秘密じゃないのにわからない 夜の駅前を君待が散歩していると、突然携帯が鳴った。画面には「霜原さん」の文字。さして深く考えもせず「はい」と出ると、電話口から溜め息が届いた。しまったと、何かしてしまったかと、言うより先に霜原の声が聞こえる。
「あー、焦ったぁ…帰ったらお前はいないし、メモとかもないし…」
心配したんだぞ、と、冗談めかして発したその声には冗談ではない本心が乗っていた。
君待はわからなくなる。なぜ心配なのか。なぜ心配されて嬉しいのか。君待は束縛が嫌いだ。だのに霜原に心配されて、多分中身が喜んでいる。
「今どこにいる?」
「んー…駅前?散歩してます」
散歩かぁ…と、何か考え込むような間があって、電話の向こうの霜原は、よし、と一言。
「俺今めっちゃアイスが食べたい。この間出たやつ。急がなくて良いけど早めに食べたい」
君待は驚いた。わかりやすい。本当はアイスなんてどうでもいい。指定したそれは家の傍のコンビニ限定の商品だ。
霜原は君待に、早く帰ってこいと言っているのだ。でも、そのまま言えば君待は謝るから、そうはさせるかとこんな要求を出してきた。なんで、そんなこと。君待にはわからないままだ。どうして、俺を舞い上がらせようとするんだよ。それでも「早くー」と急かす声を聞けば、なんだか体の中がくすぐったくて。
「しょうがないなぁ、待っててくださいよ」
なんて、笑顔で帰る約束をしてしまうのだ。