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    みやもと

    @1e8UANtebd93811

    文置き場

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    みやもと

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    リュパン/逢いたくて寂しかったことを自覚する話

     気が抜けてしまった所為か、無意識にはあ、と大きなため息が零れ落ちてしまいリュールは軽く口を押さえる。いけませんね、と心の中で呟きひとり苦笑を浮かべ、久しぶりに目的を定めずソラネルの地をゆっくりと散策することにした。
     ここのところ何故か微妙に忙しく、のんびり過ごす時間を持てていなかった。これがあからさまに多忙というのであればまだ気合の入れ方も違ったのかもしれないが、そこまでではない用事がいくつも重なった結果あまり時間が取れなくなる、ということの繰り返しだったように思う。勿論ひとつひとつ大切な用事だったので疎かにすることはできず、神竜様でなければ、と言われたら当然無碍にできる訳もなかったので少し張り切りすぎたところはあったかもしれない。
    (とはいえ、そこまで忙しかったという訳でもなかった筈なのですが……)
     過密なスケジュールにならないよう配慮してもらえたお陰で、食事はきちんと取れていたし睡眠も充分足りている。身体の不調はなく問題になるような事も特に思い当たらない。それなのに何となく物足りないような、満たされないような感覚がどこかにあって、そんな自分をリュールは不思議に思った。
    (なんでしょう……何が……)
     いくら思考を巡らせてみてもこれという原因に至らない。不調はないと思ってはいたが先程ため息が出てしまったこともある、意識せずとも疲れがあったのだろうか。今日は早く休んだ方がいいかもしれないと考えたところで、ふと視界の端に何か引き寄せられるものを感じた。
    (……あ)
     無意識に視線を向けた先で捉えた、見知った人影。それが誰かを認識し僅かに跳ねた鼓動を感じるとほぼ同時に、相手もこちらに気づき息を呑んだのが分かった。
    「神竜様!」
     リュールの姿を目にしてパンドロがぱあっと満面の笑みを浮かべ、すぐにこちらへと駆け寄ってきた。
    「お戻りだったんですね。お疲れさまでした」
     リュールを見つめるパンドロの瞳が輝いている。パートナーである彼はいつも嬉しそうにこちらを見つめてくれるが、それが何故か今日に限っては一際きらきらして眩しいほどに見えた。
    「ソラ」
     パンドロの腕の中に抱えられていたソラが、リュールを見て同じく嬉しそうに鳴き声を発している。ついパンドロのことにばかり注目してしまった所為で、ソラがいることに気づけなかった自分にリュールは驚きを覚えた。
    「オレが歌っていたら、小鳥たちだけではなくソラ様まで引き寄せてしまったみたいで……」
    「そうだったんですか」
     どこかはにかみつつパンドロがソラを見つめる。
    「歌い終わった後もお側にいてくださったので、ずっとお相手をお願いしていました」
     パンドロの言葉に頷くように短く鳴いてから、ソラが腕の中から飛び出しリュールの足元にじゃれつく。しゃがんで軽く何度か撫でてやると、パンドロも側にしゃがんで嬉しそうにソラを見つめていた。
    「きっとソラ様もお寂しかったんですね」
     呟くように言う、パンドロのその表情にもまた目を奪われる。
    「神竜様、ここのところずっとお忙しくされていましたし。……オレも、神竜様にお逢いできなくて……少し、寂しかったです……」
    「……パンドロ」
     次いで告げられた言葉に胸がきゅうっと締め付けられる。気持ちをうまく言葉にできないままリュールが見つめていると、僅かによぎった切なさをすぐに隠しパンドロがにこりと微笑んでみせた。
    「ごめんなさい、変なことを言ってしまいました。今こうしてお逢いできたのでもう大丈夫です」
     言って笑う、そこに偽りや誤魔化しがないことは分かっている。だからこそ寂しかったというのがパンドロの本心で、それに触れたからこそ漸く理解できた感情があった。
    (……そう、ですね。……私も……)
     何かが足りなくて満たされないと思っていたもの。リュールは、パンドロに逢えなくて寂しいと感じていたのだ。だからこそ今こうして側にいて目にする彼をひどく眩しく、愛おしく思っているのだと。
    「……私も、寂しかったです。あなたに逢えなくて」
    「神竜様……」
     自覚すればいとも容易く言葉が口から零れ落ちる。告げたことで改めて自分の中にあった感情を知り、だからこそ側にいられる今をとても大切に感じられた。同時に、強く込み上げてやまない衝動があることにも。
    「パンドロ」
     立ち上がり、リュールはまっすぐにパンドロを見つめる。視線を合わせるべく立ち上がったパンドロがはい、と頷いたのを見て、僅かに汗ばむ手を握りしめ感情のままに口を開いた。
    「今……すごくあなたのことを抱きしめたいです」
    「え、」
    「……ぎゅっとしても、いいですか……?」
     パンドロが頬を染めつつ目を瞠る。僅かに視線を泳がせてから、改めてリュールを見つめてきた。
    「……はい」
     こくりと頷き、パンドロが微笑む。少し恥ずかしそうな表情はそのままに。
    「……あなたの、お好きなようにしてください」
    「パンドロ……」
    「オレは……あなたにされるのなら、いつでも嬉しいです……」
     そしてはにかみ微笑んだまま、パンドロが両手を広げてみせた。
    「ど、……どうぞ」
     しかし照れは拭えなかったのか、若干ぎこちなさが見え隠れしている。そんなところさえも愛しく堪らない気持ちになりながら、リュールは手を伸ばし思いきりパンドロを抱きしめた。
    (……あ……)
     馴染んだ匂い、腕の中にある身体の感覚。触れたことで改めて深く実感を得る。足りなかったもの、欲しいと思っていたもののかけがえのなさを。
    「……パンドロ」
     そっと髪に頬を擦り寄せると、はい、と頷き背を抱き返される。その手も嬉しく思いながら、満たされることの喜びを胸に刻んだ。
    「明日もまた頑張れそうです」
     パンドロの髪に触れながら、心からの癒やしを得てリュールはしみじみと呟く。
    「はい」
     オレもです、と笑う顔をもっと近くで見たくて覗き込もうとすると、溢れた愛しさのままに距離が近づいていく。このままキスを、と顔を傾けたところで、ふと足元にじゃれついたソラから前足で軽く何度も蹴られた。
    「……あ」
     すっかりソラのことを忘れてしまっていた。我に返れば途端に恥ずかしくなり、二人揃って若干の気まずさのようなものを覚えながら顔を離す。再びしゃがんでソラを撫でてやると、同じようにしゃがんだパンドロがあの、とリュールに声をかけてきた。
    「……後程、お部屋に伺っても……いいですか」
     もう少し、共に過ごせるお時間が欲しいです。
     目元を赤くして告げられた言葉に、当然否という返事などある筈がない。
    「はい。お待ちしてますね」
     心からの笑みでそう答え、リュールはソラに見えないようそっとパンドロにキスをした。
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