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    ある・R18

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    ある・R18

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    しょ〜りのめがみ/猫になった指揮官君とア

    ##ニケ

    「指揮官、失礼します」
     そう言ったラピの後ろにアニス、ネオンとカウンターズが続いて指揮官の部屋に入室した。だが、いつもならそこに居るはずの部屋の主人はいない。指揮官直属のニケであるカウンターズなので多少のスケジュールは把握しており、今日はこの部屋で書類仕事のはずだ。急な用事でも出来たのかと置き手紙やblablaを確認するが、特にメッセージはない。どうしたのだろうかと思って辺りを見渡せば、ベッドの中で何かがもぞりと動く。普段ならばそれが指揮官だと思うだろう。
     だが違う。圧倒的に質量が足りない。3人とも何も言えずにそちらを凝視する。その指揮官の頭よりは幾分か大きいそれはモゾモゾとシーツの中で蠢くとやがて姿を表した。
    「……猫?」
    「にゃっ」
     短毛で毛並みの良いその猫はピョンとベッドから飛び降りるとラピ、アニス、ネオンの3人の足に擦り寄った後、ドアをカリカリと掻いた。
    「……指揮官の行方も気になりますが、ハッピーズー部隊に連絡をとりましょう。この猫の事が分かれば、指揮官の事も何か分かるかもしれないわ」
    「そうね……」
    「そうですか?私、閃いてしまったんですけどおそらく」
     ネオンが言いかけた言葉をアニスが手で塞ぐ。もが、と喋るのを邪魔されて、言葉にならなかった音が終わるとアニスは必死の形相でネオンを見た。
    「言わないで、本当になっちゃいそうだから」
    「にゃー」
     ネオンの返事より先に猫が鳴く。まるでもう手遅れだと言わんばかりに。



    「執事、どうしてそんな姿してるにゃん?」
    「くんくん、本当だ!訓練士さん、なんで猫になってるんですか?」
    「わぁ、不思議ね」
     ラピとアニスの僅かな希望はハッピーズー部隊が指揮官室に来るなり最初に放たれた言葉によって木っ端微塵に砕かれた。
    「どーしてこんな事になっちゃったわけ?」
    「にゃん、にゃー?」
    「にゃにゃ」
    「執事はそもそも記憶がだいぶ曖昧になってるみたいだにゃん」
     ネロと指揮官(猫)がにゃあにゃあと会話する中これからどうするかとカウンターズが話していると、指揮官はまたみんなの足の間をするりと抜けた。
    「指揮官?」
    「師匠にしては甘えたがりみたいな事しますねぇ」
     指揮官(猫)は足の間を抜けるとまたドアをカリカリと掻いた。ハッピーズーの3人は顔を見合わせたあと、ネロがひょいと指揮官(猫)を抱き抱える。
    「行きたいところがあるらしいにゃん」
    「そうなの?」
    「ここから遠いから連れてってほしいみたいにゃん」
     ハッピーズー、特に猫に関しては誰よりも詳しいネロがそう言うなら間違いないのだろうと、ネロに翻訳を任せる形で皆で指揮官(猫)が行きたい所へと向かう。
    「アークにいくにゃん?」
    「にゃん」
     前哨基地からアークへと繋がる道へと行きたがり、ようやく理解してくれたのだと分かったらしい指揮官(猫)は尻尾をたしたしとネロにぶつけながら反応する。
    「この先……中央政府に行くにゃん?」
    「にゃん」
    「……なんだか嫌な予感がしてきたわ」
     同じ要領で中央政府へと向かっていく道中でアニスが暗い顔をしながらそう言う。そう、この中でアニスだけが知っているのだ。指揮官が淡い恋心を抱いている相手がそこにいるのだと。
    「執事、本当にここにゃん?」
    「にゃー!!」
     今までで一番元気な声で指揮官(猫)がそう鳴くと再びカリカリとドアを掻く。その部屋はアニスが予想した通りの人の部屋だった。その部屋にはその場にいたどのニケも入った事はないがさすがというべきか、当然というべきか、誰の部屋なのか名前が掲げられていた。
    【アンダーソン副司令官室】
     副司令官の部屋なんて直接の部下でもなんでもないニケ達がアポイントメント無しに入るにはかなり躊躇われるものがある。なんせ中央政府なのだ。指揮官とずっといると忘れがちではあるがニケの扱いは酷いものだと言う事を叩きつけられる、そんな場所だ。
    「にゃぁああ!」
    「どうしてもはいりたいらしいにゃん」
    「まぁそうでしょうね……はぁ、分かったわよ。腹括ってやろうじゃないの!元に戻ったら炭酸水100本は奢ってもらうんだからね!」
     アニスが覚悟を決めて副司令官室をノックすると、意外にも名乗るより先に「どうぞ」と返事が返ってくる。アニスが促されるままにドアを開けると指揮官(猫)が隙間からパッと飛び出して行く。
    「ちょ、指揮官様っ!?」
     釣られるような形でアニスが大きくドアを開けると、ちょうど指揮官(猫)がアンダーソンの膝の上にトンと飛び乗った。終わった、とアニスは言いかけたがなんとか飲み込み、失礼します、と言って中に入る。その猫が自分たちの指揮官である事をハッピーズー部隊の証言を含めて伝える。
    「荒唐無稽だな」
    「あ、はは」
     アニスがですよねぇ、と言って引き下がろうかと思った時先に言葉を続けたのはアンダーソンの方だった。
    「彼はいつもそう言うところがあるからな」
     アンダーソンは膝の上に乗る指揮官(猫)を腕の中に抱えると擦り寄った指揮官(猫)にキスを落とした。
     これがただの猫相手ならうわー、サマになってるわねーで済んだものの、アニスの心境としてはいったい何みせられてんだ、と言ったものだった。
    「それじゃあ……解決策が見つかったらお伺いしますので、あとは指揮官様の事をよろしくお願いします」
    「あぁ、任せなさい」
     アニスは失礼します、と言って部屋を出ると外で待っていた面々が神妙な面持ちでアニスを見ていた。
    「……とりあえず預けてきたわよ」
     アニスに詳しく説明する気力は残されていなかった。





    翌朝、いつも通り指揮官室で炭酸水を飲もうとしたアニスがふと指揮官のベッドを見る。指揮官(猫)はアンダーソンの元におり、ここにはいないのだが、その跡となっている布団の膨らみを見てとある事に気づく。
    (あれ、指揮官様の服じゃない?)
     確かに、指揮官(猫)は服を着てはいなかった。アニスは元に戻る術が見つかった時はあの服を持って行かないと大惨事になるわね、と面倒ごとの気配を察知していた。
     そう思っていると指揮官室の入り口が開く。カウンターズの誰かが来たのだろうとそちらを見れば顔面を両手で覆った人間の指揮官がそこにいた。前が見えていないだろうによろよろと不確かな足取りで、けれど一直線にベッドへと歩いていった。
    「昨日の俺に何があったんだよ……!!!」
     指揮官はベッドの前で膝を折ると布団に顔面を伏せた。その後ろ姿をみながらアニスは猫の間の記憶はないんだなというのが1割、人間に戻れたようでよかったというのがら4割、今着てる服はアンダーソン副司令官の服なんだろうな……というのが5割で頭の中を占めていた。
    「なんで副司令官のベッドに全裸でいたのか全く覚えがないんだ……!!昨日の記憶がまるっとないのに!酒の過ちですらないんだが!?「そう言う事は一切なかったから安心しなさい」って逆に何があったんだよ……!!」
     アニスは何も覚えてないなら炭酸水100本奢りは難しいだろうな、なんて片隅で思いながら、仕返しに勝手に1人で頭を悩ませて想いを吐露し始めた指揮官を肴に炭酸水を飲んだ。
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