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    きしみ

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    きしみ

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    🍊夢 生徒夢主(何も起きない) 最後に出てくる本は『女生徒』です

    おやすみなさい。 布団を持ち上げて、体を滑り込ませる。シーツのひんやりした感触に、きゅっと全身を縮こめた。やがて布団に体温が馴染んで、羽化したむしが翅を広げるように体を弛緩させていく。
     目を閉じながら、今日あったことを思い返す。

     人気のない廊下。遠くにポケモンや生徒の声が聞こえる。窓枠に手をかけ、腕を突っ張るようにして伸び上がる。それから上体を窓の外に傾けてー……。
    「危ない!」
     後ろから声が飛んできた。足を廊下の床にぺたんと付けて、振り返る。金色の瞳と目が合った。
    「ハッサク先生」
     先生は大股でずんずんとこちらに向かってきた。先生が右手に抱えた紙袋ががさがさと音を立てた。怒られるだろうか。
    「身を乗り出しては危ないですよ。何をしているのですか」しかし先生は困ったように眉を寄せて、私に問いかけた。
    「すみません先生、私、窓の外を見てました」
     焦って言い訳を捲し立てる。背中が汗ばんでいく。
    「ほら、ここから裏庭が見えるんです。あそこで遊んでいるポケモン達も」
    「そうでしたか。ですが、夢中になって覗き込んではいけませんよ」
     先生は窓枠に寄りかかるようにして外を見遣り、真下を見つめた。西日が先生の顔を照らして、頬骨や眉骨の陰影がくっきりと見えた。案外彫りが深いんだなと思った。
    「この高さから落ちては、骨を折ります」
     真剣な顔をしてそう言った。
    「ここは眺めがいいですね。小生もたまにここを通りますが、いやはや気がつきませんでしたよ」
     先生は右手の荷物を軽く持ち上げ、美術室への近道なのだと笑った。
     その後、ここから美術室への道のりを丁寧に説明してくれ、「いつでも遊びに来てくださいですよ」と残して去っていった。
     もしや先生は気付いたのだろうか?いやきっと違うだろう。背中の汗がひやりとして、体温が下がっていく。私は先生に対して少しがっかりした。

     幸福は一夜おくれて来ると、この間読んだ本にあった。本当だろうか。来るかもわからないものに期待をして、毎日を只管、只管……。
     糸で引っ張られるようにして、すとんと身体から意識が抜け落ちるイメージ。眠りにつく瞬間は、死と似ているのかもしれないと思う。
     あの主人公は、朝はやるせないと言った。それは、眠りの淵に微かな期待があるからだ。待ち望んだものが訪れなかったことに、私は毎朝がっかりする。

     先生は知らない。知ることができない。下着に密やかに咲く薔薇の刺繍を。この棘めいた心を。

     それでも、やはり先生は正しいのだ。本当に落っこちてしまおうなんて考えていなかった。飽きるほど繰り返してきた日々に、ほんの少し刺激が欲しかっただけだ。私はただ、身を乗り出してみただけだ。

     意識が遠ざかる。明日もあの廊下をハッサク先生は通るだろうか。ふと、そんなことを思った。
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