暁人君と射手君がだべってるだけ祟り屋は基本スリーマンセルで近接・バランス・遠距離タイプに分かれ、メンバーも完全に固定ではないらしい。
「そういうの教えてもいいの?」
八階建ての廃ビルの屋上の端に腰かけた暁人が尋ねると比較的年が近い上に同じく後方支援になりがちな射手(仮名)が大丈夫と緩く手を振る。
「基本も基本だし、祓い屋の旦那も知ってるって」
「KKは祟り屋なんて知らなくてもいいの一点張りでさ」
そのKKは見下ろした先の裏路地で棒術(仮名)と大立ち回りをしている。
「でも最近共闘すること増えたし。 君のお陰だね」
「僕のお陰……なのかなぁ」
暁人たちとしてはいつもの依頼で訪れた索敵にはちょうどいい位置にあるビルの屋上でで、彼らにとっては怪異がある場所は仕事をしやすいらしく、結果として百鬼夜行もどきの発生である。
「異空間の方がKKは戦いやすそうだけど」
基本フルパワーをぶっぱなす脳筋である。入り組んだ裏路地は人目はつかないが戦いにくそうだ。誤射も怖いので暁人たちはこうして空からの敵だけ対応しているといった具合だ。
「今度連携の練習しない? 場所貸すからさー君だけでもさー」
「僕だけが祟り屋さんたちと会うの禁止されてるからダメ」
「えー旦那って意外と束縛系?」
「うん、ヤキモチ焼きでかわいいだろ」
というのは冗談で暁人が騙されて引きずり込まれるのを警戒しているのだろう。暁人としては簡単に騙されるつもりはないのだが曰く
「オレオレ詐欺被害者の大半が『自分は大丈夫』と思ってる」
で、そう言われると反論しにくい。
「君が僕らの衣装気にしてたからレプリカ用意したんだけどなー」
「レプリカ?」
「見た目はほとんど同じだけど、呪術的なアレコレは刻まれてない一般人でも着れるヤツ」
「へー」
正直呪術的なあれこれよりも衣装の方が気になる。祓い屋と呼ばれても暁人とKKは普通のタクティカルジャケットやスーツやシャツとチノパンだったりするので。スーツとややくたびれたロングコートのKKはいかにも刑事といった風体で格好いいけど。
「着てみる?」
「絶対KKが怒るからやめとく」
「ちぇー」
言いながら射手は素早く矢をつがえて放った。暁人がその先を見る前にギャアと異形の断末魔が上がる。
「……早い」
「君もこれくらいできるようになるよーそれともウチで」
「お断りします」
「身持ち固いなー」
「一途なんで」
祟り屋のことは敵にせよ味方にせよ知っておきたいという知的好奇心であって、KKに対する近づきたいとは違う。
(全然掴ませてくれないけど)
眼下のマレビトもあらかた片付いたようで、KKの勝利宣言が聞こえる。
さすがに疲れてる様子なので直帰かな、一緒にラーメン屋か牛丼チェーンでも行けないかなと考えていると射手が立ち上がった。
「まあ君がコッチに来ないのはわかりきってるから」
「そうなんだ」
他人事のように言ってしまうのはもしもの可能性を考えてしまうからだ。
もし暁人の気持ちがKKに知られて激しく拒絶されたら。
KKが異性愛者なのは妻子がいることから明らかだし、暁人より二十も上の世代なら同性愛への拒否感も強いだろう。
(二度と近寄るなとか言われたらムリかも)
段々悪い方へ考えてしまって、立ち上がれずにいる暁人を見下ろして不意に射手が口を開いた。
「彼が『祓い屋の旦那』って呼ばれてるのは知ってるよね」
突然の話題に方向性が理解できないまま首を縦に振って肯定する。
「じゃあ君が何て呼ばれてるか知ってる?」
「……知らない」
嫌な予感しかしない。予想通り射手は面布の奥でニコッと笑った、気がした。
「『祓い屋の嫁さん』だよ」
「結婚してないんだけど!? ていうか付き合ってもいないんだけど!」
「嘘ォ!? どう見ても両想いじゃん」
「ええっ!? どこが!?」
「どこってさっき」
「おい、いつまでじゃれあってんだ」
グラップルで飛び上がってきたKKに暁人と射手は揃ってわあと声を上げた。
「早っ!」
先程の暁人よりもオーバーリアクションをして距離を取る。
前にもこんなことあったようなと思いながら暁人は祟り屋の衣装(レプリカ)を異空間懐にしまった。
「オマエ今何した」
「別に何も」
「祓い屋、嫁への過干渉は嫌われるぞ」
「まだ嫁じゃねえよ!」
KKと棒術で一方的な口喧嘩が始まったので暁人は諦めて射手と別れ表通りに繰り出した。