兄さんが好きだった。昔からずっと。優しくて、強くて、自慢の兄さんだった。僕だけのナイトだった。
「ジョシュアー!」
笑顔で僕の名前を呼んでくれる、抱きつけば抱きしめ返してくれる、大好きな兄さん。だけど、この想いがただの親愛じゃないと気づいた時にはもう遅かった。
兄さんはジルに僕とは違う感情を視線に乗せていた。まだ結ばれてなかったけれど両想いなのは子どもでも分かった。それに、仮に破局したとしても僕は次期太公として嫁取りから逃れられなかった。
だから、気づいた時にはもう遅かったんだ。
御伽話か現実か
フェニックスは不死鳥、死んでまた蘇る。ならこうして今世に世を受けたのはフェニックスの力によるものだろうか。前世とは似ても似つかぬ世界だけれど、鏡に映る自分は前世と瓜二つだった。前世の記憶が小さい頃からあり、それがあまりに強烈だったので本名よりもジョシュアと呼ばれた方がしっくり来た。
強烈だったのは記憶だけでは無かった。兄さんへの愛情、肉欲、執着心、そんな真っ当とは言い難い感情がやたら自分の中に残った。
だからいつどこに行っても、兄さんの、クライヴの影を追った。僕がフェニックスの力で転生したのだとしたら、兄さんも転生しているはずだと信じて疑わなかった。それに今世の僕に兄はいない。つまり、今クライヴに会えれば今度こそこの想いを伝える事が出来るんだ!
何歳の時にクライヴを捜し出したか覚えがないので、もう何年経ったか覚えがない。絶対居るはずだという確信はあったが、子どもがいける範囲にはいないかも知れない。前世と違って大層健康だけれど、チョコボもおらず小さな手足だけで動ける範囲は狭すぎる。
(早く大人になりたい)
そう思いながら中学生になった時だった。入学式、たったそれだけの行事を終えて、お迎えの保護者がごった返す。なかなかに生徒数の多い学校の為、両親とはなかなか合流できず、大人しく人波が穏やかになるのを待っていた。
「クライヴ……?」
一瞬見えた横顔が、心底待ち望んだクライヴに見えた。細かい事は全部吹き飛んだ頭で、人波の中を突き進んで名前を呼ぶ。
「クライヴ……クライヴーッ!」
小さな身体では人波には逆らえきれなくて、手を伸ばしながら叫ぶ。いやだ、もう二度と離れたくない。どこにも行かないで。
声が聞こえたのか、祈りが通じたのか、兄さんがゆっくりとこちらを振り返る。あぁ、クライヴだ。クライヴだ!!!
「君は、」
「クライヴ……!」
何と言ったらいいのか分からず、名前だけを繰り返し呼ぶ。あぁ、前世で18年ぶりの再会を果たした時を思い出す。身体が小さいからか、感情に引っ張られて思わず泣きそうになるのをなんとか堪える。
「えぇと、その名前を知ってるって事は妹の友達、なのかな?」
「……え?」
考えもしなかった答えに思わず固まる。記憶が保っていない可能性は当然考えていたが、クライヴと呼ばれて「妹の友達」と思い込まれるとは思わなかった。そもそも、クライヴに妹?
「クライヴ」
背後から聞き覚えのある声がした。懐かしい声だ。周りは騒がしいのにいやにしっかり聞こえた。
「ジル、彼が俺をクライヴと呼ぶんだが友達か?」
ジル。ゆっくりと振り返れば、確かに記憶通りの姿のジルがそこにいた。同じ声、同じ姿、その上所作までも。きっと彼女は中身も「ジル」なのだろう。
「ジョシュア……ええ、クライヴ、私の大事なお友達よ」
「やっぱり、妹がいつも世話をかけるな」
混乱して頭の中がうまくまとまらない。妹?ジルが?クライヴの妹?そんな、だって、2人は恋人だったはず、
「昔と立場が逆ね」
ジルが自嘲気味に笑った。