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    SDefbs222

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    高一/付き合ってない

    ##仙越

    文化祭での仙と越の話「越野、バトンタッチ」
    「おーっす」
     同じTシャツを着たクラスメイトに背中を叩かれ振り返る。握っていたコテを彼に渡して後ろに下がった。
    「お疲れ」
    「おう。次よろしく」
     同じシフトだったメンバーと一緒にテントを離れる。ずっと鉄板の横にいたから汗が止まらず、首にかけていたタオルで顔を拭く。袖捲りしたTシャツも汗で首元の色が変わっていた。
     今日は高校に入って初めての文化祭。義務教育の間よりずっと自由なお祭りは仕事の間だって楽しい。うちのクラスでは焼きそばで出店している。ちょうど昼時のシフトだったから活気があって、焼きそばを焼いてるだけなのに随分とテンションが上がった。
     さて、あとはフリータイムだ。仲のいい友人は明日のステージの準備があるし、回っていれば誰かしら知り合いはいるだろうと、この時間は誰とも約束していなかった。
     ぐうぅ。
     役目から解放されて気が緩んだからか、腹の虫が鳴った。まずは何か食べよう。でもずっと浴びてたソースの匂いはもうこりごりだ。
     そんな時、ふとチームメイトの顔が浮かぶ。確か仙道のクラスが喫茶店だったはずだ。尻ポケットに入れていたパンフレットを引っ張り出す。
     仙道は準備に参加する必要がなかったらしく、詳しい内容は知らないと言っていた。オレたちのクラスも事前準備といえばチラシと食材の手配くらいだったから、食べ物系の出店はどこもそういうものなのだろう。
     パンフを見る限り普通の喫茶店だ。仙道がいるかは分からないが、とりあえず屋台の香りじゃないものが食いたい。まだ滲む汗を拭きながらオレは校舎の中に入った。


     階段を上がって仙道のクラスがある廊下に出ると、学内では見たことのない長蛇の列ができていた。ほとんどが女子で、うちの学校じゃない制服の姿もある。
     何だ何だと列の先頭まで向かう。開いたドアから覗くと、教室の中にはホストのような格好をした――――
    「仙道ぉ!?」
     トレードマークのツンツンヘアではなく前髪をかき上げたチャラい髪型をした奴は、カラースーツを身に纏い、壁際で椅子に座っていた。疲れ切った笑顔で女子に挟まれ、チェキを撮られている。
     高校生らしからぬ風貌の仙道と手作り感溢れる飾りつけをされた教室はミスマッチで、廊下から唖然と見ていた。女子が写真を受け取るために立ち上がった瞬間、中央に座る奴と目が合う。
    「越野っ!」
     仙道は椅子を倒す勢いで立ち上がり、横にいた男子の制止を振り切ってこちらに駆け寄った。
    「待ってた!」
     思いっきり手を掴まれた瞬間、教室内の女子から黄色い声が上がった。仙道の後ろではコイツのクラスメイトが何やら騒いでいる。何が起きているのかは分からないが、面倒に巻き込まれたことだけは理解した。カオスな空間に気押されつつも、首を下げてオレの手をギュッと握る仙道の手からは本気の安堵が伝わってくる。
    「おいまだ終わってねーぞ仙道!」
     一人の男子が仙道の肩を掴むと、仙道はムッとした顔ですぐに振り払った。
    「もう散々付き合っただろ」
     荒い口調のクラスメイトの言葉に耳を傾けることなく、オレと手を繋ぐように手を組み直す。そして、
    「行こっ」
     仙道はオレの腕を引っ張って廊下に出た。呼び止めるクラスメイトを無視して、列を成す女子たちの横を走り抜ける。悲鳴なのか歓声なのか分からない叫び声が後ろから聞こえた。
     文化祭を楽しむ生徒たちを上手く避けながら、仙道は廊下を駆け抜けていく。オレは引きずられるようにコイツの開けたスペースをすり抜けるしかない。何度か先生の注意の声が聞こえてきたが、仙道がスピードを緩めることはなかった。
    「……ハハハッ」
     走りながら突然仙道が笑い出した。意味分かんねーって思ったけど、後ろ姿からでも仙道が楽しそうなのが伝わってきたから、何でかオレも困り顔のまま笑みが溢れた。


     人気の少ない廊下の端、スズランテープで封鎖された階段で仙道はようやく足を止めた。
    「あー、疲れた」
     仙道が息を吐きながら壁に背をつく。その動きに合わせて自分の体も引っ張られたことで、ずっと手を繋いだままなことを思い出した。
    「あ……」
     気まずくて、どちらともなく離した。
    「まったく……何なんだよ」
     変な空気になる前に、汗ばんだ手を握り隠しながら質問する。
    「騙されたんだよ。クラス全員、グルで」
     珍しく疲れた顔をした仙道は肩を落として、ことの顛末を話し始めた。
     仙道は当日頑張ってくれればいいからと、事前準備に呼ばれなかった。それは前から聞いていた話だ。
     そして文化祭当日の今朝、のんびり教室に赴くとクラスメイトらに腕を掴まれ洗面台に直行。髪は洗われてこのセットに直され、服も派手なカラースーツに強制的に着替えさせられた。
     というのも、仙道のクラスは文化祭で売り上げ優勝を狙っているらしい。ならば仙道彰という、学年、さらには学校を超えた有名人を使わない手はない。客寄せパンダとして出し物の目玉にしようというわけだ。文化祭自体は楽しみだし、準備に参加しなかった引け目もあり、仙道は渋々この姿で協力することにしたそうだ。「でもこういうの、学生としてどーなの?」とジャケットの襟をつまみながら愚痴をこぼす。
     客寄せパンダなら宣伝に行くんじゃないかと尋ねたら、「オレもそうだと思ったんけど、その……オレで稼ぐからって、行かせてもらえなかった」と肩を落として頬を指で掻きながら返された。
     何と、普通の喫茶店メニューとは別に、スタッフと写真を撮れるサービスを提供していたらしい。もちろん有料で。オレが見かけたのもそれだ。スタッフなら誰とでも、といっても実質仙道との撮影会と化していたそうで、あの行列は全員仙道待ちだったのだろう。しかし文化祭でこんな企画、モラル的にどうなのだろうか?
     どうやらクラスにもやましい気持ちがあったようで、仙道と写真を撮れることは当日の客引きだけが宣伝していたらしい。それでも口コミで喫茶店にはどんどん人が集まってきて、開場から一時間も経たないうちにあの混みようになったそうだ。そうなったらもう教室から出ることは許されない。
    「越野が来てくれなかったら、あのままずっと捕まってただろうな」
     そう言って仙道は息を吐き、解説を締めた。
    「まぁ……流石に同情するわ……」
     珍しくぐったりした仙道の肩に手を置く。
    「でも他の知り合い……バスケ部の奴とかは来なかったのかよ」
     オレはシフトが入ってたから知らなかったけど、そんな話題になってたなら誰かしら来てるだろう。
    「何言ってんだよ。こんなん巻き込まれてくれるの、越野くらいだぜ?」
    「……それ、バカにしてるか?」
    「してねーさ。めちゃくちゃ信頼してるってこと」
    「都合のいい奴」
     ジッと睨め付けると仙道はふふふと俯いて笑った。そして体を壁に預けたままこちらに顔を向ける。
    「越野さ、このあと予定ある?」
    「いや、別に」
    「なら巻き込まれついでに一緒に回ってよ。一人でクラスの奴らに見つかったらまた連れ戻されそうだしさ」
    「いーけど」
    「やった!」
     ようやく本来の笑みを見せた仙道は無邪気で、つられてオレの顔まで綻んだ。
    「とりあえず服着替えてーな。髪もいつものに戻したいし、部室行っていい?」
     壁から体を起こした仙道は、伸びをしながら振り向く。
    「今日って部室棟に入ってよかったんだっけか?」
    「これは非常事態だから」
    「つーかジャージの方が目立たね?」
    「これよりは全然マシ」
     歩き始めた仙道の後ろに続いて、階段に張られたスズランテープを潜る。
    「せっかくだし着替える前にオレにも写真撮らせろよ」
    「一枚五百円でーす」
    「高っけ!」
     二人分の笑い声を階段に響かせながら一番下まで降りていく。そしてあれしたい、これしたい、なんて話に花を咲かせながら、誰もいない部室棟へと向かった。


     翌日――――
    「焼きそば一つ」
    「客引き中に食っていいのかよ」
    「もう休憩中だから」
     今日の仙道は普段のハリネズミヘアで、カラースーツだけ着ていた。置かれたお代と引き換えに、鉄板の上の焼きそばをパックに詰めて渡す。他に客もいないので、仙道は早速店の前で開き、一口頬張った。
    「熱っ……ん、うま」
     撮影会はやはり問題になっていたようで、厳重注意とともに今日の開催は禁止になった。昨日の帰り際に仙道と下駄箱でたまたま会った時にそう聞いた。
    「良かったな、今日は普通に文化祭できて」
    「本当だぜ」
     安心した仙道の顔を見て、オレもホッとした。
    「越野、それ熱くないの?」
    「あっちーよ。ほら、部活の時よりすげー汗」
     日常生活の中で使うことのないビッグサイズの鉄板を眺めながらたわいのない話をしていると、
    「お、駆け落ちコンビ」
     材料を取りに校舎に行っていたクラスメイトが戻ってきた。
    「マジでやめろよそれ」
     昨日のオレたちの姿はその日のうちに学校中に知れ渡っていたらしく、今日も朝からもう何度もからかわれている。
    「いーじゃねーかハニー」
     同じく当事者なはずなのに、仙道は笑いながら茶々を入れてきた。
    「よくねーよ! つーか助けたのオレだし!」
    「じゃあダーリンだ」
    「そういうことでもねー!」
     結託してオレのことをイジりはじめた仙道とクラスメイトにムカつき、ギリギリと歯を噛み締めていると、
    「すいませーん」
     仙道の大きな体の後ろから声がした。クラスメイトが急いで焼きそばを詰め始めたので、オレがお代を受け取る。周りには他にも買うつもりの人間がチラホラ見えた。
    「じゃあオレそろそろ行くわ」
     テントの端に避けていた仙道は、食べかけのパックを閉じて声をかけてきた。
    「おう」
    「越野、頑張ってな」
    「お前もな」
     仙道は片手を上げて挨拶し、人混みの中に紛れていく。お客の相手をしながらオレは、一際鮮やかな背中を心の中で見送った。
     頬を撫でるような風が吹く。高く見える空は晴れ渡り、心地がよい。
     今日もまた、楽しい文化祭になりますように。
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