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    最初KKが塩です。何でも許せる人向け。雨合羽と似たような流れになってしまったので反省。

    ##K暁

    みんな復活したけど暁人以外記憶無いif世界あの夜、オレたちは般若の男の野望を阻止した。具体的にどうやったのか覚えていない。エドの言うプランAだったのかBだったのか。わからないが間違いなく何事もなく朝が来て、オレたちは元の日常に戻った。はずだった。
    「チッ、しくじったぜ」
    自分に悪態をつきながら身を低くしてマレビトの攻撃をかわす。敵の数を見誤るのはあまりに初歩的なミスだ。地上はともかく空中のはビルに隠れていやがったし霊視も雑にやりすぎた。特に照法師が多いのは厄介だ。
    「ヒットアンドアウェイってのは苦手なんだがな!」
    コアをいっぺんに引っこ抜けないのにも苛立ちが募る。アイツみたいに弓でヘッドショットができればと思いかけてアイツとは誰だと我に返る。瞬間、右側の空気が切り裂かれるような音がした。
    文字にしがたいマレビトの断末魔。音の元を辿れば月極駐車場の看板の上に若い男が弓を構えて立っていた。
    「上の敵は任せて!」
    オマエは誰だと問う前に指示されて気に食わないがマレビトは待っちゃくれない。
    しかたなしに地上の敵を殲滅させる、今度は上を気にしなくて良いので楽だったのが逆に気に触った。
    「さすがKK!」
    「何でオレの名前を知ってる?」
    スタイリッシュに着地したところを問うと明らかにしまったという顔で口を押さえた。
    「祓い屋のKKは結構有名だよ。ほら、中学生の間とか」
    「そうかい。しかしオレは他に祓い屋がいたとは知らなかったな」
    「最近始めたばかりだから!見ての通り大学行ってるから自由に動き回れないし。とにかく敵じゃないよ!それだけは信じてほしいな」
    確かにコロコロ表情を変える様は悪人には見えないが。
    「オレはイケメンの言うことは素直に信じられねえんだよ」
    「えっ」
    何故か青年は驚き自分の髭のない顔をペタペタと触った。
    「僕、KKから見てイケメン?」
    「はあ!?」
    何を聞いてるんだこのガキと思ったが見上げてくる目は期待に満ちている。コイツはオレに何を求めてるんだ?
    「オレは男の顔なんざどうこう考えたこたあねえが、一般的にオマエはイイ男なんじゃねえのか?」
    オレらしくない曖昧な答えだが青年はふにゃりと笑った。
    「KKにそう言われると嬉しい」
    「……はあ」
    すっかり毒気を抜かれたオレは煙草を胸ポケットから取り出し流れるようにエーテルで火を点ける。煙を吐き出して、目の前の青年に配慮すべきだったと考えた。
    「悪い、癖でな。すぐ消す」
    「いいよ、ここ路上喫煙禁止地区じゃないし。やっと吸えて良かったね」
    何故か嬉しそうに言われてオレは黙る。そんなに吸えない時期があったか?青年の言葉には謎が多すぎる。
    「……ここに居座ってるっつーことはアジトに用か?」
    「うん、まあ……凛子さんや絵梨佳ちゃん、エドとデイルさんにも会ってみたいし」
    「メンバーまで把握してんのか」
    余程のオレたちのファンか、と揶揄ると青年は躊躇なく頷いた。
    「うん、ずっと大好きだったよ」
    大学生にしては真っ直ぐすぎる言葉にこっちが照れてしまう。普段のオレならドン引きそうだが、コイツには真っ直ぐなのが似合うと感じていた。



    「初めまして、伊月暁人です」
    アジトでようやく青年は名乗った。で、やはり初対面らしい。一同がどういうことかと問いかけてくる。オレも知らねえよと両手を上げるとエドが最初に食いついた。
    「君も適合者かい?」
    「そうです。元々適性があったみたいだけど最近開花しました。でもKKほどエーテルが上手く使えなくて、弓と札の即浄がメインです」
    「そういやその弓……アジトにあったヤツじゃねえのか!?」
    よく見なくても見覚えがある。暁人は盗んだわけではないと慌てた。つまりは本物ってわけだ。
    「うう……説明は難しいし、信じてもらえないと思うけど、貰い承けたんだよ」
    「誰にだよ」
    「ううう……言えない」
    今度は暁人が降参のポーズを取る。確かにアジトには簡単には入れないし、弓を保管していたケースも簡単には開けられないはずだ。部屋が荒らされた形跡も、まあ元々とっちらかっちゃいるが、ない。
    「まあ弓はオレもたいして使ってねえからいい。それよりオマエは自首しに来たのか?」
    「違うよ!ええと、できたら絵梨佳ちゃんと凛子さんとKKと順番に話せたらなと思ったんだ」
    「えっ、私も?」
    「なんだ占いか?」
    「ボクとデイルはないのかい?」
    「つかなんでオレは呼び捨てなんだ。凛子より年長者だぞ」
    「えー、成り行きというか……」
    またしてもゴニャゴニャ言う暁人に呆れつつ話すくらいならあたしからと凛子が引き受けた。



    一旦外に出た二人だったが二本目の終わりかけで神妙な顔をした凛子だけ戻ってきた。
    「何を言われた?」
    甘言に釣られるようなヤツではないとはわかっちゃいるが、探りを入れておくにこしたことはない。
    「……大したことじゃない、自分で気づけなかったくらい当たり前のことさ」
    「なんだそりゃ」
    問答のようなことを言って次は絵梨佳だと言う。
    「オッケー」
    「……その後であたしも話がしたい」
    「うん?わかった」
    オレは三本目に行く気にはならず再びソファに戻る。さっきの報告書を書かないとな。アイツのことはどうするか。
    「ただいまーアドバイスもらっちゃった」
    スキップする勢いで戻ってきた絵梨佳はバトンタッチだと言う。
    「暁人さん、神の使いなんじゃないかなあ」
    「なんだそりゃ、キツネか?」
    「んーそうかも?」
    少なくとも悪いことは言ってこないらしい。オレは書きかけの書類を放ぶって凛子を呼ぶ絵梨佳の声を背にアジトの外に出た。
    「けえけえ」
    ふにゃと表情を弛めて成人男性が中年のおっさんに向けるようではない声を出す。普通ならサブイボだらけになりそうだが何故かほっとした。
    「なんつー声出してんだよ」
    反射的に憎まれ口を叩けば安心しちゃってと頭をかく。
    「凛子さんには過保護なのはかえって絵梨佳ちゃんを傷つけるって、絵梨佳ちゃんには怖がらずに凛子さんに自分の気持ちを伝えてって、そうしないとお互いに取り返しがつかなくなるからって言ったんだ。今の僕の言葉でも受け入れてもらえたみたいで良かった」
    「そんで、暁人サマはオレにはどんな助言をくださるのかね」
    うん、と神妙に頷いた暁人はがばりとオレに抱きついた。
    「なっ」
    「KKはがんばってるよ」
    引き剥がそうとした手が動かなくなる。
    「マレビトと戦って穢れと戦って、戦って戦って……KKにしかできないことだよ。すごいよ。感謝してる。命がけで……東京を、僕たちを守ってくれてありがとう」
    「……んでオマエが」
    「だって僕はKKががんばってるの知ってるから。ちゃんと知ってる人がいるって、KKにも知っててほしい」
    『オレだってがんばってんだよ!』
    『戦って、戦って、戦って』
    『何で誰も認めない!?』
    知らないうちに、いや知らないふりをしていた叫び声が浄化される。
    「それから……生きててくれてありがとう」
    「……死にかけた覚えはねえぞ」
    「ふふ、うん……そうだね」
    ごめんねと離れた暁人は何故か悲しそうで、オレはコイツにこんな顔をさせたかったわけじゃなかったはずだ。
    「じゃあ僕は行くよ。もう会わないようにするから安心して」
    「は?別に同業だからって遠慮するこたねえだろ」
    「ううん、僕が辛くなっちゃうから」
    みんなによろしくね、と言って暁人は腕を伸ばす。光る線を見た時には頭上でグギャアと鳴き声がして細い体は引き上げられた。
    「暁人!」
    グラップルした次の瞬間にはもうグライドに入っていて、さらに天狗を喚んで建物の上を飛んでく様はオレでも見惚れてしまう。
    「なんだったんだアイツは……」
    その答えを引き出せる者はもうこの世界にいないことをオレは知らなかった。



    女狐の格好をした暁人に再会するのはまた別の話。

    * * * * * *

    これまでのあらすじ。
    知らない間に般若の儀式を阻止したと思ったら面識のないガキが知らない間に中心にいたらしくオレたちにご高説を垂れたと思ったらバックレたので腹が立って探したら女装して化け物退治をしているのを見つけてしまいドン引きしながらもエーテルワイヤーで捕獲に成功した。
    以上。
    「いやまあ今は多様性の時代っでヤツだからな……」
    「一人で納得しないで!この格好は狐火が強いからやってるだけで僕の趣味じゃないから!」
    確かにオレの火のエーテルよりも強かったな。どこで手に入れてどうなってんだか。
    とりあえず逃げないからコレ解いてという要望に応えてワイヤーを引っ込める。
    ガキは汚れを払う仕草をして身体の点検をしているが宣言通り逃げるのは諦めたようだ。しっかし肩の布やスカートがヒラヒラ動くのがイラッとする。そこから伸びているのが割合しっかりしたかつ無駄毛のない腕と脚なのが余計に。
    「ソレを見られたくなくてコソコソとマレビト退治してたのか」
    「……それもあるし、KK普通に僕に会いたくないでしょ」
    ケロッとした顔で嫌なことを言う。
    「なんでだよ」
    「だってこないだの僕、気味悪かっただろ?」
    「んなこたあねえよ」
    突然現れて色々と、オレたちすら気づいてなかったことを一方的に言って去っていったのは事実だが。
    「凛子と絵梨佳はオマエさんのお陰で仲が深まったみたいだぞ」
    お互いの本心を話しあい、落とし所を決めたようだ。絵梨佳は凛子の手伝いによくアジトに来るようになり、凛子の言うことを素直に聞くようになった。
    良かったと本心で頬を緩めているらしい青年につい冗談を噛ませてみる。
    「エドがマトモに話す方法もご教授願いたいもんだが」
    「それは無理だよ。僕も知らないもん」
    つまり前回言ったことは知っていたのか。オレたちは全くオマエを知らないのに。
    どうもこいつは神の使いでも天才的な頭脳を持ってるわけでもないらしい。
    コイツはあまり喋りたくないらしいが何故かオレに心を許し過ぎているせいで余計なことを喋ってくれるし本職のオレなら余裕で引き出せる。
    とはいえ警戒されると終わりなので少しずつ様子を見ながらだな。
    オレの魂胆に気付いているのかいないのか暁人はそれよりもと話を変えた。
    「KKは元気?えーっと、家族……とか」
    コイツ、オレの家族関係も知ってやがんな。
    ストーカーの文字が浮かぶが、周辺を探られていた気配もなかった。ますます訳が分からん。
    否定したが気味が悪いというのは的を射ている。
    「オレに家族はもういない」
    「え、でも……」
    「オマエがどこまで知ってるか知らねえがオレは死んだことになってるし、その前に離婚届も出して金も払ってる。オマエのお説教の後に一度会って全部じゃねえが腹割って話したがそれで終わりだ」
    「……もう会わないの?」
    「余程のことがなけりゃな」
    ガキの成長はある程度見届けたいが、ビルの上からで十分だ。
    「それよりもオマエ、麻里は……マリ?」
    手前の口から出た名前に困惑する。名前もわかる、顔も覚えてる。だがオレには聞いた記憶も会った記憶もない。目の前の男を見るとこっちも切れ長の目を見開いて喜びとも悲しみともつかない表情を見せた。
    「……麻里は僕の妹だよ。元気に高校に行ってる。火事も事故もなく」
    「そうか……そりゃあ……良かったな」
    何故か本気でそう思う。さっきのコイツのように。
    混乱の解けないオレにガキは目を細めて
    「ね、気持ち悪いだろ。だからもう僕のことは忘れたままでいて」
    と言い放ったのでオレはカチンときた。
    「『まま』ってことは現在進行形でオレが忘れてんだな」
    ビクッと全身の毛を逆立てるようなリアクションをした女狐もとい女装狐はすぐさま左腕を上げるがそれよりオレのワイヤーの方が速い。
    「逃げるなっつっただろうがよ!」
    「もう時効だよ!」
    「んなモンねえよ!スクランブル交差点に連れてくぞ!」
    「マジで捕まるって!!!」
    打てば響くような反応に自然と笑みが浮かぶ。コイツの格好はともかくとして、馴れ合うのが嫌いなはずのオレが居心地よく感じてしまう。
    「さっさと吐いて楽になっちまえ。大体オマエ、右目と右腕が多少不自由なんじゃねえのか?」
    「……なんで」
    「刑事舐めんな」
    日常生活に支障はないだろうが、この仕事は比喩ではなく命懸けだ。一瞬動きが鈍るだけで死に繋がる。
    「ホントKKには敵わないな」
    泣き笑いする暁人はやはり話す気はなさそうだが、短気なオレでもこの我慢比べに勝てるだろう。
    惚れたモン負けとはよく言ったものだ。
    オレはコイツが結構かなりオレのことが好きで、オレ自身も満更じゃないことに気づいていた。



    天気雨が降るまであと、

    * * * * * *

    暁人は端正な顔をくしゃりと歪めて笑った。涙だけは溢すまいと耐えている表情だった。
    「麻里が生きてるってのは嘘なんだ。 KKたちの命と引き換えに僕は壊れたからだでひとりぼっち。 でもホントに後悔はしてない」
    ただ、疲れちゃっただけなんだ。
    そう言って溢れ落ちていく命をオレは、



    飛び起きたオレは汗だくだったが最悪な夢にしばらく動けなかった。
    呼吸が落ち着いていくのと反比例して不安が高まっていく。
    アレは本当に夢なのか?
    すぐさま枕元に放り投げた携帯を拾ってロックを解除し通話アプリを起動する。
    前回女狐を捕縛した時に解放と引き換えに手に入れた連絡先に一瞬躊躇するがボタンを押した。
    数回のコール音の途中でブツリと途切れる。
    『もしもしKKどうしたの!? 非常事態!?』
    非常事態と言えばそうだし、今更時計を見て午前四時過ぎに電話することかと言われれば違う気もする。
    しかし今更引けるワケもなくオレは
    「麻里が無事なのは本当だろうな」
    と誘拐された家族のようなことを聞いてしまった。



    近所の比較的有名なケーキ屋の箱を片手に暁人はボディバッグから鍵を取り出し慣れた手つきで解錠した。
    「ただいまー」
    「おかえりお兄ちゃん。 あっ、そのケーキどうしたの!?」
    ちょうど玄関近くの洗面所にいた麻里が顔を出す。暁人は箱を持つ手を少し上げて微笑んだ。
    「友だちと賭けをして貰ったんだ」
    「なにそれ~」
    愉快そうに笑う麻里はまだ制服姿で暁人はちょうどいいと一度外を見た。
    「麻里、外を見てみろよ。 天気雨が降ると思うか?」
    えーと気乗りしない返事をしながらも兄の持つケーキに惹かれて少女はドアから半身を出した。
    「降らないんじゃない?」
    「オレもそれで勝ったんだ。 じゃあ着替えておやつの時間にしようか」
    明るく返事をした麻里が自分の部屋に入る。暁人もテーブルにケーキを置いて、手を洗って、スマホを取り出した。
    「もしもしKK?僕の言った通りだったろ?」
    『ああ、悪かったよ』
    伊月兄妹の家の玄関が見える屋上にいるKKが苦虫を噛み潰したような声を出した。
    自分の思い込みが間違っていたことが恥ずかしかったのだろう。暁人は怒っていないと繰り返した。
    「早すぎるモーニングコールは気にしなくていいよ。 ケーキ貰っちゃったし。 麻里のこと心配してくれてありがと」
    『……麻里じゃねえよ』
    苦々しい口調のまま絞り出す。どういうことと問う前にまた連絡すると一方的に言って通話は切れた。



    結果的に天気雨などという生ぬるいものではないゲリラ豪雨に遭遇したのは次の週末の夕方だった。
    KKと暁人がそれぞれ別の仕事でかち合って、見事な濡れ鼠になってしまった。
    「うーん、今日は麻里が家にいるんだよんなあ」
    流石に女狐ではないがタクティカルジャケットの端が切り裂かれていて大学生の外出にはやや不自然だ。KKは自然に
    「ウチに来るか」
    と誘った。
    「アジト?」
    「オレ個人の家だ。 その方が近い。 で、シャワー浴びて適当に着替えて帰ればいいだろ」
    KKと暁人は筋肉の付きようが多少違うが体格にそこまでの差はない。
    少し考えて暁人はそれじゃあとKKの好意を受け入れた。すぐに逃げ出していたことを考えれば大分打ち解けたように思う。
    KKは不思議と機嫌よく暁人を自宅に招き入れ、玄関からすぐの浴室を指差した。
    「湯船に入りたいなら自分で湯を張れよ」
    「……むしろ掃除から始めたいんだけど」
    「オレも汗を流したいから却下だ」
    一応客人だから譲ってやってるのだから有り難く思えと言えば早く着替えたいのか脱衣所に引っ込んだ。大体そこまで汚れていない、はずだ。KKも脱衣所の前で全部脱いでしまって、暁人が浴室に入ったのを確認して中からタオルを出すと己の体を拭きながら着替えを取りに行った。
    もう寝巻きでいいかとタンクトップとハーフパンツを出して、比較的新しい服も出す。
    脱衣所に戻るとちょうど腰にタオルを巻いただけの暁人が出てきた。
    「タオルだけ借りて、KKの服も乾燥かけてるよ」
    「それはいいが……オマエ、その胸何だ?」
    KKが驚くのも無理はない。若く瑞々しい胴体の真ん中に穴が開いていたとしか思えない大きな傷痕があった。
    完治はしているようだがだとするとかなり昔のもので、確実に死んでもおかしくない代物だ。
    暁人はあからさまに「しまった!」という顔をして手で隠そうとしたがあまりに遅すぎる。
    「コレは霊的なモノだから普通の人には見えないんだ。 KKは普通に見えるよね……」
    「見えるな」
    「うーん……でももう終わったヤツだから気にしないで」
    そう言われても心臓を貫いたような傷をいつ負ったのか気にならないわけがない。
    もしかしてKKたちが覚えていないあの夜に関係があるのではないか。
    根拠なくそう思うものの暁人は服を奪うようにしてさっさとリビングへ行ってしまったのでKKは釈然としないまま風呂へ向かった。



    さっぱりしてリビングに戻ると暁人はテレビを見ながらKKの買い置きのカップ麺を食べていた。
    「おかえり。 お金はそこに置いたよ」
    「いらねえよ」
    KKも喉が渇いたのでキッチンに向かうとパンパンのゴミ袋がひとつと放置していたアレコレが消え失せ明らかに綺麗になったシンクがあった。
    「オマエ……妖精かなんかか?」
    「KKって時々メルヘンなこと言い出すよね」
    潔癖症なのかと思ったが単に目につくと気になる性分らしい。KKとしては全くこだわりがないので逆にカップ麺ひとつで掃除してもらえるならラッキーだ。
    「お湯まだ残ってるけどKKも食べる?」
    「いや、いい」
    それよりもと冷蔵庫からビールを出してオマエも飲むかと問うと現場の近くの地下駐車場にバイクを置いてきたから飲まないと断られた。
    「オマエその体で乗れるのか」
    暁人は右半身にわずかだが霊障のようなものがある。それもあの夜に関係しているようだがやはりKKには思い出せず歯がゆい。自分には関係ないはずだと理性が説いてくるが感情は何かを叫んでいる、気がするのだ。
    「見えない動かないわけじゃないし、普通に運転する分には大丈夫。 ていうかKK以外には全然気づかれないくらいだよ」
    「でもオマエ、」
    前の動きと違うだろう。
    言いかけてその意味不明さに混乱する。
    それを無視して暁人はカップ麺の汁まで飲み干してごちそうさまでしたと手を合わせた。
    「じゃあそろそろ」
    帰ると言いかけた瞬間、リビングが強い光が射し込み、反射的に窓を向くと同時に轟音と地響きがした。
    「ビッ……クリしたあ!」
    「雷は怖いか」
    「怖くはないけど今のはビビるだろ。 近くに落ちたみたいだけど停電しなくて良かったね」
    暁人の言葉に嘘はないようで、先程よりは幾分弱い落雷があったが今度は動じなかった。代わりに半端だったカーテンを閉め直して雨音を和らげる。それでもかなり強く打ち付けていることは離れているKKにもわかった。
    「雨、また強くなったね」
    「泊まっていけばいいだろ」
    自然な流れで提案したつもりだったが暁人は酷く驚いて、いやこれこそ怯えてと表現した方が正しいかもしれない、遠慮しておくと首を振った。
    自分は職業柄大抵の状況で寝ることができるし、元々眠りは浅く短い方だ。
    それとも今時の若者は他人と寝た経験がないのだろうか修学旅行とか。
    「……修学旅行は高校でも行ったよ。 ええと、僕、寝言とか結構うるさいんだ」
    「安心しろ。 オレもイビキうるせえらしいし、一度寝たら朝まで起きねえ」
    半分本当で半分嘘だ。しかし暁人は信じたのかまだ落雷が続いている事実に諦めたのか彼自身も嘘をついていて後ろめたかったか。いずれにせよ雨が収まるまではいるとスマホを取り出した。麻里に連絡するのだろう。
    「ソファーで仮眠してもいいぞ」
    「迷惑になるから帰って寝るよ」
    「……心配しなくても襲わねえよ」
    「はあ!? あっ、当たり前だろ!?」
    これは満更でもねえなと確信しつつ、もう一度ここで休んでいけと強めに言う。暁人はあの夜以前に知らなかったのが不思議なほど実力のある祓い屋だが、どこか覚束なく力で押しきる面がある。結果的にエーテルの消費が増え、そのために食事の量も増えるし、睡眠も必要なはずだ。
    実際に暁人の目蓋も見てわかるほど重くなってきている。
    「とりあえずオレは部屋で飲むから好きにしてろ」
    とKKはKKなりに気を利かせて未だ続く強い雨に背を向けた。



    「わああああああああああアああアアアアあ!!!?!???!!!」
    突然の叫び声にKKは飛び起きた。意識は半分夢の中だが体は勝手に動く。
    「暁人どうした!?」
    リビングに飛び込むと同時にタックルを受ける。身長はさほど変わらないが暁人が屈んでいたため胸で何とか受け止める。確かな感触と温もりが青年の生を証明している。
    「けぇけぇ! けーけー! どこ!? けえ、けー!」
    「おい、オレはここだ!」
    肩を掴んで顔を上げさせ、安心させるように背中を叩きつつ霊視をする。拍子抜けするほど何もいない。何かに憑りつかれているわけではなく、暁人が一人錯乱して泣いているだけだ。安堵していいのか悪いのかわからないがとにかく落ち着かせなくてはとKKは努めて優しく声をかける。
    「暁人、オレはここにいる」
    「けーけー! いかないでKK!!!」
    すると暁人はKKの頭を掴むとぐいぐいと自分の体に押しつけ始めた。
    成人男性が力の加減をしていないので正直痛い。まるであの体の傷痕の中にKKを入れようとしている勢いだ。
    「もうオマエの中に入れねえんだよ!」
    思わず返すと暁人の力がわずかに緩んだ。
    「KKはもう入れない、はいれない、いない、いない……!」
    「入れなくてもそばにはいられるだろうが!」
    また力が強くなってきたので慌てて腕を叩く。相変わらず一人で考え込むとドツボにはまり込む性格だ。
    相変わらず?考える余裕は今はない。
    そばに?とおうむ返しする暁人にそうだと応える。
    「オマエがまだ必要だって言うならオレがそばにいる! だから落ちるな!」
    いつかの夢を思い出す。KKたちも麻里も生きている。では儀式の生け贄となったのは?
    今度はKKが力一杯暁人を抱き寄せる。
    あの夜に何があったのか思い出せても出せなくてもいい。ただこの女狐の衣装を着て戦ったり妙に知っていることを言っては逃げたり他人の家を片付けてカップ麺を食べたりするおかしな青年のことを手放したくない。
    「KK……体があっても僕のそばにいてくれる?」
    「ああ、だから喚くのは今夜で終わりだ」
    「いつもじゃないよ……夢見が……わるいとき、だけ……」
    ズルズルと暁人の身体から力が抜けていく。覚えのあるKKは何も言わず暁人をソファーに誘導した。
    「オレのベッドはまた今度な」
    「ん? ……うん……」
    眠気で朦朧と返事をする暁人の頭を撫でてKKは満足そうに笑みを浮かべた。
    「おやすみ、暁人」
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