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    kantri_mamu

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    kantri_mamu

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    思いついたの書き起こしたけど…誤字脱字だとか、変な表現あたらごめんネ…

    ともかず♀

    「……その、きょうは…」

     万葉はモジモジとちまこい指先を臍の前で擽りながら、自分よりも高い位置にある彼女の顔を見上げる。万葉より頭一つ分背が高いので、キスをするにも一苦労なのだ。
     背伸びをしても彼女が意地悪をして踵をあげれば、万葉はキスできないまま雪のように白い頬を膨らませるしかない。しかし、キスが届かない身長差も万葉は気に入っていたのである。

    「したいならやるが、…最近、ハマりすぎてるんじゃないか」
    「ぅ……」

     万葉は女同士の恋愛を自分はしないと思っていたタイプだった。楓原家の長女として生まれてしまった万葉の成すべきことは子を作り、子孫繁栄を目指すこと。だからその分、満足のいく恋愛なんて出来ると考えもしなかった。
     楓原家が没落してから、彼女と出会うまでは。

    「あ、あのような快楽は感じた事がなく……確かに、癖になっているやも」
    「やっぱり」
    「…少し馬鹿にしておるな。お主は経験が豊富やもしれぬが、拙者はそうでない。女故に身体を大切にと家来からよく言われておった」

     そのどれも"子を作るため"なのだから素直に喜べなかった。あれだけ子どもの話をされ、身請け話を受け、その目的とやらが明確に見えていると嫌にもなるというもの。楓原家を継ぐ子を産むために食事を出されているのかと思えば、背筋を撫でる嫌悪感は拭えなかった。

    「別に、俺は誰彼構わず身体を許してない。それよりか顔に傷があるからな。誰も抱きたいなんざ思わねぇさ」

     顔の傷も彼女の魅力の一つだと気が付いていないらしい。
     彼女はにへらと力なく笑って、「お前は変わってるよ」と顔を見つめていた万葉の赤い瞳を覗き込んだ。長い前髪の奥に隠れた目が慈愛に溢れている事、万葉は堪らなく大好きだった。

    「良くも悪くも世間を知らないんだろ。傷物がどんな扱いを受けてるか」
    「…うむ。存じ上げぬ」
    「女としての価値がねぇんだって。女は化粧で可愛らしく、綺麗で上品な召し物を身に付け、艶のある髪を簪で纏めるのは当たり前。このどれも俺はやってなかったのに加え傷物ときた。そりゃあ村から追い出されたさ」

     万葉は時折頷いて、イヤな村の話を語る彼女の表情の微々たる変化を逃さぬ様にと、ジッと目を凝らして見つめていた。

    「女らしくって言葉…俺は嫌いだ」

     普段では出さない様な低い声に胸元に潜んでいた白猫が膝に飛び出して、彼女を心配するように鳴いた。
     真っ白な顎を撫でてやればゴロゴロと喉を鳴らして擦り寄ってくる。そんな彼女を眺めていた万葉は「よかった」と、安堵するように息を吐いた。

    「よかったって、何がだ」
    「己が世間知らずでよかったと、今しがた思うたのでござる」
    「…世間知らずは皮肉だが?」
    「おや、そうであったか。後で何かしてもらわねば」

     ニコリと目尻を下げて微笑む万葉に「へーへー」と返事をする。万葉の求める事が分かってしまうからこう返すのだ。

    「世間知らずでよかったと思った理由。それは拙者が世の情勢を熟知しており、女の定義とやらを纏めて信じ込んで居れば、お主を毛嫌いしておった可能性もあるのであろう?」
    「まぁ…そうだな」
    「ふふ。ならば答えは出たでござるな」

     彼女は暫く黙り込んでから「やめとけよ」と白猫を万葉の膝に乗せ、自分は後ろに寝転がる。天井の木目を意味もなく見つめて「後悔するぞ」と万葉を目にもせず言う。

    「それは…お主が決めることではあらぬ」
    「だとしてもだ」
    「……急にどうした。拙者の為を思うのなら、それは余計な世話と言うやつでござる」
    「余計な世話でもいいさ。名家とか関係なく、お前は男を選んだ方がいい」
    「…最初に手を出した癖に」
    「あれは酒だろ」

     酒でもシラフでも手を出したとなれば同じ事である。
     万葉はそう思って、子猫を片手に友の腹の上に容赦なく腰を下ろした。

    「おい、どけ」
    「好きだ」

     パチクリと目を瞬かせてから彼女は「はあ?」と顔を顰めて万葉の顔を凝視し、どうにか起き上がろうとするも胸の上に猫を下ろされ、しかも香箱座りをするものだから起き上がれない。

    「好きでござる」
    「……なんだってんだよ藪から棒に、」
    「生半可な気持ちでお主を好きだと申しておらぬ」

     鼻の上、顔の中心に咲く傷跡を指先でなぞり「拙者はこの傷、好きでござるよ」と目を細めて笑う。

    「髪色も黄金の草原の様に美しい。いつもは髪で隠れておるが、こうして…じっくり眺めるのも好きだ」
    「…………なんだよ。いつも遠回しに好きだって言うだろ」
    「それではお主の心に響かぬのかと思い、直接口にしておるまで。お主の事が好きで好きで仕方がない故に」

     ニコニコと上機嫌に好きなところをあげていく万葉。それをずーっと耳にしていると脳が熱くなって溶けてしまいそうだったので、彼女は万葉の桜色の唇を掌で塞いで「わぁーったから」と長い髪で顔を隠しながら言った。

    「なら良い」

     猫を畳に下ろしてから万葉も退いた。そうして開放された友は「かずは」と名を呼び、小さなちいさな声でちまちま話す。
     その声、万葉にはきちんと届いていた。

    「うん。拙者も同じ気持ちでござるよ」
     

     

     
     
     

     
     
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