混凝土山剣仙p.m3:00
温客行に作らせた飯をたらふく食べ、白猫に白米という名前をつける。名付け祝いと称してパンケーキを所望、トッピング用のクリームと果物を買いに周子舒を走らせる。
文句を喚き散らすコックを無視して猫と遊ぶ。
p.m4:00
出来上がったパンケーキを前に紅茶を希望、ミルクティーが飲みたいと牛乳を要求するが、パンケーキに使い切った! と言われて唇を尖らせる。買いに行くと申し出る周子舒に、おおらかに今日は諦める旨を伝える。
態度がでかいと怒るコックを無視して食べ進め、クリームを狙う猫をあしらう。
p.m5:00
野生生活をしていた猫には蚤、ダニがいるのでは、という話題になり、神仙三人により囲まれる爆睡中の白米。神仙の研ぎ澄まされた眼力を駆使しても発見に至らず「清潔で崇高な猫」という称号を得る。目が疲れたのでブルーベリー入りのミックスジュースが飲みたいと聞こえよがしに呟く。結局、周子舒が牛乳の買い出しに向かう。
ジャンクなものが食べたいと、勝手に冷蔵庫を漁るとじゃがいもを発見、叫び吠えるコックにフライドポテトを注文し白米に添い寝しながらテレビを見る。
p.m6:00
昔話に花を咲かせながらポテトとジュースを貪る。定位置のように膝の上にいる白米を時々撫でる。なんで貴様に、と憎しみの籠った視線を投げかける温客行に鼻を鳴らし白米といちゃつく。残ったら気の毒だと思い、牛乳を全て飲み干す。
また訪ねてくる旨を白米に告げ頭を撫で、飼い主に言えよ! と怒鳴る終業後のコックを無視し、黒い方に拱手され懐かしいと笑いマンションを後にする。
p.m6:40
地下鉄に乗る。
p.m6:50
地下鉄車内において怪しい視線を飛ばす男を発見する。男の目の前に立つ若者は尻ポケットから財布をのぞかせているが会話に夢中、怪しい男は掏摸であろうと知れる。
尻ポケットはよほど無防備、これも授業料かとも思う。しかし、明らかに掏摸の男は常習性を感じさせる手馴れた様子だ。
勉強と常習。どちらが公益かを一瞬考え、パーカーのポケットの中で入っていたレシートを千切り、小さく丸めた。
誰の目にも止まらない速さで一瞬、ポケットから手を出す。
「いてっ」
「うあっ」
素知らぬ顔を決めこみ、周りに合わせて声の方に視線を投げる。
若者が怪訝な顔をして背後の男を振り返っている。友人らしき若者達がどうした、なんだ、と声をかけた。
「なんか、尻を触られた」
「はあ?」
若者達の一人が、財布に気がついた。
「おい、盗もうとしてたんじゃねぇの?」
「い、いや、そんな、まさか」
犯罪慣れした仕草の割に言い訳が素人くさい。そんな事を思いつつ、自分と男の距離などをもう一度冷静に測る。
痛みを感じさせない程度に紙玉を飛ばしたつもりだったが、強すぎたか。
まあ、かまわん。
冤罪だ! と喚く男の腹にもう一度紙玉を飛ばす。ジャンパーの裾からポロポロといくつもの財布が落ちた。駅員につき出そうと若者達は男を捕らえている。
ごくろうさん、とどちらへともなく心の中で呟きあくびをした。
p.m7:10
人の波をすり抜けて駅を出る。
p.m7:20
高級なスーパーやレストラン、カフェなどの瀟洒な建物が並ぶ通りを、楽しげな人々が行き交う。高級を冠する街は緑地公園を囲み、自然にあふれ落ち着いた印象だ。
「あ!」
幼い女児の声に目をやれば、小さな手から風船がふわふわと離れていく。
手加減して走り、手を抜いて飛ぶ。
糸を掴んで女児に差し出してやる。
「ありがとう、哥……」
もじもじと告げられる礼に笑みを返した。
p.m7:30
群の中で一番高層のマンションのエントランスをくぐる。
エレベーターホールに行けば、二基はどちらも上に向かっているところだった。あたりに人の気配はない。
とん、と軽く床を蹴って翔ぶ。扉の切れ目に指の一本で触れ、瞬間力を込めて扉をこじ開け体を滑らせる。わずかな鉄骨の張り出しに爪先を置いて、また扉を閉める。
微かな隙間、一瞬の速度。
監視カメラは扉の外に向けられていて開閉は映らない。画像に姿を残すようなことはしない。
真っ暗な昇降路の中を跳ねて上がる。
モーター音の合間にコンクリートの壁を蹴る音が響く。
籠が頭上に迫る気配を察し、隣のレーンに配線をすり抜ける。抜けた先で足元から籠が迫ってくるのを感じる。それに追いつかれまいと壁を蹴って翔ぶ。
相手は途中で止まってしまい、ささやかな勝利ににやりと唇を歪ませる。闇の中。
最上階に辿り着き、入った時と同じように素早くホールに躍り出た。
p.m7:35
玄関ドアはマンションとは思えないほど重厚な作りだ。高級住宅地と呼ばれる場所で一番高い場所にあるその部屋には相応しい雰囲気かもしれない。
だが、ドア横にある暗証番号錠に打ち込む数字はふざけている。
526811786
若者達が使うネットスラングの数字だ。
526は『我好饿』お腹がすいた。
786は『吃飽了』ごちそうさま。
真ん中の811は『ばいいー』だ。
『お腹がすいた白衣ごちそうさま』
ガチャリとロックの外れる音を聞きながら、なんだそれは、と毎回思う。
だいたいにして、若者の使うスラングなどすぐに廃れる。526も786もすでに古くさい部類に入れられる。
部屋の中はマンションとは思えないほどに広々として天井も高い。
当たり前だ。ワンフロア全てを占有しているペントハウスで、メゾネットの二階もある。
壁の方が少ないのではと感じるほどにガラスが使用されていて、果てしなくどこまでもが見通せるような気がする。今は薄闇が広がり、夜景が始まろうとしている。
しんとした室内は明かりがつけられていなかった。
コツコツと床を鳴らしながら歩んでいく。
開け放たれたドアから明かりが漏れている。何かを刻むような音も。そして、低音の鼻歌も。
自然と笑みを引く唇を落ち着けようと真顔を作ってみるが、無駄な努力だった。
「今日の晩飯はなんだ?」
背の高い男に高さを合わせたシンクの前に広い背中が見える。くたびれたジーンズをはき、着心地重視が伺えるてろん、ととろけたカーディガンの袖を捲り上げていた。
ぽやぽやと好き勝手に飛び跳ねる、背中を覆うほどの長さの白髪をひとまとめにしている。くるりと振り向いた男の顎には無精髭が踊っていた。
男は目を細めて微笑する。
「パスタだ。シンプルなペペロンチーノ」
ニンニクの刻まれて立ち上る香りに鼻を蠢かしながら葉白衣は周囲をさっと見回す。わざとらしく眉を顰めた。
「シンプルすぎないか? 具材が見当たらないぞ」
「俺はその方が好きなんだよ。付き合え。代わりにサラダには豪華にスモークした魚介を合わせるし、お前にはピザもつけてやろう」
ピザ。呟き、とたんに葉白衣の顔が明るさを増す。男が思わず吹き出してしまうほどに。
「良い炭水化物責めだ」
「野菜も食えよ」
「食ってるだろうが」
細長いコリンズグラスを食器棚から取り出して適当に水を入れる。
「白衣、あ! まて!」
止められるより早くひょろりと長い花をいける。
白と黄色の2本の水仙だった。
男がはぁ、と短く息を吐いた。
「ちゃんと花瓶があるのに何故わざわざグラスに」
「花瓶を探すのが面倒だ。見てみろ。相性が良い。花の気品と愛らしさを高めておるではないか」
「口の減らない。しかし、どうしたんだ水仙など。土産か?」
「貰ったのだ。親切の礼にと、女人から」
「ほう。麗しいご婦人か」
「それはもう。二十年もしたら世の男どもが騒ぐであろうな」
「二十……お若い女人だな。あ、一応言っておくが、水仙を食うなよ。さした水も飲むな」
「わかっておるわ! わかっておるし、食わんし飲まん。それほど私は貪欲か?」
「白衣は貪嘴だからな」
「ぬかせ」
ひょこひょこ隣に並んで男の手元を見る。大きな手がレタスをちぎっている。玉ねぎに紫キャベツ、黄色のパプリカはスライス済みだ。
「赤みが足りないぞ。トマトは」
「後で乗せる……白衣。またやったな」
「なにが?」
素知らぬ顔をして男を上目する。さほど身長が低いわけではない葉白衣なのに男の隣に並ぶと頭一つほど小さく、体はずっと華奢だ。
男は葉白衣のいく筋か白髪がアクセントのように入ったミディアムショートの頭頂に鼻を寄せる。
「しらばっくれるんじゃない。オイルと鉄とコンクリートの匂い。またエレベーターの箱の外を使ったな」
「相変わらず、気持ち悪いほど鼻の効くやつだな」
「それを知ってるのにやる方が悪い。やめろと言ってるだろう。もしもがあったらどうする」
「もしもなどない。あの場で起こりうる危機は百通りも頭にあり、逃げ道は常に十ほどある」
「百一番目の危機が起こり十全ての道が塞がったら?」
「それは、おまえ。壁に穴をあけるという最終手段に」
両の頬をむぎむぎとつねられて葉白衣が飛び跳ねた。にんにく臭くなる! 叫ぶがなかなか許して貰えない。
「必要のない危険に立ち向かうんじゃない」
「エレベーターを待っている時間にいらいらするのだ。乗っていても遅いしな」
「最上階専用のを作るか?」
「箱をくくりつけぬのならよいぞ」
それはエレベーターではない。ため息を吐く男がふと、布巾で手を拭いた。葉白衣のパーカーのフードを被せる。
「生き物の毛……猫か?」
摘んだ白い毛を見せた。
「ん? あ」
改めてよく見ると、白いパーカーの至る所に猫の毛が付着している。
「ああーあいつめ」
パントリーの隅に置かれていたダクトテープを丸くして手に装着して男はフードと背中を、葉白衣は袖と腹側をぺたぺたと掃除する。
「後輩神仙は猫を飼っておったのか」
「そうなのだ。それがまた、なんとも馬鹿で愚かな話なのだがな」
「ほほう。それはそれとして、白衣。だいぶご馳走になってきたな?」
「ん?」
「生クリームに……フライドポテトの匂いもする」
ふんふんと男の鼻が鳴るのを葉白衣は笑う。
「まったく、鼻のよい……変な男だな、おまえは」
「良い男だろうが」
ひとしきり二人でくすくすと笑い合う。
男が、あ、と小さな声をあげた。
「しまったな」
「なんだ」
「買い忘れをした」
「ん? なにをだ」
「タバスコ」
ぴたりと葉白衣の手が止まった。
ゆっくりと振り返ると、男が申し訳なさそうに眉を歪めている。
「どうして」
「すまん。すっかり失念しておった」
「なぜそんな、不幸をしでかす……」
「すまん」
哀れに絶望していた葉白衣の顔に意欲がともる。
「買ってくる」
「そうか? ならば、ほれ。家計費用の財布を持っていけ」
こくりと頷きカウンターに置いてあった財布とエコバッグを手に取った。
「いってまいる」
「ああ。そうだ、白衣」
「なんだ」
「ちゃんとエレベーターに乗れよ。箱の中にな」
「……わかった」
「ズルをするなよ。すぐにバレるからな。嘘をついたらピザをチーズ抜きにするからな」
「……それは、ピザでは、ない」
「そうだな」
む、と唇を結んでから、しぶしぶと葉白衣は頷いた。
p.m8:10
エレベーターからむっすりとむくれた葉白衣が降りた。
p.m9:00
タバスコを瓶半分ほども使い葉白衣は満足そうな顔をしている。軽い酒を呑みながら一日の出来事を話す。
後輩神仙の間抜けさ加減、彼らと暮らすことになった白猫の魅力をプレゼンする。
「そんなに気に入ったなら、我らも猫を飼うか」
同居人に言われ、腕を組み、長考する。
「私は前から、買ってみたい畜生がいる」
「畜生。動物とか呼べぬのか。何を飼いたい? ワニか。コモドドラゴンか」
「おまえ、私をなんだと思っておる? まぁ、ちょっと飼ってみたいが」
「好きそうだもんな、白衣。ハシビロコウか」
「だから、なぜ。まぁ、嫌いじゃないが……ハリネズミだ」
酒を飲む同居人が軽く噴き出した。
「そうか……そうきたか。可愛いもんな」
「かわいい? 珍妙だろう。あの針は硬いのか? 痛いのか? あの小さい手足はちゃんと機能するのか」
「可愛いよな」
「かわいい? 動画でよく風呂に入れられているが、あやつらは心地よさを感じておるのか?」
「ああ、可愛い動画だな」
「かわいい? よく丸くなるだろう。あれはどこまで丸くなるのだ? 丸くなると硬さはどうなるのだ? 栗のいがほど攻撃力はあるのか」
「わかった、白衣。一度ハリネズミを見に行こう」
p.m10:00
明日、動物園に行く約束を取り付ける。
a.m2:30
就寝。
a.m3:00
睡眠。
a.m4:00
睡眠。
a.m5:00
睡眠。
a.m6:00
睡眠。
a.m7:00
睡眠。
a.m8:00
睡眠。
a.m9:00
「ん? 白衣、起きたのか。早いな」
リビングの巨大なソファに枕を放り置き、ころりと横になる。そのままくうくうと安らかな寝息をたてる。
「……寝ぼけておるのか?」
a.m10:00
睡眠。
a.m11:00
睡眠。
p.m12:00
睡眠。
p.m1:00
睡眠。
p.m2:00
ひくひくと鼻をうごめかしながらぼんやりと目覚める。
「ん? 今度こそ起きたか」
周囲をきょろりと見回し、自分の枕とリビング用の毛布を見やる。
「……なんで」
「ん?」
「なんで、ここに、いる……」
「おまえが自分で来たんだよ。ほら、起きたなら顔を洗え。飯を食うか」
「くう」
ぺたぺたと裸足で歩きながらあくびを繰り返す。
p.m2:10
大きな鉢にたんまりと盛られた粥をすする。帆立の干し貝柱が味の決め手だ。匙で一口啜るたびに心も口元も弛むのを、同居人は頬杖をついて眺めている。
「美味そうに食うものだな」
「美味いからな」
「それはそれは。六合心法により食を無くしたのは気の毒であった。おまえは食うのが好きだからなぁ」
「あの日々のおかげで、余計に飯が美味くなった気はするがな。好きに飯を食える今は桃源郷にでも迷い込んだ心持ちじゃわな。まぁ、食ったのと同じ時間、眠らねばならぬのは厄介だが」
「そういえば、新しい法を後輩達は喜んだか?」
「ん?」
匙を咥えたまま、葉白衣がきょとりと小首を傾げた。
同居人がその様子に、ぽかんと口を開けて無精髭の生えた顎を撫でた。
「おまえ……昨日訪ねたのは、飯を食う法を伝えるためではなかったのか……」
「忘れておったわ」
うなだれて腕組みする同居人の顔に結える前の白い髪がかかる。
食い終えた白衣が手を合わせた。
「そのうち、また尋ねて教えてやるか。だがなぁ、あやつらは特に難儀しておらぬ様子であったぞ。相変わらず呑気に平和に阿呆らしく暮らしておったし。私が物を食うのを不思議とも感じておらぬ様子であったし」
あいつらは馬鹿だからな。
口で罵りながら、先輩神仙は楽しそうに微笑んだ。
その仕草に同居人も笑みを返した。
「そうか。それは、なにより。さて、白衣。支度をしろよ。ハリネズミを見に行くのだろう」
そうだった!
勢いよく立ち上がった葉白衣が鉢を抱えてぱたぱたとキッチンに向かう。
テーブルの上、グラスにいけられた水仙が揺られて寄り添った。
その後のp.m2:00
玄関のチャイムが鳴る。
猫じゃらしで温客行を遊んでいた白米がとてとてと廊下を駆けていった。
「よう」
出迎えの家主より先にずかずかとリビングに押し入る客、葉白衣に温客行は心底嫌そうにした。
抱き上げられた白米がすりすりと首元に頬擦りしているのがなおさら気に入らない。
「何の用だ」
「おまえに用事はない。白米に会いにきた」
名を呼ばれて嬉しいらしく、白猫はにゃごにゃごと何かを呟いている。
「老温。先輩から土産にいちごをいただいたぞ」
場をとりなすように周子舒がビニル袋を掲げてみせた。
「土産? いちご? あんたが? なんで? 病気?」
「存在に負けず劣らず失礼な男だ。白米。おまえは一日一粒なら食べてもいいらしいぞ」
にゃわう。
白米の言葉にそうかそうかと頷く。
「ほら。白米が食べると言うておる。早く用意しろ」
むむむ、と唸りながらもしぶしぶと温客行がキッチンに立つ。
「先輩」
どこか緊張した面持ちで周子舒が眉を寄せる。
「なんだ」
「白米……雌、でした」
「あ? そうだろ。なんだ? 性転換でもしたのか」
「あれ? ご存知でしたか」
「知らなかったのか」
互いにまじまじと見つめ合う。
「おまえらは、相変わらずとぼけておるなぁ」
「しみじみと言わんでください。最初から白米が雌だと気がついていたら、先輩の生まれ変わりだとは思いませんでした」
「そうか?」
「はい……先輩の女体化は想像できません」
にょ。
一文字呟き、葉白衣は腕組みして、ふむふむと深く頷く。
カットいちごが一粒分乗った小皿と、山と盛られたボウルを手にリビングに戻ってきた温客行に葉白衣は呆れた顔を向ける。
「おまえ、相方の教育はちゃんとしろよ」
「はあ?」
説明責任を放棄し、小皿を取った葉白衣はしゃがみ込み、白米の前に置く。
ふんふんと匂いを嗅いだあと、はくりと一口食べた白猫は目を丸くする。おもたせしてくれた客を見つめて鳴いた。
みゃい。
「よかったな」
「……あんたさぁ、そのパーカー、なに?」
腕組みする白髪の男を振り返り、葉白衣はオーバーサイズの白いパーカーのフードをかぶってみせた。
はうわ……と気の抜けた声を周子舒が上げる。
「猫耳パーカーだが?」
フードに尖った耳が付いていた。
「いい年して。恥ずかしくないのか!?」
「似合うだろう。見てみろ。肉球もついている」
両方の袖をつまんで頬の横に並べて見せる。掌の側にピンク色の小さな刺繍があった。
パシャ。
「阿絮……」
「は。つい」
「無断で撮影しおって。撮影料を頂こう」
手のひらを差し出し金額をつげる。
「やめろ。微妙にリアルな価格を提示するな。阿絮も! 財布をすぐに出さない!」
ローテーブルを囲いソファに座り、三人でいちごを食べる。小粒大粒不揃いだが甘いいちごだ。
「あんた、猫耳だとかそんな趣味だったのか」
「私の趣味ではない。同居人が取り寄せた」
「同居人!? そんな奇特な人間が、ていうか、その同居人もやばいやつじゃないのか? じじぃに猫耳パーカー着せて喜ぶとか……どんな奴だ」
「容長青」
「あ?」
「容長青だが?」
「「え」」
後輩神仙が揃って声を上げた。
周子舒は驚き慌てふためき、声も出せない。
「それ……誰だっけ」
「え!!?」
白髪の同居人が小首をかしげるのにまた驚く。
「阿絮、知ってる人?」
「知ってるというか、え?」
「え?」
「おまえ、相方の教育をしろよ」
「老温は……過去にこだわらない、人間なの、で?」
「堂々と適当な嘘をつくな」
呆れて半眼する剣仙に周子舒は恐縮し、温客行はむっと膨れる。
「「「こら」」」
三人に揃って言われて、テーブルの下から腕を伸ばしていちごを狙っていた白米が固まった。
むむ、と口を結び金色の目を細める。小さな額に皺がよる。ぺしりぺしりと温客行を尻尾で打ち、怒りを表明する。
その日から白米の好物にいちごが加わった。
【おわり】