待ち合わせ場所に立っているとふと、自分の吐いた息が白む事に気づく。辺りを見渡せば、陽が沈んで本来なら真っ暗になるはずの街中が眩しい程に明るく輝いて、もうそんな時期かと思う。そう思えるぐらいにはこの世界でも長い月日を過ごして馴染んだのだとも思う。
　ザンブレク皇国の国教であるグエリゴール全教の祭がある時はいつもドミナントとして畏まった服を着て厳かな場に立っていた。だが、街中は大抵賑やかで露店も沢山あったと思う。自分がその場に向かう事は無かったが、部下が楽しそうにしていたのは覚えている。
「ディオン！」
　聞き慣れた声に名前を呼ばれて顔を上げれば、やはりと言うべきかテランスがこちらへと駆け足でやってきた。

テランス…記憶あり。ディオン（とジョシュア）に再会するまで前世の人に会った事は無かったが、ずっとディオンを探してた。お仕事頑張った甲斐あってディオンが会いに来てくれたかと思ったら記憶が無くてちょっと混乱した。
ディオン…記憶なし。ジョシュアは初めて出来た同い年の友達。街中で見かけたテランスのポスターをきっかけに、ジョシュアの手伝いもあってモデルになった。だが、学生として学業を本業にしておりそこまで活動はしていない。

ジョシュア…記憶あり。ジルとはご近所さん（ジル一家が引っ越してきた）。ジルが記憶を持っておらず寂しさを感じつつも幸せに暮らしてる様子に安堵して過ごしていた。寄宿舎に入ってからは暫く会っていなかったが、帰省したタイミングでジルがクライヴと並んで歩いていたところからクライヴとも再会する。ヨーテにも会えたらなと思っているが、テランスやディオンみたいに芸能界へ足を踏み込むつもりは今はない。

カメラの中3秒間だけ僕らは「そういえば、中村先生が小林先生のこと探してましたよ」
　いまひとつ納得のいかないまま、卒業アルバム用の教員撮影を終えた俺に、星先生が言った。
「え、そうなんですか。何の用だろ」
「３年生の進路関係の資料を直接渡したいだとか言ってましたけど……小林先生、バレー部の練習でよその体育館に行ってるから、昼ぐらいには出てくるんじゃないかってお伝えしておきましたが……」
「ああそうか、俺３年の教科担任入ってるからかな……」
　中村先生は３年２組の副担任であり、倫理担当の先生だ。なんだかよくわからないが、俺のことを何かにつけかわいがってくれている（と思っている）。
「じゃあ社会科資料室覗いてみます。ありがとうございます」