隣り合わせの平行線 隣り合わせの平行線
小さい頃から慣れ親しんだ家を離れる。見送りが終わったことを確認すると、途端に身体を駆け巡ったのは緊張を解いたことによる安堵ではなく、強い消耗感だった。
「疲れたな…」
「そう?俺は楽しかったけど」
こちらが大きく溜息を吐いているというのに、いけしゃあしゃあと言ってのける。じろりと視線を向けるも逆効果でしかなく、睨む表情がまたツボに入ったのか、男は笑い声を更に大きくするだけだった。
「そりゃそうだろうね。君、ずっとチヤホヤされてたし」
「当たり前でしょ。音信不通気味だった息子がやっと連れて来た相手なんだからさ、そりゃテンション上がるに決まってるって」
「うっ…」
嫌味の一つでも叩きつけないとやってられない、そう思っての言葉だったが、返ってきた正論に図星を突かれ、呻きにも似た声をあげる。その様子に男はまた腹を抱えたが、ひとしきり笑って満足はしたようだった。
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