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    kurui_usagi39

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    #サン穹版ドロライ
    お題【逃避】+三十分ちょいくらいかかりました!サンポから逃げ回る穹くんのお話。

    逃げるのも程々に。走る、走る、走る。
    ボルダータウンの街中を、穹はただひたすらに走る。
    けれど、どれだけ走ってもサンポは行く先々に居た。
    逃げ回る穹をもてあそぶかのように、何処へ行こうと逃げられないのだと嘲笑うかのように、どう走ろうと振り切れないのに、そのくせ捕まえようともしてこない。
    勝敗の分かりきっているこの鬼ごっこは、いつ終わるのだろうか。

    「ハァ、ハァ、ハァ…」

    穹は体力には自信があったが、それでも限界というものはある。
    細い路地に身を隠し、深く息を吸って呼吸を整えながら表通りを慎重に覗き見た。
    気配はしない。…撒いたか?いや、サンポの庭とも言えるこの街でこんなにあっさりと撒ける訳が────

    「どうされました?何かを恐れるように隠れ忍ぶなんて、貴方らしくもない!」

    背後から聞こえた声に、ヒュッと喉が鳴った。
    考える前に路地を飛び出そうとして、捕まる。
    口を塞がれて暗い路地の奥へと引きずり込まれ、人の声も届かなくなった辺りで移動が止まり、ぎゅうっと抱きしめられた。
    後ろ抱き、バックハグ、あすなろ抱き。
    様々な呼び方があるその体勢は、腹は立つが普段ならば胸を高鳴らせてしまうもの。
    けれど今、穹の胸は別の意味でドキドキしている。
    冷や汗が、たらりと流れた。

    「よ、よう、サンポ…」

    「ふふ、こんにちは穹さん。やっと捕まえた…どうして逃げたりなんてしたんですか、僕は貴方に会いたくて会いたくて仕方がなかったというのに」

    甘く優しい声色だが、穹を抱く腕の力はどんどんと増している。
    やっともなにもその気になればすぐ捕まえられただろうし、逃げた理由も分かっているくせに。
    そう悪態をつきたいが、今回はわりと自分が悪い自覚があるのでなにも言えない。
    黙り込む穹の耳朶に、サンポの柔らかな唇が触れる。
    吐息と共に、囁きが吹き込まれた。

    「ねぇ、僕の最愛の貴方。コレ、説明してもらえます?」

    サンポの取り出した端末の画面が路地を少し明るくする。
    その画面には、とあるSNSに上げられた投稿が写し出されていた。
    上質な衣装を身にまとう顔の整った狐族の男達と、彼らに囲まれ肩まで抱かれ、挙句頬にキスまでされて頬を染める穹の写真。
    『星穹列車のナナシビトさんと!』というタイトルで投稿されたそれは、仙舟・羅浮の所謂ホストクラブ的な場所で撮られたものだ。
    見るのは仙舟に住む人間がメインの地域型SNSに投稿すると聞いていたのでサンポに見られることは無いと穹は油断しきっていたのだが、今日顔を合わせた瞬間にサンポの表情からあの写真を見られたことを察し、さっきまで逃げ回っていたのだった。

    「え〜〜〜っと…その…弁明とか聞いてもらえる感じ?」

    「経緯は詳しく教えていただきたいですね」

    「ッスー…はい…あの、始まりはこの、俺の右隣に座ってる人。この人のストーカーが起こした事件に巻き込まれて…」

    ホストクラブのNo.2にまでのし上がった彼は、そこに至るまでずっと指名を続けてくれていた常連客の女性ともめていた。
    女性は『今まで散々貢いだんだから』と彼に何度も強引に交際を迫っていたらしい。
    店外での待ち伏せやプライベートの盗撮、つきまとい、執拗なメール。
    その果てに刃物を持ち出し、泣きながら彼にそれを向けた場面に偶然遭遇したのが穹だった。
    女性を宥め、双方の話を聞き、No.2の彼も悪い所はあるが、だからって犯罪行為はいけないと諭し…最終的には穹と話す内に冷静さを取り戻した女性が謝罪し、事件は収束した。
    この出来事を知ったクラブのオーナーが『うちの二枚看板の一人を救ってもらったのだから』と穹を店に招待してくれ、その時に撮った写真が先程のものである。
    ちなみに穹の頬にキスしたのはNo.1の男で、当時撮影の様子を見ていた彼の客達が血涙を流しながら睨んできた恐ろしさを思い出し、穹は身震いした。

    「へぇ〜!お礼ですか〜!なるほど〜!貴方が助けた方じゃない人がなんでキスしたんですか、たらしこみました?」

    「人聞きの悪いことを言うな理由は知らないけど『あいつを怪我させないでくれたお礼!』って急にされたんだ、それだけ!」

    「お礼のキスに、こんな表情を?僕じゃない男にキスされて。ふぅん、へぇ」

    No.1の流石の顔の良さについ照れた、などと本音を漏らせばどうなるか。
    これ以上サンポを怒らせたくなくて、穹は色々な言葉を飲み込み『他所で人とベタベタしてごめんなさい』と素直に謝っておく。
    それでもサンポの口から出るのは『ふぅん』『へぇ』『なるほど』というどこか冷たい返事ばかり。

    「なぁ〜本当にごめんって、そんなに怒るなよ」

    「…本来ならこの程度、それほど気にしませんけどね。逃げたりせず最初からお話ししてくださったのなら、ね」

    サンポの怒りの度合いを、抱えていた後ろめたさのせいで測り間違えたということだろう。
    別に浮気したという訳でもないのだから、堂々と会って堂々とこんなことがあったんだ、なんて土産話をすれば良かったのだ。

    「本当に悪いと思ってます?」

    「ハイ、反省してます…」

    「なら、今日は僕のやりたいことに文句を言わず付き合ってくださると嬉しいのですが」

    「…うん、いいよ。詐欺の片棒担ぐ以外なら」

    「サンポは善良な商人ですと何度言ったら」

    ぶつぶつと文句を言いつつ、サンポは穹の身体に手を這わせ始める。
    なるほど、ヤりたいこと。そういや前に似たような場所で迫られて外はヤダって断固拒否したんだっけ…
    少し前の出来事を思い出して、穹は現実逃避するようにボルダータウンの暗い空を見上げた。
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