Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    subaccount3210

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 46

    subaccount3210

    ☆quiet follow

    K暁ならなんでも許せる人向けです。できてないけあき。

    ##K暁

    #毎月25日はK暁デー 「熱帯夜」「蛍」「宿題」六月に入って梅雨の前の暖かくて湿った夜、八時過ぎるのを待って外に出る。
    夏至が近くてももう暗く、田舎は家の光も街灯も、車のヘッドライトも疎らだ。
    それでも日中走り回っている祖父母の家の周辺は目が暗闇に慣れてしまえば少年のテリトリーである。
    蛇が出るから草むらに入るなと言った祖父母も駄菓子をくれた近所のお婆ちゃんも家の中で虫の声と蛙の声ばかりが少年に存在を伝える。
    けれども今捕まえるのはそれらではない。
    虫捕り網を持って小川の方に行くと目当てのものたちがすぐに姿を現した。
    「いたいた」
    声を出して笑っても彼らは逃げない。不規則に飛び回るか草むらでじっとしているか。どちらにしてもぴか、ぴか、と白熱電球よりも黄色く柔らかく光っている。
    「蛍、捕まえるの?」
    急に背後から声をかけられて少年は悲鳴を上げて飛び上がった。
    「わ、ビックリした!」
    「それはコッチのセリフだ!」
    思わず虫捕り網を振り回すがひらりと優雅に避けられてしまった。
    それは若く背の高い大人の男だった。興味のない少年にもわかる程度に垢抜けていて、オシャレだし顔もいい。
    「町から蛍を見に来たのか?」
    時折そういう親子連れやアベックを見る。しかし男は一人だけのようだ。
    「車は?」
    「車じゃなくてバイクだよ」
    「バイクぅ? ……アンタワルそうには見えないけど」
    「あっ、そういうイメージなんだ」
    男は愉快そうに笑うのでちょっとムッとしたが少年をバカにしたわけではないようですぐにごめんと謝って
    「それで蛍を捕まえてどうするの?」
    と聞いてきた。
    「どうって……別にカゴ一杯にして終わりだけど」
    蛍は見に来る人はいても買う人はいない。弱くてすぐ死ぬからだ。
    しかし男はカゴ一杯という言葉に目を輝かせた。
    「いいね、それ見てみたい。 僕も手伝ってもいい?」
    「いいけど」
    乗ってくるのは意外だったので少年は言葉を濁したが男はすぐに目の前の蛍を下から掬い上げた。
    「はい」
    「……アンタ上手いな」
    「まあ……捕まえるのは慣れてるかも?」
    イタズラっぽく言って少年が開けた虫かごに蛍を入れる。
    後は二人でひたすら光を追いかけた。
    少年は男の名前を聞かず、男も少年について何も聞かなかった。会話も捕獲報告だけですぐに目標を達成した。
    「うわっ、風情がない!」
    にも関わらず男は身も蓋もないことを言って笑った。
    確かにプラスチックの虫かごに詰め込まれて光る蛍にワビサビのようなものは感じられない。
    「文句あんのかよ」
    「ないよ、サイコー! スマホがあればなあ」
    「すまほ?」
    男は虫かごを上下左右に回して見ると満足したらしく逃がす?と聞いてきた。
    元々そのつもりだったので頷いて蓋を開ける。数匹飛び立ったが意外とじっとしているので少年は虫かごをひっくり返した。また数匹飛んで数匹地面に落ちて数匹カゴに留まっている。
    「やっぱり風情がないね」
    「うっせ」
    「一匹とまってる」
    男が少年の肩に触れ、摘まんだ蛍を草むらに下ろす。
    「よく飛び回るのがオスで岩や葉で待ち受けてるのがメスなんだ」
    「ふーん、オレにとまってたのはメス?」
    「そう、光るところが一つだったし」
    「町の人間のクセにくわしいな」
    言った後で今のは良くなかったと反省したが男は気にした風もなく
    「田舎のおじさんに教わったんだ」
    と答えた。
    「ふーん」
    「おじさんは誰から教わったか覚えてないって言ってたけど」
    「オッサンだから忘れたんだろ」
    「ふふっ、そうかも」
    今度はカゴを叩いてようやく飛んだ蛍の内の一匹が男の頭にとまる。
    「ソイツはオスってことか」
    「え、どこ?」
    当然男に見えるはずもなく捕ってやると手を伸ばす。男はありがとうと屈む。
    「でも僕らには合ってると思わない?」
    「は? 何が?」
    「風情がないの」
    しゃがみこんでこちらを覗いてくる男のやや切れ目な瞳は少年が掴んだ蛍の光を映していてあまり日に焼けていない白い肌と相まってまるで物語に出てくる妖怪のようだ。
    もしかして人攫いか人喰いかもしれない。
    急に寒くなってきた。まだ六月の夜に半袖はまずかったかもしれない。
    「冷えてきたね、そろそろ帰ろうか」
    「どこに?」
    「どこって君はお祖父さんとお祖母さんの家で、僕はバイクだろ?」
    当然のことを男が口にするので少年も我に返った。
    「アンタ、もう来ないのか?」
    「……来てもいいなら来月、また君がここに泊まりに来た時に」
    「……わかった」
    何で毎月祖父母の家に泊まりに来ていることを知っているのか。気づいたのは布団に入って寝る時になってやっとだった。



    月が変わり梅雨が明けても何となく湿気は残っていて暑く感じる。そっと縁側に出ると生垣の向こうに人影があったので少年はつっかけを履いて外へ駆けた。
    「いるなら言えよ!」
    男は驚いた顔をして
    「いるかどうかわからなかったし、何て呼んだらいいかわからなかったし」
    「名前か? なら」
    「待って!」
    突然遮られて驚いた。しかし男は余裕がないようで少年を見ず掌を突き出して少年を制する。
    「知らない人に名前を教えたらダメだよ!」
    「……知らない人じゃねえだろ」
    「そうかもしれないけど、でも今聞きたくない!」
    なんだそれと少年は肩をすくめる。しかし短気なはずの自分が何故か男のワガママはしょーがねえなと受け止められた。
    「まあいいや。 つか暑くね?」
    「……そう? こっちは涼しい方だよ」
    平静を取り戻した男は相変わらず月の明かりしかない周辺を見回した。虫の声があちらこちらから聞こえてくる。
    男は山から来る風のお陰かもと目を細めた。少年はその男の顔をそっと盗み見る。時折変なことを言うけれども綺麗な顔だ。じわりと自分のかいた汗が寝間着を濡らし肌と密着する感覚に眉を潜める。
    「やっぱり暑いって」
    「家に戻って冷たいものでも飲む?」
    「いや、そこまでじゃないけど……」
    多分男は少年の家に入ろうとはしないだろう。何となく確信してアンタは喉が渇かないのかと聞いてみる。
    「僕は大丈夫。 来る途中で飲んだから」
    「ならいーけど」
    男の方こそ倒れられると名前も住所も知らないのだから困る。
    (あ、でも免許証持ってるか)
    男はウエストポーチを襷のように胸にかけていて、貴重品もそこに入っているようだ。
    (きっとあそこにオレの、)
    「もう夏休みに入った?」
    「えっ、ああ……うん」
    急に現実に引き戻される感覚に少年は戸惑いながらもなんとか肯定だけ返す。
    男は気付かずにこの時代もドリルや自由研究や絵日記や読書感想文があるのかと尋ねたので更に肯定する。
    「どこでも大体一緒かあ」
    「アンタはキチッと宿題やりそうだな」
    「君は始業式の朝に終わらせそう」
    「じゃあ来月手伝いに来いよ。 ドリルだけでいいから」
    「なんで頼む方が偉そうなんだよ」
    男は笑って、それでも「いいよ」と受け入れてくれた。
    来月もまた会える。少年は嬉しそうに約束だぞと念押ししてもう帰らなきゃと踵を返した。
    またねと手を振って見送って、見えなくなると男は詰まっていた長い息を静かにゆっくりと吐き出した。
    「アンタが目覚めるまで付き合うよ」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💗💖🙏💕❤💖🙏💗💗💗❤❤❤💗💗💗💗🙏💕💕💖💖💖💖👏👏👏💖❤❤🙏💖💖💖💖💖💖💖🌌🌙🌟🎐🔒🔓⛩🙏💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    takeke_919

    DONE #毎月25日はK暁デー
    素敵タグにギリギリ間に合いました💦
    お題は「おはよう」
    Kは成仏したのではなく、暁の中で眠りに付いたという説を添えて。
    毛色の違う話が書きたいなぁと思い至ったまでは良いものの、毎度のことながらお題に添えているかは迷走してます🤣
    目醒めの言の葉 東京の街を覆っていた濃く暗い霧は晴れ、東の空からは眩い光を放つ日輪が顔を覗かせている。

     幾重にも連立する朱鳥居を潜り、石燈籠の淡く揺らめく灯りに照らされた石階段を登る暁人の胸中には全てを終わらせた事による達成感と、追い求めた者を失ってしまった喪失感。そして、自身の中に宿る男への寂寥感が入り混じっていた。男の悲願は達成され、その魂が刻一刻と眠りに就こうとしているのを肌身に感じる。

     本当に独りぼっちになってしまう。

     そうは思うものの、妹に、両親に誓った。泣いても、みっともなくても生きていくのだと。次に会うのは、最後の最後まで生き抜いた、その後なのだと。

     一歩一歩、階段を登る最中にKKから彼の妻子に向けての言伝を預かった。『最後まで、あきらめずに生き抜いた』と、そう語られた言葉は、彼の想いが沢山、たくさん詰まった大切なモノだ。何があっても絶対に伝えなくてはと、しかと心に刻み込んだ。
    5216

    na2me84

    DOODLE #毎月25日はK暁デー
    参加させていただきました。お題は『匂い』
    厭世的で嫌煙家の暁人くんのお話。
    sensory adaptation 雨の夜が明け家族とも一夜の相棒とも別れて、僕は日常に戻ってきた。妹を取り戻すことは出来なかったから、今までと全く同じという訳にはいかないだろうけれど、とにかく僕は一人生き残ったわけだ。それに意味があるかはまだ分からない。それでも、とりあえず僕がやらなければいけない事がまだ残っている。向こうで両親と共に旅立つのを見送った妹の現世での抜け殻に病院で対面し、身体も両親の元へと送り出した。その日は青空にふわりと薄い雲が浮かぶ、良く晴れた日だった。この世のしがらみを全て捨てて軽くなった妹は、きっと両親と共に穏やかに笑っているだろう。そうであって欲しい。

     追われるように過ごした日々が終わってふと気が付くと、これからどう生きていけばいいのかすら何も考えつかなくて、自分が空っぽになったように感じた。ほとんど物の無い空虚な部屋を見回して、置きっぱなしになっていたパスケースに目が止まる。すっかり忘れていた。あの夜の相棒の形見、最期に託された家族への伝言。これを片付けなくては。彼とは出会いから最悪で途中も色々あったが、最終的にはその関係は悪くなかったと思う。結局のところ、僕にとっても彼にとっても失うものばかりで、得るものの少ない結果だったとしても。
    5680

    らいか⛩

    DONE25日はK暁デーのお題「犬or猫」です

    素敵なお題ありがとうございました!
    とても楽しかったです
    「お、いたいた、俺の話聞いてくれるか?」

    煙草を吸いながら隣に来た中年男は自分に目もくれず話し始めた。
    聞いてくれるか?と言っているが実際返事を聞く前に語り始めているのを見ると聞かないという選択肢はないようで男をジッと見つめる。

    「俺の恋人兼相棒がそこにいるんだが、あいつはやたらと犬や猫に好かれやがる。あの日も…おっと、あの日って言ってもわからんだろうが、簡単に言えば命懸けの共同作業をしたんだよ。で、あの日もあいつは犬を見たらドッグフードを与え猫を見たら撫でたり声をかけたりと俺が引くぐらいさ。つまり恋人さまは根が優しくてなぁ…そこにマレビトも妖怪も寄っちまう程で俺ぁ心配でたまんねぇ。今もマレビトに怯えて逃げてた犬やら猫がマレビトを祓ったお陰なのか戻って来て恋人さまを奪いやがる。正直面白くねぇな。あいつの良さと言えば聞こえはいいが、俺だって…あ、いや、なんでもねぇ。……話を戻すが、俺は犬や猫に好かれねぇ質でな、こっちには来やがらねぇ。俺にとっちゃ良いことだがな。おい、今苦手なんだろとか思っただろ?苦手じゃねぇよ、あいつらが俺を苦手なんだ。そんなに好きなら自分家で飼えばいいだろって言ってみたがたまに触るから良いんだとよ。本当に人並みの好きなのか?まぁ、そこはいい。別に議論するつもりもねぇしな。っと、俺は餌なんて持ってねぇよあっちいけ」
    1239