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    みやもと

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    文置き場

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    みやもと

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    素朴な疑問の話

     神竜リュールは悩んでいた。
    「どうかされましたか、神竜様」
     自室にいたリュールの元へパートナーであるパンドロが訪れたのはつい先程のこと。そこまで思い悩んでいた様子を見せたつもりはなかったのだが、パンドロはリュールの様子がいつもと違うことにすぐ気づいたのだろう、寝台に座るリュールのすぐ側に腰を下ろすと心配そうな顔でこちらを案じてきた。
    「パンドロ」
    「何かお悩みでも? 無理にはお聞きしませんが……人に話して軽くなることもあります、オレで良ければお話を聞かせてください」
     リュールを見つめるパンドロの瞳は慈しみに溢れている。元より懺悔を聞くことの多い彼だからこそ、こうして他者の気持ちに容易に寄り添ってくれるのだろう。だが。
    (果たしてこれを話してもいいものなのでしょうか……)
     悩みの内容が内容なだけにリュールもつい逡巡してしまう。だが、他でもないパンドロが尋ねてくれているのは逆に好都合とも言えるだろう。それにこのままでは解決しない問題だと腹を括り、意を決してリュールは口を開いた。
    「……実は、あなたに訊きたいことがあったんです。パンドロ」
    「オレに?」
     目を瞬きつつも、パンドロの表情が不安げに曇る。もしかして自分が悩みの原因なのではと推測し申し訳ない気持ちになったのかもしれないと、リュールは慌てて手を振った。
    「いえ、パンドロが何かしたとかそういうことではないんです。ただ、少し確認しておきたいことがあっただけで」
    「確認……ですか?」
     小首を傾げたパンドロに、リュールははい、と頷きを返す。よし、と改めて気持ちを整理し、話を切り出すことにした。
    「パンドロは……、……声を……出さないですよね」
     少し声を潜め、リュールは真剣に尋ねてみる。しかし言葉が足りなかったのか、パンドロはぱちぱちと何度も目を瞬いていた。
    「は、はい……? 声、というのは……」
     確かにこれでは何のことか分からなくても仕方がない。妙に気恥ずかしさを覚えて濁したのがまずかったと思い直し、リュールは言葉を足した。
    「……私たちが、……睦み合っているときに、です」
    「っ、!」
     すぐに思い当たったのか、パンドロの顔が見る見る赤く染まっていく。あまりにも真っ赤になるものだからリュールもつられて赤くなってしまい、暫し二人とも黙り込んでしまった。
    「……それは、その……あまり良くないから、でしょうか」
     だが、このままでは折角話を切り出した意味がない。ここはきちんと確認しておくべきだと、改めてリュールは質問をしてみる。
    「え、あ、いや」
     真っ赤な顔のまま視線を泳がせたパンドロに、自分が想定していた通りだったのだと判断して申し訳なさにリュールはそっと息を吐いた。
    「やはりそうなのですね。薄々そんな気はしていたんです。私はすごく気持ちよくて堪らないんですが、受け入れる方のパンドロには負担なだけではないかと……」
     思えば当然のことだ。受け入れる為には準備が必要で、それがそう簡単なことではないと理解もできる。本来は快楽を得られる箇所ではないのだろうし、苦痛を覚えていても仕方がないだろう。それなのにパンドロは文句のひとつも口にせずにいつもリュールを受け入れてくれていたのだと思えば切なささえ覚えた。
    「ち、ちが、……」
     パンドロは相変わらず真っ赤な顔をして、何かを言いたげに口をぱくぱくと動かしている。だがリュールはそれに気づかず、うん、と頷き自分の考えを提案してみることにした。
    「でも、私だけが気持ちいいんじゃ駄目だと思うんです。ですからパンドロも気持ちよくなれるようにしましょう」
     どうすればいいのか方法は考えていないが、二人で摸索することも必要だろう。張り切って告げたリュールに、パンドロが慌てた様子で口を挟んできた。
    「ままま、待ってください、し、神竜様」
    「どうされるとパンドロは気持ちよくなれますか? 何なら今からすぐに試してみて」
    「ま、待ってください! ……待ってください、……」
     制止の言葉をかけてくるパンドロに、今度はリュールがきょとんと目を瞬く。
    「パンドロ……?」
     小首を傾げて尋ねると、パンドロはやはり赤い顔のまま必死にリュールを見つめてきた。
    「……神竜様は、その……誤解、されています」
     絞り出すようにしてパンドロが告げてくる。その瞳は心なしか潤んでいるようにも見えた。
    「誤解?」
     しかし誤解というのはどういうことだろう。首を傾げたリュールに、パンドロはひどく言いにくそうにしながらも言葉を足した。
    「オレが、……良くない、と……」
    「いえ、それは事実ですよね? だってパンドロは最中に全然声を」
     もし気持ちいいと感じていたら自然と声が出てしまう筈だ。だから何もおかしなことはないだろうと考えるリュールに、けれどパンドロは何度も首を横に振った。
    「違うんです。……良くないなんてことは、なくて……」
    「え?」
    「……すごく、良い……です。むしろ、良すぎてどうにかなりそうっていうか……」
    「そうなんですか」
     あまりも意外な発言にリュールは思わず大きな声で尋ねてしまう。パンドロは居たたまれない様子で身体を縮ませながら、はい、と消え入りそうな声で頷いた。
    「……あなたに触れられると、オレは……その、……めちゃくちゃ、……感じて……しまうので……」
    「え……?」
     更に告げられた言葉にどきりとさせられ、リュールは思わず息を呑む。まさか、感じていないどころかその逆だと、パンドロ本人の口から聞けるとは。
    「だからいつも、……すごく、……気持ちいい、です……」
     懸命に羞恥を堪え、誤解を与えない為にパンドロは偽りのない思いを伝えてくれる。本当は感じてくれていたという事実もさることながら、パンドロのそのひたむきさにリュールは強く胸を打たれた。
    「パンドロ……」
    「……ご、ごめんなさい、オレ……こんな、……恥ずかしい、んですけど……」
     うう、と小さく呻き、今にも湯気が出そうなほど顔を赤くしてパンドロは俯いてしまう。
    (そう……だったんですね……)
     改めて胸に刻むと感慨がより深くなり、目の前のパートナーへの愛おしさが募る。良かった、と心の中で呟いてから、ふと今度は別のことが気にかかった。
    「い、いえ……、……でも、それなら……どうしてあまり声を……?」
     感じてくれているのなら声が出てもおかしくないのではないか。素朴な疑問をぶつけると、パンドロは困った様子で視線を泳がせていた。
    「う、……」
    「パンドロ?」
     明らかに言葉に詰まった様子を見せるパンドロに、もしかして言いにくい理由なのだろうかと思案を巡らせる。それなら無理に言わせるのは酷だろうかと考えたところで、パンドロがおずおずと話し始めた。
    「……あ、の。……オレ、……声が、良く通ってしまうので……」
    「え?」
    「声を出すと……外に聞こえるんじゃないか、と……」
     言われてみてから、そういえば、と思い当たる。パンドロと親しくなってから彼のことをしたためた仲間手帖に、軍の中で一番声が良く通ると記載したことを。ということは。
    「もしかして……我慢、してたんですか?」
    「……はい……」
     申し訳なさそうにしながらパンドロがゆっくりと頷く。いじらしいその姿を見ていたら心なしか頬が熱くなった気がして、リュールはどきどきしつつそっと頬を押さえた。
    (どうしたらいいんでしょう。なんだか……)
     ひどく落ち着かない気分になってしまう。考えていた以上にパンドロは自分のことを想ってくれていた。知っていたつもりでも、改めて露わにされる事実に否応なく心が揺らされる。
    「そう……だったんですか……」
     噛み締めるように告げると、彼に向かう気持ちがより強くなっていく。込み上げた愛おしさは、リュールの心を高揚させるのに充分すぎるほどだった。
    「あの、ですから……本当に、良くないとかは全然」
    「わかりました。でもパンドロ、安心してください!」
     気恥ずかしさを抑えつつ改めて心配は必要ないのだと伝えてきたパンドロに、けれどリュールは浮かれた気分のまま明るく声をかける。
    「この部屋、見た目はとても開放的ですが防御はしっかりしていますし、当然音も洩れないようになっています」
    「そ、そうなんですか?」
    「はい。何の心配も要りませんよ」
    「そ、そう……なんですね……」
     リュールの言葉を聞き、パンドロはやや居たたまれなさを見せながらも取り敢えず笑顔を浮かべる。ここからが肝心だと、リュールは彼の手を取りしっかりと握りしめた。
    「ですから、パンドロ」
    「え?」
    「これからは遠慮せずに声を出してください」
    「え、えええ」
     リュールの提案にパンドロはこれでもかと驚き声を上げる。しかしリュールは構わず更に畳みかけるように話を続けた。
    「私はパンドロの声をいっぱい聞きたいです。パンドロが気持ちよくなっていることも、感じてくれていることも、全部パンドロの口から聞かせて欲しいです」
     今まで聞くことができなかったのだから、これからは思う存分聞かせてほしい。そう思い告げたリュールに、パンドロはあからさまに動揺した様子を見せた。
    「し、神竜様 そ、それはちょっと、」
    「駄目ですか?」
     いい提案だと思ったのだが、何か差し支えるようなことがあったのだろうか。眉を下げたリュールを見て、パンドロはひどく困った様子で言葉を紡いだ。
    「だ、駄目ではないですけど、でも」
    「良かった。じゃあ、沢山聞かせてください」
    「え、や、あ、あの」
     パンドロはまだ動揺し口をぱくぱくさせているが、駄目でないと分かっただけで充分だ。満足してリュールはにっこりと微笑み、ずっと赤いままのパンドロの頬に手を触れさせた。
    「早速聞かせてください、パンドロ」
    「早速 そ、それって今すぐってことですか」
     はい、と言ってキスをすれば、パンドロが更に驚き慌てた様子を見せる。リュールが駄目ですか、と目で訴え小首を傾げると、ううう、と呻きながら何かに耐えるようにぎゅっと目を閉じていた。
    「っ、わ……わかりました! 謹んでお受けいたします!」
     半ば自棄になったように思えなくもないが、覚悟を決めたらしいパンドロがこちらに抱きついてくる。はい、と笑いながらその背を抱き、改めてキスするべくリュールは愛しいパートナーに顔を近づけた。
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