「……煙草、吸うんだな。」
「悪い、苦手か?」
「いや、ただ意外だと思っただけだ。」
点けてばかりの火を消そうと灰皿へ手を伸ばせば構わないと返ってきた。
「おまえも吸うか?」
「いや、俺はいい。」
拳ふたつ分開けて隣に腰掛けたシュバルツへ、ならばお仲間かなと煙草を勧めればいらないと返ってくる。
「なにかあったか?」
基地のはずれにある喫煙スペースまで煙草を吸うわけでもなく、わざわざ来たということは何か用事でもあったかと問いかければそうではないと返ってくる。
「……ただ、お前の姿が見えなかったからどこにいるかと気になっただけだ。」
「そうか」
可愛らしい返し文句になんと反応するのが正解か分からずに素っ気ない相槌しか打てない。それっきり何を言うわけでもないシュバルツに少しだけ時間を持て余して口元へ運ぶ。注がれる視線に気がついて、どうかしたかとそちらへ視線をおくれば翡翠の瞳と目があった。
「口づけの時、……煙草の味がしなかったからてっきり非喫煙者かと思っていた。」
「……たまに、な。無性に吸いたくなるんだ。」
先日、酒を言い訳に口づけたことを言っているのだろう。翌日に咎められることもなかったどころか、その話題に触れられることもなかったのでてっきり無かったことにされたものだとばかり思っていたがそうでもないらしい。
「ガキの頃、大人に憧れて美味くもないのに吸い続けたら癖になっちまってな。」
「これがまた、頭の整理をするのにいいスイッチになるんだ。」
細く紫煙を燻らす親父の背中が甚く格好良くみえて、憧れたのだとなどそこまでは言わなくてもいいだろう。あーでもない、こうでもないと取り止めもない考えを纏める時くらいしか吸わないがたまに吸うと妙にすっきりするような気がするのだ。父親が吸っていた銘柄を吸っているのは馴染みのある匂いだったからでべつに恋しいとかではない。
「……そんなものか。」
「試しにどうだ?」
「……俺はいい。それに、な…最近いい方法を見つけたんでな。」
「へぇ、それはぜひご教示いただきたいものだ。」
チュッ
柔らかな感触が唇に触れたと思えば、可愛らしい音をたてて離れていった。
「…苦いな。」
ペロリと触れていた唇を舐めとれば少しだけ眉を顰めて、顔を逸らす。
「……まぁ、お前がいないと成立しないのが難点だが」
鍔を直してしまったため表情は確認出来ないが軍帽から覗く耳がほんのりと紅く染まっていた。突然の口づけに呆けるように口が開いてしまう、とんだ間抜け面を晒してしまった。
(禁煙しよう)
短くなった煙草が指先を焦がして思わず落としてしまったのは致し方ない。