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    めたろ

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    めたろ

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    かりや先生×そうま先生
    当直明けのかりや先生がそうま先生の部屋でゴロゴロしてたら可愛いよね!!って思って書いたやつ

    #刈相

    広い仮眠室広い仮眠室

     大きなあくびをひとつして、相馬教授室の扉を叩いたが、部屋の主は留守のようだった。
    「相馬先生でしたら、先程出ていかれました。今日のご予定の会議はまだ時間が先ですし、そのうち戻られるかと」
     刈矢が教授秘書の顔を見ると、秘書は心得ているとばかりにすらすらと話した。
    「何時に戻るとかは言ってなかったスか」
    「ええ、おっしゃいませんでした」
    「うーん、今日中にハンコ貰いたい書類があるんスけど」
     刈矢が頭をがりがり掻く。
    「中で待つことって出来ませんかね」
     困ったような顔をして秘書を見ると、何を言い出すのだと言いたげたな表情で、秘書はデスクの受話器に手を伸ばした。
    「お聞きしてみましょうか」
    「や、いいス。それで秘書さんが怒られちゃったら可哀相だし」
    「でしたら……」
     出直してこいと言いたげな秘書の顔を見なかったことにして、刈矢はポケットのPHSを取り出した。
    「自分で訊くからいいス」
     刈矢は電話帳から相馬の番号を呼び出すと、躊躇することなく通話ボタンを押した。通話はすぐに繋がった。
    「教授?刈矢です。物品購入のリスト持ってきたスけど、教授に目を通してもらいたくてですね。いまどちらにいらっしゃいます?」
     刈矢はそこで言葉を切って
    「もう少しで戻られる?いま教授室前にいますけど、中で待ってちゃだめスか?」
     言い淀んでも仕方がないと、刈矢はずばりと本題に入った。電話の向こうの相馬が何かを言ったらしい。
    「いいんス?じゃ、秘書さんに鍵を開けてもらいますんで、中で待ってますね」
     PHSの電源ボタンを押すと
    「今の通りなんで、中で待たせてください」
     刈矢は人懐こい笑顔で教授秘書の顔を見た。

     テンキー式の電子錠を解錠してもらって教授室に入ると、刈矢はソファに腰を下ろして書類をテーブルに置いた。目の奥が重苦しく痛くて、眉間を軽くつまむ。昨晩は刈矢が当直で、夜中に急患の対応をしていたらほとんど寝ることができなかった。相馬はいつ戻ってくるだろうか。次第に瞼が閉じてきて、これではいかん、と刈矢は首をふった。それでも眠気を払うことはできず、刈矢は腕を組み、うつらうつらと船を漕ぎだした。相馬が戻ってきたら起こしてくれるだろうから、今だけは居眠りすることを許してほしい。言い訳のように思って、気を抜くと一気に眠気に押し流された。

    「刈矢、刈矢!」
     何度も名前を呼ばれて肩を揺すられる。目をあけた刈矢はぼんやりした表情で、相馬と思しき人影を見上げた。そこで、自分がソファに横たわっていることに気がついた。変な姿勢で寝ていたのか、首が痛い。
    「すんません!!!寝ちまいました!!」
     がばりと起き上がった刈矢は、相馬に叱られるだろうと肩をすくめた。
    「大丈夫か、どこか具合が悪いのか?」
     怒るだろうと思った相馬は、心配そうに刈谷の顔を覗き込んでいる。
    「すんません、キョージュ。当直明けで……眠くて……気持ちよくて、つい……」
    「昨晩は大変だったな。緊急手術が入ったんだろう?」
     さすがに相馬は昨晩の出来事を把握していた。
    「ハイ……」
    「その後眠れたか」
    「いえ……病棟から連絡きたりとか、雑用してるうちに朝になって……」
    「貫徹か」
     相馬は刈矢の向かいのソファに腰を下ろした。
    「それで、用件は何だ」
    「あの、物品のリストを作ってきたから、教授のチェックがほしくて」
     刈矢がテーブルの上の資料を差し出すと
    「わかった、確認しよう」
     相馬はスッとそれを受け取り、再び手を差し出した。
    「私は3時から会議があるが、それまで用事はない。匿ってやるから寝ていていいぞ」
    「何スか、その手は」
    「PHSを預かってやる」
    「は?」
    「いつPHSに連絡がくるかと思いながら寝るのでは、ゆっくり眠れないだろう。代わりに出てやるから安心しなさい」
     ほら、と言われて刈矢はPHSを差し出した。
    「でも、教授がピッチに出たんじゃァかけたほうがびっくりしますよ」
    「それはそうかもしれないな」
     相馬はふわりと笑みを浮かべた。医員たちの前できりりとした表情を保っている相馬が、柔らかく笑うのを見て、刈矢の胸がドキリと鳴った。
    「そんな優しい顔をされちゃァ、甘えたくなってしまいます」
    「いいぞ、今日くらいは」
    「……教授に優しくされるんなら、もっと当直してもいいかなって思いました」
    「調子に乗るんじゃない」
     相馬は白衣の胸ポケットに刈矢のPHSを滑り込ませると立ち上がった。
    「どこ行くンス?」
    「適当に時間を潰してくる。上司の前で眠るのも緊張するだろうからな」
    「あの……できたら、ここにいてほしいんスけど」
     刈矢が言った。
    「いてほしい?なぜ」
    「教授の部屋に、教授がいなくて一人で寝るのは気が引けるんス。それに、教授がいると安心しますし……」
    「お前がそう言うなら私はここで仕事をしているが」
    「俺が起きたとき、ここにいてくださいね」
    「3時から会議に行くぞ」
    「なら、そのとき起こしてください」
     わかった、と相馬は言った。
     白衣を脱いで掛け布団代わりにかぶり、ソファに横になる。ちょっと待っていなさい、と言った相馬が部屋を出て、バスタオルを何枚か持って戻ってきた。タオルにはマジックで当直室と書いてあるから、そっと失敬してきたのだろう。
    「枕にすればいい」
    「ありがとうございます」
    「空調は寒くはないか?」
    「ちょうどいいス」
    「ならいい。おやすみ」
     相馬は言うとデスクに向かい、机の上のノートパソコンを開いた。ぱちぱちとキーボードを打つ音がする。
    「教授」
     刈矢が呼んだ。
    「寝ないのか?」
    「いたれりつくせりだなって……なんだか申し訳なくなって」
     刈矢が言った。
    「贅沢のしすぎな気がして。明日、教授がいなくなったらどうしましょう」
    「そんな馬鹿なことは起こらないよ」
    「本当スか」
    「明日も仕事に来るから、安心して寝なさい」
    「なんだか悪いことが起きたら嫌だなって思うんス。贅沢のバチが当たるというか」
    「意外に気が弱いのだな。それとも寝不足のせいか」
    「わかんないスけど、なんとなく」
    「お前を置いていなくなったりしないし、会議の前には起こしてやるから、目を閉じていたらいい」
     相馬の胸ポケットのPHSの着信音が鳴った。
    「教授、俺のだから出ま……」
     相馬が通話ボタンを押す方が早かった。
    「刈矢先生の手が離せないから、代わりに出ている。急ぎの用件なら伝えるが」
     うん、うん、わかった、と相馬は言い、通話を切った。
    「急用じゃないから安心しなさい」
    「教授、やっぱり申し訳ないス」
     刈矢が恐縮したように言う。
    「私が構ったのでは休めないか」
     相馬が困ったように笑った。
    「当直明けで疲れているだろうから面倒を見てやろうと思ったが、逆効果だったか」
    「そういうんじゃないスけど」
    「やはり私は外に出てこようか」
    「いて下さい!」
     刈矢は起き上がった。被っていた白衣がばさりと落ちる。
    「疲れてて、弱気になってて、キョージュ優しいから逆に不安になってて、でもずっとここでこうしていたいっていうか」
     刈矢が壁の時計を見る。2時半を過ぎたところだ。
    「3時になったら会議でしょ、そしたら俺も仕事に戻りますから。それまでここにいてほしいス」
    「わかった」
     相馬は軽く首を傾げた。
    「それで、刈矢は何を心配しているんだ?」
    「わからないス。なんとなく」
    「なんとなく?」
    「最近、教授がよそよそしくなったんじゃないかって気がして」
    「私が?」
    「俺が再生医療をやりたいって言ってから、本当に、なんとなくスけど」
     なんだ、と相馬は言った。
    「私自身の好みはどうであれ、再生医療に取り組みたいお前の気持ちは尊重するし、移植のテーマだけで論文を書くのが難しいことも知っている。お前が再生医療をやりたいと言ったから、裏切り者だと言ってお前を追放したりはしない。よくない想像で寝不足になるのじゃかなわない、安心しなさい」
    「それを聞いて安心したスけど」
    「大体、よそよそしくしている部下を部屋で寝かせるわけがないだろう」
    「それもそう、スね」
    「今のうちに寝ておくといい」
    「ハイ……」
     それから10分もしないうちに、刈矢の寝息が聞こえてきた。
     
     夕日が部屋に差し込んで、その明るさに刈矢は薄く目を開けた。
    「キョージュ!?」
     テーブルにPHS、それから灰皿の下にメモが置いてある、

     声をかけても起きなかったので、寝かせておきました。会議は18時頃に終わる予定です。相馬

     会議が終わるまでにはまだ時間がある。もう一寝入りするか、それとも医局に戻るかと考えながら、刈矢はポケットの中のタバコを取り出して火をつけた。
     相馬はタバコを吸わないから、教授室の灰皿は刈矢だけが使っている。教授室での喫煙を許されている唯一の部下かもしれなかった。
    「なんで俺は教授がいなくなるなんて思ったんだ?」
     煙を吸い込むと、刈矢は首を傾げた。
    「なんか、あの人見てると消えちまいそうな気がして……気のせいか」
     次第に頭がハッキリする。
    「疲れてンだな……教授が俺を置いていなくなるなんて……本当、何言ってンだろ」
     刈矢は立ち上がり、被っていた白衣を羽織ると、バスタオルを畳み直した。
     教授室を出て、秘書にドーモ、と会釈する。バスタオルを小脇に抱えて、白衣のポケットにPHSを突っ込んで、刈矢は白い廊下を歩いていった。
     
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