フォ学なんちゃってサスペンス「……っ」
ぴちゃり、と音を立てるものはなんだろう。ぼんやりと足元を見下ろす先に、見覚えのある色が見えた。
ふわふわと柔らかそうで、けれど冬の海のような、どこか冷たさをはらんだ灰と青。
暗闇に目が慣れて来たのか、ゆっくりと目の前の光景が像を結ぶ。いつも清潔に整えられているはずの髪が乱れて、その色が床に散っていた。
「…ぁ…」
知らず、声が漏れる。視線が、無意識にその先を追う。
ぴちゃり。もう一度あの音がした。
その時初めて、嗅ぎ慣れない何かの匂いを感じる。生臭く、空気ごと重くするようなその匂い。
灰青の先。多分、背中のあたり。ベージュのベストが赤黒くグラデーションしている。
どうしてだろう。
鮮烈すぎる光景は思っていたよりも彩度は無い。それでも、『それ』が赤いのだ。赤かったのだと分かる。分かってしまう。
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