とある団員の二度と言えない暴露※モブ聖竜騎士団団員が沢山出てくる
戦場での酒の席には深い意味と役割がある。美味しい食事そのものに活力を沸かせる力があり、上下の隔てない席を設ける事で結束力を高める事ができる。そんな酒の席では時折暴露大会が開かれる。大会、とは言えど誰かが主催・企画するようなものではない。酒でタガが外れた奴が普段は言わないような事を言い始めるのが暴露大会の始まりで、それに釣られたまた別の酔っ払いが続いたり、大して酔ってもないのにそのノリに便乗する奴が現れる。こうして暴露に暴露を重ねたものが暴露大会なのである。
「誰々の顔が怖くて最初ビビってた時期がありました」というようなものから「実は遠征続きでこの間帰ったら嫁が別に居を構えてた」なんてものまである。多少の無礼も酒の席なのだからと笑い話で済まされるし、済ますのが暴露大会だ。当然酒の席とは言えど故意の軍規違反や不正は許されない。そして、これは聖竜騎士団に限った話なのだが──
「ディオン様に一夜のお情けをいただきたいと思った事があるッ!」
「ぅえっ!ゲホッゴホッ!」
「ばっっっ!おまっっっっ!!」
「なんだよ、何人かはいるだろ?」
酒の入ったコップを振り回しながらそう言った男を酔いが回っていない団員、いや、酔いが覚めてしまった団員達がなんとかそいつの口を閉じさせようとする。皆戦場で命を賭して戦う覚悟はとうに出来ていても、こんなところで酔っ払った仲間のせいで命を落とす覚悟はできていない。
「盛況だな」
冷え切った声が背後から聞こえ、皆一瞬身体を硬直させたが1人の勇敢な竜騎士が振り返る前になんとかその馬鹿な発言をしてしまった男の口に酒瓶を直接突っ込む。
「テ、テランス様じゃないですか、珍しいですね暴露大会に参加されるなんて」
「気になる話が聞こえた気がしたのだが、何の話だったか教えてもらえるか?」
未だに冷え切ったままの声に一瞬静まり返るが、聖竜騎士団の中でも一際若い男がビッ!と手を伸ばして挙手し少し声を震わせながら宣言した。
「ぼ、僕が!ディオン様に焦がれて剣から槍へと持ち替えた話をしていました!」
嘘ではない、酔いきった男が「一夜のお情けを」などと言い始める前は実際その話をしていたのだ。目見麗しく竜騎士としても申し分のないディオンに憧れる兵はなにも彼だけではなかったが、それでも得物としていた剣から槍に持ち替えてまでとなると相当ミーハーであり、そんな自分を曝け出していたのだ。幾らミーハーとは言えど聖竜騎士団に所属出来る程までに腕を磨いたのは確かで相応の努力をしてきたのだから暴露大会に相応わしい、ちょっと笑ってしまうような可愛いらしい暴露だったのだが、よもやその後の暴露があんな事になってしまうとは誰も想像もしなかった。
「……そうか」
ふ、とテランスの声が柔らかくなり、若いその騎士に「これからも励んでくれ」と激励を送るとそのまま去って行った。テランスの姿が見えなくなると若い男の周りにワッと人が集まり、「よくやった!」と揉みくちゃにされる。こうして、暴露大会を経て、聖竜騎士団はまた新たな絆を作ったのだった。
そして、なにより暴露大会であっても決して言ってはいけない事があるのだと痛感したのだった。