私の箱庭あれはそう、ファントムが私の前に現れる少し前までのことだ。
私はごく偶に夢を見ることがあり、その内容も舞台もいつでも決まって同じ場所であった。
淡い色をした青空の下、昼下がりでも少し肌寒い風と青々とした草の匂い。
そして母から習ったばかりのピアノの曲を口ずさむ幼い私の声。
そしてその傍らには何の濁りのない柔らかな笑みを浮かべた母の姿がそこにあった。
その場所は母と暮らしを共にしたあの家の庭だったのだ。
偶にある事も年数を重ねて事象が続けば常へと変わるもので、何度もその庭を訪れるうちに私は、はたと気づいたのだ。
あれは私の「幸福」の姿なのだと。
――時は経ち、濁りきった情念全てを注ぎ込んであの男を追いかけている中で、美しい情景は粘ついた感情で塗りつぶされていった。夢を見ることも無くなった。
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