その窓、覗くべからず「『狐の窓』? へぇ、そんなものがあるのか」
「うん、簡単に説明すると特定の手順で指を組んでからその間から覗くと相手の正体を見破る事ができるってモノなんだけどね」
うんざりするほど暑い夏の日、午前の授業が終わった合間の昼休みの屋上。
いつものように屋上で相棒――神咲渚と食べている。
まぁ、正確に表現するなら今は『いい子』の方であるナギとだが。
こいつは普段、優等生である『いい子』を演じている。
主に学校やテレビの外ではそうしていて、その時は『ナギ』と名乗っている。
そして今俺は神咲(正確にはナギ)の作った弁当を食べている。ちなみに今回は竜田揚げ。
こいつの作る料理はいつも美味しいから、弁当を持って来た日は楽しみにしている。うちの女子達はこいつを見習ってほしい、本当に、マジで、心の底から。
神咲の作ってくれた竜田揚げを食べながら『今日も相変わらず暑いな』と呟いたら神咲が『なら怖い話でもしようか?』と聞かれた。
こいつも怖い話とかするんだな~と少し意外に思いながらも、気になって聞いてみた所で今話してる『狐の窓』の話になった。
「その後に~『魔性のものか、化生のものか、正体を表せ』って言いながら組んだ指の間から覗くと正体が見えるって感じかな」
「なるほどね、それで覗いたら幽霊とかが見えるって事か?」
「う~ん、幽霊とは少し違うかな。『狐の窓』ってあくまでも相手の正体を見破るモノだからね。幽霊って別に化けてるわけではないからさ」
「あ~、確かにな」
言われてみればその通りだ。
幽霊って化けたりするより呪うとか祟るとかの方がイメージあるし。
「そもそも幽霊は『狐の窓』で覗かないでも普通に見えるよ? ナギの知り合いの幽霊はお魚が欲しいって言ってたし。ちなみにお魚あげたら宝石と交換してくれるから今でもたまに会いに行ってるよ」
「いやお前幽霊と知り合いなの しかもなんでサラッと幽霊と物々交換してんの それ本当に大丈夫なやつなのか」
「お~、相変わらずのいいツッコミだね。さすが陽介」
いや、いいツッコミじゃねーし俺は今それどころじゃないんだよ。
お前幽霊見えるのかとか気になったけどそれより気になる事が出てきた。
まずなんで幽霊と知り合いになっているんだ。ならないだろ、普通。
あと幽霊がなんで魚を要求してるんだ。なぜ魚なんだよ。猫にでもあげるのか。
そしてなぜこいつは素直に幽霊に魚を渡しているんだ。釣りの帰りにでも出会ったのか。
宝石もらったとか言ってるけど、その宝石呪われてないだろうな?
「え? うん、大丈夫だよ? 別に悪意とか感じなかったし、悪霊とかではないと思うから平気だよ」
「いや、『平気だよ』って……もうその話自体が既に怖い話だわ」
「あはは~まぁ、とにかく幽霊は見える人には普通に見えるらしいからね~。そういう話の方がよかった? ごめん、ナギはそっちの怖い話は詳しくなくて……」
「あ、いや、別にそんな気にしなくてもいいって」
少し申し訳なさそうな顔で神咲は言った。そこまで真面目に考えなくてもいいのにな。そういう所はこいつらしいけど。
「それで? その『狐の窓』っていうのはどんな感じでやるんだ?」
俺が話の続きを促すと、神咲も気を取り直して話を続ける。
「『狐の窓』はね、まずこうやって両手でキツネさんを作って~、右手の小指を左手の人差し指に重ねる。それから右手の小指を左手の人差し指に重ねて、左手の小指を右手の人差し指に重ねた後、全部の指を開く。そうしてできた手の隙間から覗きながらさっき言った『魔性のものか~』って呪文を唱えると相手の正体が見えるよ」
神咲は器用に説明しながら手を組んでいく。
それを見ながら俺も同じ様に組もうとしてみたが、上手くいかない。
あれ? これなんか違くね?
「えっと、ん? あれ、なんかおかしいな……?」
「あはは、まぁ、最初はそうなるよね。えっとね……」
自分でやってもなんか上手くできないから、もう一度やり方を教えてもらう。
見本も見せてもらいながら何とか組む事ができた。
おぉ、やっとできた。こんな感じなのか。
なんか思ってよりも隙間って小さいんだな。これを覗くのか? でも本当これだけで見えるのか?
「ほら、これで完成だよ。隙間、結構小さいでしょ?」
そう言って神咲は自分の組んだ『狐の窓』を俺に見せる。
あまり日焼けしていない白い手だった。
そんな白い『狐の窓』越しに、一瞬だけ向こう側の神咲の顔が見えた。
――金色の目とそれを覆う様な銀色の鱗も。
それは、本当に一瞬だった。
俺が瞬きした次の瞬間には、もう神咲は指を解いていた。
当たり前だが、もう一度顔を見た時には何の変わりもない顔だった。
目は金色じゃないし、銀色みたいな鱗なんかあるわけない。
……俺の見間違いか?
例えば、目の色は光の加減とかで、鱗はこいつの髪の毛がたまたまそう見えただけとか。まぁ、そういう事も有り得なくはない……と思う。
……あるいは、この『狐の窓』が本当で。
目の色も鱗も、見間違えなんかじゃない可能性も、ある。
どっちが正しかったのかは、今俺が組んでいる指の隙間を覗けば、わかるのだろうか?
そう思った俺は、無意識に――。
「――ダメだよ、陽介」
「……え?」
俺が指の隙間を、『狐の窓』を覗こうとしたらその視界が塞がれた。
神咲がそっと俺の手の上に自分の手を載せている。
内心ものすごく驚いた。正直ビビった。
「ダメだよ、うかつに覗いたら。言ったでしょ、『正体を見破る』って。……何が見えるか、わからないよ?」
笑顔で穏やかに、子供に言い聞かせる様に、俺と目線を合わせて言う。
表情だけ見れば間違いなく笑ってるのに。笑っているはずなのに。
なぜか俺には無表情でこちらを見据えている様に見えて。
それがとても――怖く感じた。
……俺の前にいるのは、誰、いや『何』だ?
反射的に、本能的に、そう思ってしまった。
こいつは、神咲渚で、今は『いい子』のナギで、俺の相棒で。
目の前にいる相手なんて、わかりきっているはずなのに。
「教えた後にこう言うのもズルいかもしれないけど、あまりこういう事は気軽にしない方がいいよ? もし万が一にもヤバいモノが見えたら困るでしょ?」
「ヤバいモノって……、まさか、本当に見えるのか? その、『正体』とかが?」
「さぁ、どうなんだろうね~? ナギも実際にはまだやった事ないからさ~。でも……」
一瞬、不意に神咲の表情がスッと消えた。
「『そういう事』をするならそれなりの覚悟がいると思うよ? それこそ何があっても全部『自己責任』でね」
「それ、は……」
「ほら、もしこれが本当なら、相手の正体を見破った瞬間に襲われるかもしれないよ? ホラーなゲームとかなら実際にありそうじゃん? まぁ、ナギはゲームしないからわからないけどね、あははっ」
ケラケラと神咲は笑っている。
でも、俺は同じ様に笑えなかった。きっと今の表情は引きつっているだろう。
「……あれ、どうしたの陽介。顔がこわばってるよ? そんなに怖かった?」
「あ、いや、まぁ……。怖かったっつーか、なんて言うか……。お前が話すと、妙に迫力っていうか説得力があるって感じてさ。まるで――」
本当はお前が人間じゃないみたいで。人に化けた『何か』ではないか、と。
正直に言ってしまえば怖かった。
『狐の窓』の事そのものではなく、その話をする神咲の方が。
……なんて事は絶対に本人には言えないけどな。
「なぁに? まるで? ……何?」
「……いや、なんでもねーよ」
「なんだよ~、気になるじゃんか。そんなふうに言われるとさ~」
「気にすんなって、別に、その、大したことじゃねーしさ。な?」
「むぅ……。まぁ言う気がないならいいや。無理に聞くつもりはないし。あぁ、ところでさ、どうするの? それ」
「え?」
神咲の目線の先には、まだ俺が組んだままの『狐の窓』がある。
「もう覗くの止める? ――それとも、『オレ』の事覗いて見るか?」
そう静かに問いかける。
俺が組んだ、『狐の窓』。
この『窓』で覗くと何かが見えるのか、そもそも本当に見えるものなのか。
何があっても『自己責任』。神咲はそう言った。
もし本当に見えるなら、神崎を覗けば『神崎の正体』がわかるのだろう。
渚が見えるのか、それとも渚のシャドウか、あるいは別の……。
きっと、先程俺が見た目の色や鱗の答えも。
興味が無い、と言えば噓になる。だからこそ。
俺は、俺、は――。
そっと、その指を解いた。
「いや、覗くのは止めておくわ」
「あれ? そうなの? 他の人間なら絶っ対に許さないし、許すつもりもないけど、陽介なら全然いいのに」
「そうだとしても、俺は覗かねーよ。俺なりに考えたけどさ、やっぱりこういうのって無理に見るのはなんか違うと思うし」
「違う?」
「例えばだけどさ、テレビの中で見た俺や他の奴らのシャドウみたいに、見られたくないものって誰にでもあるだろ? それを本人が自覚してるかは別にさ。それを無理やり見るっていうのは、やっぱり違うと思うからな」
「……へぇ、なるほどね。確かに陽介の言う通りだ」
「それと同じなんだよ。姿にしろ本音にしろ、勝手に見ていいものじゃないだろ。そういうものをわざわざ覗き見る趣味は俺にねーし」
「あははっ、そっかそっか! そうだね、覗きは良くない事だもんねぇ」
俺の出した答えを聞いて満足したのだろうか、神咲は愉快そうに笑う。
でも、俺の答えはまだ終わってない。まだ言わなきゃいけない事がある。
「それとさ、もし仮に『狐の窓』が本当で、その『窓』でお前を覗いた時にお前がどんな姿でもさ、……俺はずっとお前の相棒だからな」
「――――え?」
その言葉を聞いた神咲は、驚きで目を見開いてる。
「俺は別に『いい子』だったからとか人間だったからでお前の相棒になったわけじゃないからな。だから、もし人に化けた『何か』だったとしても俺とお前の関係は変わらないからな。あの時、俺のシャドウを見ても否定しないでくれたようにさ。それは、絶対だから」
「………………」
神咲は驚いた表情のままだ。でも視線はずっと俺を見続けている。
俺も神咲もお互い黙り込む。遠くで鳴いている蝉の声がやけに響いている気がする。
あ、あれ? もしかして俺、何かマズい事言ったか?
沈黙が続く中、そんな考えがよぎる。
そう思うと汗が首筋を流れた。それは暑いからか、それとも冷や汗か。
というか待てよ、そもそも俺……。
よく考えたらめちゃくちゃ恥ずかしい事言ってねぇか
いや、別に噓でも間違いでもないけど! ないけどさぁ!
だってこいつに噓言ってもすぐバレるから!
なら言わない方が良かったか? 黙っていた方が良かったのか?
でもそれじゃ、ダメな気がしたんだ。
あのままで終わらせるのは違うと思ったから。
だから言った。それだけ、ただそれだけなんだ。それだけなんだけど!
うわ、なんかもうすっごい恥ずかしい。いろんな意味でマジで恥ずかしい。
俺、この空気に耐えられないかも。もう今すぐどこかに隠れたい。
なんて事を思っていたら。
「ふふっ、あははっ! あはははは!」
「……えっ?」
急に神咲が笑いだした。心底おかしそうに、でもどこか嬉しそうに。
俺はポカンとした顔でそれを見る。
「んふふ、あぁ、ごめんね。急に笑っちゃって、ふふっ。でも、嬉しかったからさ」
「嬉しかった?」
「うん、嬉しかったんだ。すごく嬉しかった、陽介にそう言ってもらえて。今までそんな事言われたことなかったし。まぁ、そもそもそんな事言ってもらえるほど、他人とは関わってないからね。だからちょっと不思議な気分。でも、『いい子』じゃない時の、『渚』の時を見ても変わらずに接してくれてた陽介の言葉なら信頼できる、だから――」
ありがとう。
神咲は俺を真っ直ぐ見て、先程の笑っていた時とは違う顔で笑っていた。
あまり口角が上がってないからわかりずらいし、人によってはそう見えないかもしれないけれど。
その顔は優等生の『ナギ』を演じているような、大げさな笑顔や貼り付けたような笑顔じゃない。
とても自然な笑顔だった。
それは仲間以外の人前や外では滅多に見る事のない、こいつの素の表情。
そんな表情で面と向かって感謝の言葉を言われると、先程とは別の恥ずかしさがこみ上げてくる。
こいつ、相変わらず感謝や好意はストレートに伝えてくるな。
聞いてるこっちが恥ずかしくなる。いや、別に悪い事でも間違った事でもないけどさ。
でも、俺の言いたい事は伝わったようだ。なら、よかった。
「にしても陽介は優しいね~。優しいから騙されそうで心配。……なんで優しいのにモテないの?」
「おい! 最後の一言は絶対にいらねーだろ! その一言言う必要あった」
「ごめん、つい気になっちゃって……。だって優しいイケメンってモテるって聞いたから。陽介もイケメンなのに、どうしてモテないのかな~って」
「褒めてるのか貶してるのか、せめてどっちかにしてくれよ……」
「あぁ、落ち込まないで、ね? 陽介はイケメンで優しいよ! だから大丈夫!」
もしかしてそれは褒めているつもりだろうか。微妙にずれている気もするが、一応こいつなりに褒めてくれているのだろう。多分。
「しかし、人間の心ってのは複雑だねー。優しいってだけでは好かれないからさ。わからないものだね。ナギは今でも心理学の本を読んでるけど全然ダメ。理解はできても共感できない。特に恋愛関係が」
「え、恋愛? お前そういうのに興味あんの?」
「いや、別に。買った本にその項目があったから読んだだけだけど」
思いっきりバッサリと否定された。まぁ、あまり他人に興味ないこいつらしいけど。
だがこの話題をこのまま終わらすのはもったいない。
あまりこいつの口からそういう話は聞かないから、前々から気になってたんだよな。
もう少し踏み込んで聞いてみるか。
「でも男なら誰だって、一度は女子にモテてみたいって思うものだぜ? 男の憧れっていうか、ロマンっていうか。お前も実はそんな事思った事あるんじゃねーの?」
「え、ないよ。全くない。そもそもどこの誰かもわからない、不特定多数の顔も名前も知らない人間から一方的な好意を向けられても全く嬉しくない。むしろ気持ち悪いからやだ。はっきり言って関わらないでほしいし関わりたくもない」
再びバッサリと否定された。しかもさっきよりも露骨に嫌そうな表情で。
そ、そこまで否定しなくても……。
「ナギ……渚が好きなのは特捜隊のみんなだけ。だから相手が特捜隊のみんななら、ものすごく嬉しいけど。ナギも渚もみんなの事は大好きだから」
「お前って本当に俺ら以外に対しては結構毒舌でドライ、……つーか冷めてるよな。とてもあの人前で見せる優等生な『いい子』のお前の言った言葉とは思えねーわ。ていうか俺、もう少し人に歩み寄れってこの前言っただろ? あと俺ら以外の奴を『人間』呼びするのもやめろって」
「わかってるよー。でもそれとこれは別なの。ナギも渚も、誰かにモテるより自分が好きって思った人に好かれたいの。その人もナギや渚の事ちゃんと見たうえで好きでいてくれたらそれでいいもん。それだけで充分。それ以外の人げ……、人なんかに興味はないから」
神咲はそう言って、少し拗ねた様な顔をしてそっぽを向く。
たまに子供みたいな事はするな、こいつ。
……あ、そうだ。ふと気になった事を聞いてみる。
「なぁ、例えばだけどさ。もしお前に好きな人ができて、その相手もお前を恋愛的な意味で好きって、それこそさっき俺が言ってたみたいにどんな姿でもお前の事が好きって言う奴が現れたらどうする?」
「は? いるわけないだろ、そんな人」
「まぁまぁ、例えとしてさ。で? どうよ?」
「え、えっと、う~ん……」
神咲は考え込むようにうつむく。
神咲は単純に他人に興味がないわけではなく、一応こいつにはこいつなりの基準というものがあるというのはわかった。
どうやら沢山の人に好かれるよりは、ちゃんと自分の事を見てくれる人に好かれたいタイプみたいだな。
気持ちも言いたい事もわかる。まぁ、こいつの場合はちょっと極端過ぎるが。
自分が好きな人以外に無関心。それ以外は知ったことじゃない、みたいな。
でも、逆に考えれば。
「いる、の、かなぁ?」
「いないとは限らねーぜ? もしかしたらまだ出会ってないだけかもしれないだろ?」
「う~ん、あんまりうまく想像できないけど……。そもそも俺に対してに限らずそういう事言う人がそういないと思う。もちろん、本当にそういう相手がいるなら嬉しいけど」
「いやいや、気がついてないだけで案外近くにいるかもしれねーぜ? ちなみにお前ってどういう子がタイプなんだ? かわいい系か?」
「……さてはそれを聞くのが目的だったな」
ジトっとした目で神咲がこっちを見る。『真面目に考えてたのに』とか言ってるけど、俺だって真面目に聞いてるっつーの!
だってお前のそういう話全然聞かねーんだよ! 気になるじゃんか!
興味ないから知らねーだろうけど、お前そこそこ女子達の間で噂になってるんだぞ。
どうせ本人に伝えたって『あ、そうなんだ~』の一言で終わるだろうけど。
それに、もしこいつに恋愛的な意味で好きな人ができたら。
俺ら以外の他の人にも興味を持つきっかけにもなるかもしれないと思ったから。
つまり、好みのタイプとかを聞くだけが目的じゃないから! そういう意味で聞いただけだから! ……そんな目で見ないでくれ。
「――だから、陽介の言葉は嬉しかったのに」
不意に神咲が呟く。
「え?」
「さっき『狐の窓』の話した時言ったじゃん。もし人間じゃなかったとしても相棒だって。関係は変わらないって。本心でそう言ってもらえて、すごく嬉しかったんだよ」
確かにそう言ったが、改めて聞くとやっぱり少し恥ずかしいな……。
「あれほぼ告白みたいなモノだよね。よかったね、相手が人間じゃなかったら気に入られて『神隠し』に会って、どこかに閉じ込められて行方不明になるところだよ。優しいのも考えものだね……あ、これが優しいだけじゃモテないって事か。やったぁ、今少しだけ人の気持ちがわかった気がするよ」
「いやそれはぜってーに違うと思うぞ。お前が理解したのは人の心っていうよりむしろ人じゃない奴ら方の」
「陽介。夜道と背後、あと不自然な隙間には気をつけてね」
「なんだよ、その不安になるような言い方! やめろよ! お前が言うと冗談に聞こえないんだよ!」
こいつがそういう事言うとマジにしか聞こえないから本当に怖い。
しばらくは夜に出るのは控えよう。うん。
そんな事を考えたら昼休み終了のチャイムが聞こえてきた。
軽い言い合いをしながら、二人して慌てて弁当を片付けて教室に戻る。
バタバタ授業の準備をして、何とか午後の授業の先生が来る前には自分の席に着く事ができた。
ほっと一息つく。
……神咲の正体がなんであろうと関係ない。
俺にとっては大事な相棒だ。
それに、案外そこまで気にする事でもない気がする。仮に人間に化けてた何かだとしても、不思議具合で言えばクマも似たようなものだしな。
そんな事をぼんやりと考えていたら、先生が教室に入って来た。
先生が黒板に書いてる文字を神咲の背中越しに見ながら、午後の最初の授業が始まった。