あの後確認に来たラミアス艦長とフラガ大佐には大層喜ばれた。艦長が話を通していたために今朝はコノエ大佐までいらしてくださって、そこでハインライン大尉は休養を命じられた。
まあ、うん、隈がな。明らかに寝てない顔してるからな。
というわけで今彼は隣のベッドで静かに眠っている。
相手の意識がないのをいいことに、改めてまじまじと顔を見る。
疲れた顔でも眠っていても、鑑賞に堪える造形に感心してしまう。
―睫毛長いな。量も多くて隙間もないし。これなら『爪楊枝くらい乗りそうだな』―
思考に声が重なった。
脳裏に情景が蘇る。
『爪楊枝くらい乗りそうだな』
『……何だって?』
いかにも不機嫌、というように眉が顰められる。
『お前の睫毛。そんだけバサバサ生えてるんだから爪楊枝くらいなら乗りそうだよなーって』
『それは今言わなければならないことか?』
『今思ったんだからしょうがないだろ』
ベッドの上、お互い上着を脱いだ状態、アルバートの手は俺の腰の両側、片膝は脚の間。吐息の混ざる距離で睨み合う。
『まったく。君が情緒に欠けているのは今に始まったことではないが』
『お前が言うか?それ』
『少なくともこのタイミングで言うことではないことくらいは僕は』
首を伸ばして、よく回る口を塞いでやる。
入れろ、とノックすれば逆に押し入ってきて絡め取られた。
互いの輪郭を確認するように触れ合い、瞳が色を深めたのが見えたところで首に腕を回して後ろに倒れ込んで――
仰向けに寝転がって顔を覆う。熱い。
―なんで最初に思い出すのがこれなんだ。恋人同士なんだから当然そういうこともあったんだろうが、もう少し他になんかあっただろう俺の大脳皮質!認識上はまだ知人レベルなんだぞ?!―
文句を言っても戻った記憶は消えず、今朝抱き締められた時の感触や体温まで思い出してきてどつぼにはまる。
死ぬ。羞恥で死ぬ。
脚は折れているわ部屋の端に医務官はいるわでのたうちまわることもできずにひたすら耐える。
―不可抗力だ、いずれ思い出すべきことだ、大尉は当然知っているんだから今更だ―
必死に繰り返して何とか気持ちを落ち着ける。
……気力と体力と、あと何かがごっそり減った気がする。
いちいちこんな思い出し方をしていたら身が保たない。彼が起きたら早々に話を聞いてしまおう……なるべく刺激の少ないものから。
ちら、と横目で窺えば少し穏やかになった気がする寝顔。
それともこう聞いてみようか。
”結局何本乗ったんですか”って。
……いや、やっぱり恥ずかしいからやめておこう。