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    みどりた//ウラリタ

    @midolitaula

    ネオロマンスの二次創作
    小説

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    POIPOI 30

    死、転生、モブ、ギャグより?、捏造注意
    幸村エンディング後の七緒と幸村が五月、三成、秀信の三人に干渉するお話。なんでも許せる人向け

    #遙か7
    far7
    #織田秀信
    #天野七緒
    shichioAmano
    #はるなな
    rape
    #真田幸村(遙かなる時空の中で)

    龍神の縁者 叔母上、あなたが日の本のために身を投じてから十二支が一周するほどの月日が経ちました。

     昨年の戦の折、真田殿を無事お迎えできたご様子にこの秀信も安堵致しております。高野山からも変わらぬその神聖な御姿を拝見しておりました。あなたの慈雨はあたたかく、その御心は戦に関わる関わらないを問わず、すべからく人へと伝わったことでしょう。
     思えばあの時、僕のこの生における役割も終わりを告げられたのでしょうね。「後のことは、僕に任せて」とあなた方を見上げる体は、どこも痛みを持ちえなかったのに。

     高野山ではお祖父様のこともあり、ずいぶんな扱いを受けましたが覚悟の上でした。僕がこの世に生を受ける前の出来事ですから何も申し上げる気はございませんが、お祖父様の気性の荒さが蒔いた受難の種が、僕の代で芽吹くとは。正直に言うと、あれほど入山を待たされるとは思いませんでしたよ。
     最後まで意思を曲げないお祖父様似の叔母上と、どんな決断をも受け止める心の広さを持った真田殿。お二人の出会いはそれこそ運命だったのかもしれません。骨も残らず、あなたの名を要人しか知らぬこの世で、私はあなた方と世の静謐を切に祈ってまいりました。それもまた、寺の者には知りえないことですから、面白くないことと映ったのでしょう。

     山でも悦ばしいことはありました。
     対面桜と言われる山桜がございますが、叔母上はもうご覧になりましたか。亡き太閤殿下の桜よりもずっと小ぶりで、岐阜城での山桜を思い出しませんか。そうです、あの叔母上の部屋からよく見える山桜です。お二人が濡れ縁で茶を共にしていたことを昨日のことのように思い起こせます。あの桜の前で、寝起きの叔母上に迫っていた真田殿を咎めたこともありましたね。
     叔母上はいかがお過ごしだろうか、そんなことを頭に浮かべ、ミソサザイの鳴き声に耳を傾けながら毎年対面桜を見ることが私の唯一の楽しみでした。
     ですが、それももう叶いません。石楠花が咲き始めた頃を最後に、私は山を下ろされました。もうあまり時間がないことを私も、寺の者も悟ったのです。
     九度山への道中に出会った際、あなたは私が生きてさえいてくれればかまわないと仰ってくださいましたね。城を攻め落とされ、父上のような最期を飾れなかったこの私に。敗戦の将など生きていても意味などないというのに。
    「私は、あなたが命を失ったらと思うと……そのほうがずっと悲しい」
     それは命よりも名を、家を惜しむこの時代は終わりを迎えるということでしょうか。

     父上。
     僕は二条城の父上のように立派な最期ではなく、さらには僕ではない多くの血を流してしまいました。しかし、叔母上の言葉に少し救われている僕もいるのです。
     平に、平にご容赦ください。

     叔母上が導く新しい世を、もっと見ていたかった。あなたが育ったような争いのない世を。
     この声が届くのであれば、どうか私をお導きください。

     仏にはさくらの花をたてまつれ
     わがいのちの世を人とぶらはば

     わたしが死んだら、仏となった私に桜の花を供えてほしい。
     わたしの後世を誰か弔ってくれるならば。(西行)

    * * *

    「七緒、どうか彼をお導きくださいませんか」
    「……お知り合いですか?」
     青いネモフィラ畑に薄桃色の長い髪がよく映える。地平線をも覆い尽くすこの青をかき分けて、幸村は七緒に頼み秀信の最期に立ち会っていた。
     龍神として月日を過ごしている七緒には、もう人として過ごした幸村との記憶以外はない。あったとて幸村と関係する何者かがいた、それだけだ。
    「あなたの家族です。私もあなたを想うばかりに叱責されてしまったことがあるのですよ」
     山を下ろされ一人寂しく冷たい床で、浅くなる息を待つ彼は自分の最期を見届けてくれた男であり、愛する人の家族の一人。
     昔、兄・信幸が領内である草津の温泉に迎えたという。幸村との初対面は岐阜城であったが、七緒にとてもよく似た面持ちの穏やかな当主、そういった印象を受けた。しかし旅や戦を通して、二人は紛れもないあの信長公の血を引く者、その強さを同じ瞳の奥に宿す者だと実感した。
    (私の姫の方が、少々意志が強いようではありますが)
     輪廻に囚われないこの神域で七緒の龍としての時間が終わるまでの間、人間の世を加護する。お互いの使命を果たし望んだことゆえ後悔はしていない。
    「そしてあなたの家族はもう一人、私の親友を想ってくださいませんか」
    「その人は今、どこに?」
    「遙か時空を超えたところにいますから、ただときより私と共に想ってくだされば喜ぶと思います」
     手近の青を七緒の髪に添え、頬を撫でれば七緒の心に呼応するように優しい風が地面の青を揺らす。
    「わかりました、あの方を導き、幸村さんの想いに私も重ねます」

     今の七緒にとって家族は幸村ただ一人。

     私に似た瞳の色をしているから、血縁者なのかな? この人は誰なのか、どういう人なのか、私をどう思っていたのか、まったく分からない。でも幸村さんが言うなら、きっと私も大切に想っていたんじゃないかな。
     そして顔も分からないもう一人の家族も。

    * * *

    「天野さん、いつもその写真を見てますね」
    「あぁ、遠くに暮らしてる妹と親友なんだ」
    「なんだかコスプレしているみたいですけど……いい笑顔ですね、とっても幸せそうです」
    「ありがとう、二人も喜んでるよ」

    「きっと」

     写真の二人が五月に微笑みかけたように見えた。

    * * *

    「おはよう、七緒、幸村」
     幾度と境内の山桜が咲き、散りゆく月日が流れただろう。
    令和の世に一人戻ってきたときは心だけがあの乱世の年月を経ているだけで、体も、家の庭の桜もそのままだった。銀杏が黄色くなり始めるころには、たった一人の大きな家に戸惑うこともなくなっていた。二人で行っていた家事も一人でこなし、遊びに来ていた幼馴染もいない、静かな家。高校最後の春休みに体験した遙か遠い時空の記憶を裏付ける物に毎日言葉をかけるも、返ってきたのは一度だけだった。
     無事に資格を取得し大学を卒業、今は公認会計士としての実務経験を積むために監査法人に勤めている。これが終わっても補修所の講習を三年受けないと登録はされないので、名実共に会計士として手腕を奮う日は遠い。天野家のゴーストバスターとして働くことも増えたが、あのときの経験に勝るものはなく淡々とした日々を過ごしていた。

    (今日は境内の落ち葉でも掃除でもしようかな)
     社会人にもなると神社のことを後回しにしまいがちで、せめてアルバイトでも雇うべきなんだろうと思い始めているが、なんとなく近くに人を置く気にはなれない。箒を手に境内へ向かう足取りが重かった。デスクワークの肩こりしかしない身体は少し鈍り気味で、ジムに通ってみてもいいかもしれない。健全な精神は健全な身体に宿る。逆もしかり。金はある、作れば時間もある、楽しみは……今のところない。

    (……忘れ物かな?)
     境内の賽銭箱の隣に見慣れないかごのようなものが見えた。寒々しい秋の休日、朝早くに参拝者はおらず、昨日の参拝者かもしれない。
    「えっ赤ん坊?!」
     そこには白い布で包まれかごに入れられた赤ん坊というのに等しい生後半年ほどの人間の子がひっそりと置かれていた。
    (肌はまだ温かい、でも近くに家族らしい人影は見えなし、えっとこの場合は警察? 救急車? あ、部屋に入れた方がいいよな)
    「あぅ」
    「どうした? 寒いのか?」
     七つまでは神のうち、ましてやコミュニケーションの方法が〝泣く〟以外ない赤ん坊につい言葉をかけてしまう自分につい頬が緩む。
    (七緒に笑われるな)
     七緒。
     たった一人の大切な妹。血を分けた家族ではないが、兄と入れ違いに現れた女の子。琥珀色の瞳に薄桃の髪。その正体は遙かなる時空を越えた世界の龍神。
    (琥珀色の瞳……)
    「ま、まさか……七緒?」
     赤ん坊に反応はなく、五月の指の第一間接だけ力なく握って五月を見上げているだけで冷たい風が二人を撫でた。
    (アニメやゲームじゃないんだし、流石に龍神でもそれはないか)
     そうだよな、まだ二人の役目は終わることはないし戻ってくるはずもない、と一人心の中で納得させるくらいには期待していたようだ。
    「うぅ」
    「置いてかれちゃったのか? 俺と一緒だな」
     慣れない手つきで抱き上げて、何か他に情報はないかとまじまじと見つめるも何か言いたげな琥珀な瞳。
     もう一人いる。七緒と本当に血を分けた家族。

    「……秀信殿?」

     笑った。笑ってしまった。二人をつなぐ本人がいないのに引き合わせてどうするんだと七緒に心の中で悪態をつく。
    (秀信殿には失礼だが、ここは兄さんじゃないのかよ!)

    * * *

    「五月、それは欲張りすぎじゃないか?」
    「困りましたね、あの人の血を分けた魂はもう新たな生を受けているんです」
     なんとか御霊を送り届けたものの、七緒にはその者たちの関係が分からないので文句を言われるとは思わなかった。
     幸村も導いてほしいとは言ったが、まさか親友の五月の元へと送られるとは思ってもみなかった。
    「あなたが育ったような争いのない世を」
     七緒は希望を叶えただけなのに。
     二人はどうしたものかと顔を見合わせた。

    * * *

    「やぁ五月くん、見ないうちに大人びたね。なんだか苦労を知った顔をしているよ、仕事で辛いことでもあった?」
     懇意にしている檀家さんをこちらも正装で出迎える。今日は吉日、七五三の祈願にいらしてくれた。お祖父ちゃんと息子さんご夫婦、本日の主役の長男君。年月を経た今、久しぶりの家族の気にもうやられることはない。
    「そんなことないですよ………よく晴れて気も清浄、うちの神様も皆さんを快く迎えてくれていますよ」
     でもなんとなく、お母さんの後ろに隠れるようにいる長男君が気になる。年齢的に人見知りは珍しくはないけれど、なんだか……。
    「こんにちは」
    「……」
    「すみません、まだ言葉が」
     少し明るい栗毛が可愛らしいが、切れ長の目は利発さを備えている。しゃがんで顔を合わせると、何か見透かされているような気がするのはなぜだろう。この歳で話せないことがこの違和感に関係するのだろうか。ご家族を思えば詮索しない方がいい。
    「気にしないでください。まずは受付を済ませましょう、こちらへ……」
    「五月」
    「!」
     立ち上がって事務所へ案内しようとしたその時に、足元から聞こえた懐かしい声に名前を呼ばれた。
    (この声……)
    「三鶴にい……」
    「あれ? もう名前知ってたかな? 五月君、この子はね、満っていうんだ」
     初めて言葉を発した喜びに涙する両親とは違い、落ち着いた声色でいられるのは流石、年の功。
    (いや、この声、七緒と入れ替わったくらいの兄さんにそっくりだ。それに)
     この自信に満ちている涼しい瞳。自分とは違う光。
    「あ、その、ちょっと待っててください」

     五月は走って件の赤ん坊を連れてきた。お昼寝の最中だった彼も最初は不機嫌に指を咥えていたが、五月と同じ色の瞳を見て天使のように微笑んだ。
    「満……くん。この子、秀信……だよ」

    「……あぁ、我らが神子殿と同じ瞳だな」

    *十年後*

    「そうか、幸村は約束を果たしてくれたか」
    「そして叔母上は幸村殿と一緒に私をも導いてくださったのです」
     子供とは思えぬ口調の二人が五月の淹れた茶を片手に天野家のリビングで語り合っている。秀信もここ数年で前世の記憶を完全に思い出し、天野家の三男として生活をしている。三鶴もとい満は近所の遊び相手として天野家に入り浸っているが、話している内容は物騒だし大変じじくさいときもあってちゃんと学生生活を送れているか気になるところ。
     秀信は自身の最期に、生前の姿のままの二人が笑顔で迎えに来てくれたという。やっぱり彼をここに寄越したのは二人だったらしい、この歳で子育てとはおかげで婚期が――予定はないが――確実に遠のいた。中身は年上であるし記憶を取り戻してくれた今では手がかかることのないのが唯一の救いだ。
    「五月、酒はどこだ」
    「飲まないとやっていられませんね」
    「お手柔らかに頼みますよ、それほど強くはありませんから」
    「この身体では違うかもしれませんよ」
    「なるほど」
    「お酒は二十歳になってからにしてください!」

    (家に人がいるっていいな)

     新しい家族というよりは七緒と幸村を偲ぶ会の誕生に、遙かなる時空を越えた先にいる二人も思わず声を出して笑い、下界にも慈雨の後に見事な虹霓が現れたとか。

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