💣「あんまり可愛かったのでつい」「サンポ。俺の事、好き?」
「はい、好きですよ」
ぼんやりとした表情のサンポから聞き出した言葉に、穹はホッと安堵の息を吐く。
ゲーテホテルの一室、ベッドの縁に二人並んで座るサンポと穹。
この部屋を取ったのは、他でもない穹だ。
切っ掛けはとある知人から教えてもらった"催眠術"。
効果の程は人それぞれだが、上手くいけば普段は聞けない本音を聞き出せたり、普通なら聞いてもらえないようなお願いを聞いてもらったり出来るというそれ。
知人から学んだそれを穹が真っ先に使ったのが、このサンポ・コースキだ。
試したい事があるのだとめいっぱい甘えてねだったら不審がられたので信用ポイントをちらつかせ、それでも何を感じ取ったかやけに渋る彼に今度はバットをちらつかせ、ようやくこの部屋に連れ込んだ。
…この男と穹は、俗に"恋人"と呼ばれる関係…だと、思われる。
少なくともサンポは穹を最愛の人と呼び、会う度に愛の言葉は囁いてくる。
穹もこの男を好いているし、デートもキスもそれ以上の事も、全てこの男に教えられた。
だが穹は、どうにもこの男の愛とやらを信用しきれていなかった。
サンポの好意はうわべだけのもので、本当はこれっぽっちも…いや、もしかすると多少の情くらいはあるかもしれないが、とにかく利用したいが為にそう振舞っているのではないだろうか。
穹の胸には、そんな不安がずっと巣食っていた。
そんな時に知ったのがこの催眠術。
上手くいけば本音を聞き出せる、その部分に穹は飛びついたのだ。
そしてつい先程まで訝しげにしていたサンポはしっかりと催眠術にかかった様子で穹の質問に答え、その答えに穹はへにゃりと表情を崩す。
「そっか、好きか。よかった、へへ…」
ぽす、とサンポの胸に寄りかかり、ぐりぐりと頭を擦り付ける。
嬉しかった。この男の愛は本物なのだと、ようやく信じられた。
「俺も好き。あんたが好き。どうしようもないくらい、好き…」
催眠術にかかっている間の記憶は失われると聞いていたので、穹は普段ならとてもじゃないが恥ずかしくて言えない言葉を連ねていく。
今までは、疑念から素直に甘えられなかった。
本当に愛されているのだと知った今なら、正気に戻ったサンポにも甘えられるようになるかもしれない。
けれどまだしばらくは意地と恥が勝りそうな予感がして、ならば今の内に思いきり甘えておくかとサンポへぎゅうと抱きつく。
サンポが抵抗しないのをいいことに顔をぐっと近付け、面食いの自分も思わず唸る整った顔立ちをまじまじと観察し────ちゅ、と軽く唇を重ねた。
「…はじめて俺からちゅーしちゃった…」
へにゃへにゃと自分の表情が崩れるのを感じながら、穹は小鳥が啄むように何度もサンポにキスをする。
キスは好きだ。サンポは会う度によくキスをしてくれたから、これはきっとバレている。
だが、自分からしたのはこれが本当に初めて。
普段とはまた違う幸福感に酔う穹を、穏やかな微笑をたたえ見つめるサンポ。
だがいつの間にか、その肩がふるふると震え始めていた。
「ん、ん…好き、サンポ…」
「…………」
「すき…、?あれ、どうして震えて」
「…ーーーーーもう我慢の限界です可愛すぎでしょうこの人はもぉ!!」
ぎゅう、と力いっぱい抱きしめられて、思わず潰れたカエルのような声が出る。
そしてすぐ解放されたかと思うと、貪るような深い深いキスが始まった。
頭を掴まれ固定され、熱を分け合うように深く深く重なって。
何分ほど経っただろうか、ようやく唇が離れ互いの顔が見えた。
目の前の男の表情は、とてもじゃないが催眠術にかかっているようには見えなかった。
「っあ、あんた、いつから!」
「……エー、はい、8回目のキスの辺りからですかね」
「8回目って分かるってことはその前からだろていうかその反応さては最初から正気だったな!?!?」