猫の休息「ジョシュア、様?」
不死鳥騎士団の宗主とその警護を務める者として、絶えず傍らにいたというのに思わず疑問符をつけて名前を呼んだのはいつもとあまりに様子が違ったからだ。
大部分は変わらない。けれど、けれども。その頭についた獣の耳、背後でゆらりと揺れる髪色と同じ尻尾。そして、そして、
「にゃあ?」
気を失うかと思った。
いや、思わず呆然としてしまったのだから、本当に気を失ったようなものだった。だが、ざり、と頬を舐められてようやく意識が戻る。
「ジョ、ジョシュア様!」
従者として恥ずべき事だとは思ったが、思わず慌ててしまったのは、現在の状況にある。ベッドの上でジョシュア様に覆い被さられているのだ。どうにか抜け出そうと肩を押しながら上半身を起こし、ずるずると這いずっていると肩を押していた腕を捕られて手の平をべろりと舐められる。
「ひ、ぇ……」
顔が赤くなっている自覚がある。だって、なんで、今までこんな、猫の事は差し置いても、こんな密着する事なんて、殆どなかった。
そうだ、だからコレは正気ではないのだ。猫の本能みたいなもので、ジョシュア様が望んでやっているわけではないのだろう。捕られた腕を振って、今度こそ離れないとと思ったが腕が全く振り払えない。中身は猫なのに身体は頑張って鍛えてきたジョシュア様なのだ。
「離してください」
「なぁーご」
ぐるる、と喉を鳴らしながらジョシュア様の頭が私の首元に降りてきて、ぐりぐりと頭を押し付けられる。そのまま頭が降りてきて私の胸を枕にするような位置で止まった。2.3回頭の位置を細かく調整しようとするみたいに頭がふにふにと胸の上で揺れる。
そこでようやく腕を掴んでいた手が離れていくと、腰に両手を回され、どっしりと太腿の上に乗られてしまい全く動けなくなる。
「ジョシュア様……」
一応名前を呼んでみるが反応はなく、ただご機嫌である事を証明するように尻尾がたしたし、と左右に揺れている。その途中で尻尾がぶつかっているのが私の脚だと気づいたようで脚にすりすりと尻尾が絡む。
これは本格的に動けなくなってしまった。
「どう、しましょう……」
すぅすぅ、と穏やかな寝息だけが胸元から聞こえてきた。