「家に着くと疲れがぶり返してくるな…」
    「えぇー、じゃあ先お風呂入っちゃいなよ。
    あ、でもその前に急いで掃除してこないとね」
    と彼はさっきまで労働していたとは思えないほどの元気だ。
    繁忙期を共に乗り越えた仲だったはずなのに何故こうも差がつくんだ。歳か。
    そう軽く自分の老後に不安を抱えながらリビングへと入る。
    そして、彼が浴槽を掃除している間に使わなそうな食材を冷蔵庫へと詰めていく。
    (そういえば、いつの間にか一々聞かずに入れることが出来るようになったんだな)とまたもや物思いにふける。
    どうやら今日は相当疲れているようだ。スッキリとした目覚めと感じたのはあの一瞬だったらしく身体が重い。
    「ありがと〜後はやっとくからソファーで横になってなよ。先に薬とか飲んどく?」
    「ああ、お言葉に甘えておく……」
    「本業じゃない私の言うことを素直に聞くなんて相当疲れてるねー」
    冗談のような声色で言うが、どうやら本当に心配しているらしかった。
    この男が心配しているのだから相当疲れた顔をしているのだろう。
    ソファーに横になっていると程よい眠気が再発してきた。キッチンから響く包丁の音を子守歌に段々と意識が落ちていく。


    ……
    「ルメ兄、ルメ兄。起こしてごめんね。お風呂沸いたけどすぐ入る?それによってご飯完成させるタイミングが違うんだけど」
    「……ぁ?…ーん…ふろ、行く……」
    「はーい、これ着替えね。溺れないようにしてよ」
    「んー……」
    熟睡してたのか夢は見れなかった。
    ほんの数十分の睡眠だったはずなのに病院で寝ていた時とは大違いで確実に疲労が取れている感覚がする。
    ナチュラルに用意されていた着替え達を抱えてぺたり、ぺたりと歩き脱衣所の扉を開く。
    温かい湯気が脱衣所にも漏れているようで脱ぐ時も寒さで格闘せずに済んだ。

    時間を気にせず入れたのは久しぶりだった。身体の芯から温まったのか頬が少し赤くなった。
    そんな些細なことにも口元が緩む。
    リビングに戻ると璦はカトラリーを置き終えたようで、
    「タイミング、バッチリだったでしょ」と得意げにウインクをした。
    それからは遅めの食事をしながらお互い繁忙期にあった出来事を報告し合った。
    まるで、パズルのピースを合わせていくように、ここ数日空白だった所を埋めていくように。


    ひと段落つき、再びソファーに座る。
    今度はリモコンを押してテレビを付けた。
    時間のせいもあり、ニュース番組だらけだったので適当にチャンネル切り替えを止めて見てみることにした。
    最近のニュースなんて全然気にする暇もなかったからか全てが新鮮に映る。
    ただ、刺傷事件だけはどうにもいただけない。
    外科としては日常と化したはずなのに、身近な奴が絡むとどうも気が滅入ってしまうのだ。
    少しブルーな気持ちになっているとお風呂上がりの当の本人がリビングに入ってきた。
    「あれ、結構近くだね。
    ……ってこの子この前うちに来たことあるよ。じゃあ被害者彼氏さんとかなのかなあ」
    なんという爆弾発言。
    いや、ホストからしたらそちらが日常と化しているのだろうか。
    眉が引き攣った顔を彼から離せない。
    そんな俺を見て満足したように
    「冗談だよ」
    と璦は軽く笑ってみせた。それが嘘か誠かは置いておくとして全くもって笑えないが?
    「……おっっまえなぁ」
    と特大のため息をつくと流石に申し訳なく思ったのかぽすん、と隣に座り抱き締めてきた。
    「ごめんね〜。ルメリ先生のお陰で今日も元気でいれてるよ〜。」
    「当たり前だ馬鹿野郎…」
    「あはは、そういうところ好きだよ」
    またそうやって調子を狂わせる。
    この女ももしかしたら自分のモノに出来るかもしれない、そんな希望を持って勢いで彼氏()を始末しようとしたのかもしれない。
    全ては妄想の範疇だが納得出来てしまうのが恐ろしいところだ。
    「でさぁ、晩御飯の時に話しそびれちゃったことがあってね」
    少しずつ、じわじわと体温が離れていく。
    そして先程まで自分を抱き締めていたはずのその手には何かが握られていた。
    それはピアッサーだった。

    「開けて欲しいんだけど」


    「……は?」
    急な提案に抜けた声しか出なかった。
    今まで彼はそんなこと気にしたことがなかったはずだ。じゃあ何故?
    この2週間程の間で何か転機になるようなことが起きたのだろうか?一体どんな?
    そんな考えが脳を埋め尽くす。
    それを察したのか璦は再び口を開く。
    「やっぱりピアスも開いてる方がプレゼントで稼げるとか何とか言われちゃってね。店で開けたげよっか?って聞かれたけど断った。だってうちには専属の外科医さんがいるもんね〜」
    とさっきの冗談みたく軽く言ってみせる。
    今は璦お得意の口説き文句すら頭に入ってこない。
    「…?外科医さんに頼むのって普通じゃない?何も違和感なんてないと思うけど。」
    「それはそうだが……」

    (コイツの耳に、穴を…………?)
    ゾッとした。何故か。
    何故だろう。
    自然に彼の耳辺りに目が行く。
    何かに導かれるように透明感のある金髪を撫でて、耳へ掛けた。普段は隠れ気味の耳朶が外気に晒される。すり、と優しくそこに触れると頬を寄せてきた。




    それと同時に冷たくて張り詰めた空気を感じた

    「どうしたの、そんなに優しく触れて」
    璦の瞳孔は開ききっている。捕食者の目だ。
    「なんで優しく触れたの?何を感じてるの?」
    じわじわと追い詰める様な問答が続く。
    「俺、おれは……」
    何故ゾッとした?何故優しく触れた?
    要領を得ない言葉がひとつふたつと口から漏れ出る。璦はあの目を辞めない。

    「ヒントをひとつあげる。
    ルメ兄は私のこと好きなんだよ。勿論恋愛感情としてね。」


    すき



    好き、
    「好き……?」
    その言葉を理解した途端芋づる式に感情の整理がついてきた。
    好きだから理由を知りたいと思った。
    好きだから、傷つけたくないと思った。
    好きだから、自分以外に彼が変わる理由が欲しくないと思った。
    では何故恐怖を感じたのだろうか。
    それは、
    「……嫉妬」
    口に出すととても馴染んだような気がする。
    誰かに取られてしまうのでは、という焦る気持ち。なんと女々しいのだろう。


    それを聞いた璦は満足そうに口に弧を描く。
    「ねえ、開けてよ。」
    再度璦が呟く。
    今度は俺の首を手をまわしながら、身体全体を俺に乗り上げるような形で。
    「誘惑」という言葉が脳内で点滅する。
    その声は異様に甘ったるい声色だった。
    息絶えた獲物の前で舌なめずりをする様な。
    そんな格別に甘くも恐怖を感じる声。
    同時に気づいてしまった。
    その愚かにも捕らえられた獲物は自分だと。

    狂わせるのが上手い、そんなことを自覚している自分は特別だと思っていた。否、思わされていた。
    結局はコイツの思うままなのだ。

    空気を吸うことすら忘れていたのか息切れを覚える。浅い呼吸しか出来ない。
    しかし耳からは手が離せなかった。
    嫉妬という言葉だけが脳内で巡った今は寧ろ爪を立てていた。ここ数週間、ろくに整えられていない爪で。
    傷つけたくないはずなのに、何故こんなことをしているのだろうと思う。彼は言った。
    「そんなに生ぬるいものじゃないでしょ。それは独占欲。人間の一番黒い部分をしっかり理解するんだよ。」
    「独占欲……」
    真実まであと少しというところで霧がかっていた部分が冴える。
    独占欲、成程。
    これがこんなに狂わせているのか。
    コイツは気付かれずにどうしてここまで入り込めたのだろう。

    「理解したようで何より。
    …でもすこし痛すぎるかなあ」
    「……あぁ」
    冴え渡った頭ではすぐにその言葉を理解することが出来た。代わりに彼の腰へ手を回し自分の身体へと寄せた。
    「えへへ、試すような真似しちゃってごめんね。だって全然気づいてくれないんだもん。」
    鈴を転がしたような跳ねた声で話す。
    「実はね、ピアス開けてなんて誰にも言われてないんだよ。この会えなかった期間で寂しくなっちゃってさ」
    その声は冴えた頭にすっと溶ける。



    「痛くてもいいから、一緒心に残る出来事を身体に刻んで欲しい、そう思ったの」
    なんだ、お互い様か。自分でさえこんなにドロドロとした感情を持っているのだ。感情が読めそうで全く読めないコイツは一体どんな独占欲を隠しているのだろう。
    そんなことに思考を寄せながら二人は長い夜を過ごした。


    …アイスは朝に持ち越されたようで璦の焼くパンケーキのお供で頂いたそうな。
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