OPTを君に…永遠と呼ぶには短いけれど。
一つの生をながくながくながくながく……周子舒は生きている。
長く生きて世の中の大体のことは知っているような気がする。
もともと知的好奇心は旺盛なほうだから本をよく読むし、知己と二人、世界の隅々に旅をしてたくさんのものを見てきたし。
それでも生きることに飽きた、なんて思わないのは、世界というものは絶えず進化を続けているからだ。
大きな進化といえば、近年ではIT関連が代表だろう。
世界が変わるぞ、と知己と語りあった。そしてその通りになった。
小さな進化にいたっては枚挙にいとまがない。
人間というものは、喜怒哀楽に忠実な生き物だから。それを満たすために努力を惜しまない。
そんなことを考えながら、色白の相棒を撫でた。
ドラム式洗濯乾燥機。
今日も頼むぞ。
心の中で話しかけながら、平らな天板をぽんぽんと叩いた。
最初は衣類を洗ってくれるだけで素晴らしい発明だった洗濯機。そのうち脱水までしてくれるようになり、とうとう乾燥まで。
次の進化といえば、畳んでくれる……?というところだろうか。
でも、衣類を畳むのは結構好きだからそれは頑張らなくてもいいぞ、と洗濯係として四角い箱に教えてやる。
ぽいぽいとドラムの中に衣類を放りながら、ポケットがあれば手を入れて余計なものはないか確かめる。
周子舒には洗濯係としてのプライドがある。
色移りやティッシュまみれだとか。そういうのは係として敗北を感じる。
手に取った黒色のパーカーの大きなポケットが、あきらかにもこりと膨れている。確か知己が昨日着ていたものだ。
突っ込んだ手を出して「ん」と短く声を出す。
パンツだ。
知己が洗濯係に就任してすぐの頃、温客行は「下着だけは自分で洗う」と主張したものだ。
繊細な部分でもあるしな、と周子舒は頷いた(繊細な、は気持ちのことだ)。
何がきっかけで下着も洗うようになったんだったか……そんなことを考えながら洗濯ネットに入れようとしてふと手を止めた。
ボクサーパンツじゃない。
周子舒も温客行も、ボクサーパンツを愛用中だ。
手の中のものは、ぴったり体に張り付くボクサータイプにしても、なにやら布地が少ないような。
パンツというものは、布とゴムで出来ている、主に。布とゴムの割合は布の圧倒的優位だ、普通。
しかし手なかのそれは幅広のゴムが優勢だ。
ペロリと少ないほぼ三角の布に、幅広のゴムが上部に1本、ぐるりと輪っかになっている。
後ろに布が無い。
無い代わりに、上部ゴムと布地下部を繋ぐように、またゴムが2本付いている。
パンツ、だよなぁ。
ウエスト部分にあたるだろう、上部ゴムを指で摘んで目の前にかざして眺める。
それにしても派手な……
色は黄色。布地の周囲が黒色で縁取りされ、ウエストゴム部分にはブランド名だろうアルファベットがおどっている。ポップな星柄までついている。
周子舒の知己は洒落者である。
時代の流行には敏感だし、それでいて自分の個性や好きなものをまげないところもあり。
そんな彼は「下着はシンプルにかぎる」と酔った時にいつだか言っていた(聞いてもいないのに)。
「派手な色や柄はいらないと思うんだ。下着はね、最後の砦だよ。それを人目に晒すのは主に緊迫した場面だろ?そこで派手なものを晒すのは気が削がれる、と私は思う」
「……人目に晒すのを前提に選ぶのか?人目に晒されないからこそ、おおいに自分の趣味を発揮したいという者もあるだろう」
「あ、そっち?阿絮もそっちのタイプ?」
「俺は、別に?」
「遠慮しないで履いてくれ!こんど2人で選びに行こうか!派手なやつ……龍かな!?」
その日はその後、派手なパンツはどんなものか、という議題で最後まで盛り上がった。周子舒も大いに酔っていたのだろう。
そんな経緯を思い出すにつれ、手の中の布地はやはり派手であるな、と周子舒はあらためて思った。
相変わらずというか、知己の下着は日々シンプルが主なのだ。
……パンツ、だよな。
臀部が隠されないそれは、やけに奇異に見える。
周子舒が人間だったはるか昔。
下着の中には局部に切れ目の入ったものがあった。小用をたしやすいように。
あの頃はそれが当たり前であったので特殊とも思わなかったが、各種の変遷を超えて今の下着に慣れた身としては……あれはなんとも危ういものであったとしみじみする。
それを考えるに、手の中の布地はやはり奇異である。
……特殊な使用目的のためのものであろうか。
周子舒は脱衣場兼洗濯室の床にどかりと座り込んだ。フローリングに丁寧にパンツ(と思われる物体)を置いて腕組みし、あらためてじっと眺めた。
フィット感は良さそうである。幅広のウエストゴムであろうものは自分の仕事に誇りを持っていそうな佇まいだ。ズレません、と無言で主張している。
布部分は立体的で……そこは詳しく見ないことにする。
裏返す。
やはり、臀部がオープンな仕様である。
通気性を……?
考えられるのはまずそれであろうか。それが目的であるなら、これ以上ないほどに叶えられていると思われる。
だが……通気性を求めるがあまりになにかを失っている気がする。
なにか。
保温性、保護性、安全性、であろうか。
丸出しの臀部は寒かろう。布による摩擦がありそうだし、防御力が低い。総合的に、安全性が失われてはいないだろうか。
そっと目を閉じる。
今日、自分が着用している下着に思いを馳せた。
わざわざ考えないと着用していることを忘れるくらいにフィットし、それでいて窮屈さなどは感じさせない。ちゃんと履いているな、と思うことで得られる安心感もあり。
おいおい、パンツってすげぇな。
周子舒は初めてそんなことを思った。
初めて思ったが、なにか感動さえ覚える。
それに比べて、目の前に鎮座する布の頼りないこと……もう一度、ひっくり返してしみじみ眺めてみる。
ん?もしかして、これは一枚で使用するのではないのか?
ははーん……なにかサポーター的な?サポート……そうか、それか。
何を、とか、どこを、なんていう愚問は周子舒の脳内には湧かない。
だって相手はパンツだ。決まっているだろう。
「……え?」
老温、怪我でもしているのか?
瞬時にさっと周子舒の秀麗な顔から血の気が引いた。
なんということだ。
特殊なサポーターが必要なほど、知己が怪我を!?
そんな様子はあっただろうか。
思い当たる節は無い。
ここ数日、温客行は新発売の「ミラクル洗剤」にはまってキッチン中を磨くことに勤しんでいる。昨日は最大の敵である換気扇に着手し
「勝ったね」
と、謎の勝利宣言をしていた。
とても怪我を負っているようには思えない。
だが、それは真実の姿であろうか。
「あいつには……」
真実を隠す癖がある。
だとしたら。
「いいかげん、いいかげんにしろ」
心の底から周子舒は思う。それからはっとした。
もしかしたら……場所が場所だけに、繊細な理由があるのだろうか。
それであるのなら、むやみに怒りつけるべきではない。
患部が尻の可能性もある。
周子舒はふう、と深く息を吐いた。
なにか尻に通気性を求める事象が知己に発生したのかもしれない。
前にしろ後ろにしろ。デリケートな部分、事情に変わりない。
触れぬべきか。
自分がその立場だったらどうだろう。正直触れてほしくないな、と周子舒は一人頷きミディアム丈の黒髪を揺らす。
だがなぁ。
そうも思う。
なにせこのパンツの存在を知ってしまった。知っているのに素知らぬふりをして、他の洗濯物に紛れさしていつものように温客行の部屋に「洗濯済み」として戻すのか。
そんな。そんな思春期の息子に対する母のようなことを。
それは、逆にどうだ?余計に余計ではないのか。
ぷふ。
ここまで来て周子舒の生真面目な思案顔から、空気漏れのような笑みが漏れた。
何百年生きて、なんでこんなことで長考してるんだ。
俺の長命はパンツのためにあったのか。
めちゃくちゃ笑える。
そう思い、周子舒はパンツらしき布を手に取り立ち上がった。
どんな結果でも答えでもいいや。病気や怪我なら師兄がなんとかしてやる。
そんな決意だけを決めて。
「なぁ、老温」
「ん?なあに阿絮」
返事をしながらも温客行は振り返らない。
キッチンのいつもの置き場所からリビングのダイニングテーブルに移し、トースターの内部を掃除しているらしい。
「おまえ、怪我でもしてるのか?」
「けがー?してないよ?」
「本当か?」
「本当だよ。なんで?」
こしこしと小さな箱型家電の中を擦っている。周子舒には見えない汚れがあるらしい。
「怪我じゃないのか……じゃあなんだろうな」
問ともつかない不思議な呟きにようやく温客行は手を止めた。
なに、と呟きつつ振り返り、目を丸めた。
「こ」
「わあああああっっ」
これ。たった二文字の問いかけを知己が言い切る前に盛大に叫ぶ。
とたん、と軽やかな音がして、とたとたとフローリングを白猫が駆けてくる。
にゃうな?
どうした?
真っ白な体の中でそこだけ黒い頭のてっぺんの下、金色の目を興味津々と丸くしている。
周子舒の手の中の物を素早く掴み取って後ろに隠し、温客行は瞬時に笑みを浮かべて白猫に対峙する。
「なんでもないよー白米」
白猫、白米は小首をかしげる。
うにゃう?
てつだう?
数日前、彼女の名付け親である剣仙が後輩神仙たちの住処を訪れた。何に使うのか、白米の手形を取るのだという。
黒い墨を塗られた手をぺたりと紙に押し付け、数枚手形を取られた白猫は「白米はお手伝いがうまくて偉いな」と適当に褒める剣仙に気をよくし、それ以来、手伝う?は彼女のブームである。
「大丈夫だよーお手伝いの時は呼ぶからね〜」
なんだ、つまらん。そんな気持ちを態度と顔に乗せて、白米はとっと、と戻っていった。リビングの壁際に設置されたキャットタワーに。
のびのびしたい時間らしい。
棒立ちになったまま白猫を見送っていた男は二人、そろってゆっくりとした仕草で椅子に腰掛けた。
温客行は猫の様子を探りながら隠していた布製品を掃除用に広げていた新聞で包むようにした。
「……阿絮。困るな。白米の目に入るような所にそういうものを晒しては」
「あ?俺のせいか?そもそも、おまえのぱん」
つ、は周子舒の口から出なかった。
そろりと同居猫の姿をうかがう。
タワーの最上階、箱型の休息スペースに頭を突っ込んでなにやら探索している。
視線を白髪の知己にもどす。肩に掛かるほどの長さの髪を一つにまとめた家事モードだ。眉を微かに顰めている。
「……すまん。だが、元はと言えばお前のOPTが」
白猫と同居してしばらく経つが、最近になって彼女は「ぱんつ」という言葉が何故かツボに入ったらしい。
ぱんつ、という単語を聞くところころと転がりながら、にゃんう!にゃんう!と笑い騒ぐ。
ぱんつ!ぱんつ!
なにがそんなに気に入ったのか知らないが、ケタケタと笑いながらぱんつを連呼する姿は微妙だ。愛らしい娘ともいうべき存在が下着の名前を連呼するのはいただけない。
だから同居人たちは「パンツ」という単語に神経を尖らせ口にしない。聞かなければ白米は忘れているのだ。
温客行はおしゃれなのでズボンをパンツと呼んでいた。それは禁止となった。
禁止だがズボンと呼ぶのもなんだか今さら乗り気になれないらしく(周子舒には全く理解出来ない心のうちだ)いつの頃からかPTと隠語で呼びだした。
そしてこれまたいつの頃からか、下着のパンツのことはOPTと呼ぶようになった。
OPT。
おぱんつ、である。
「私の物じゃないよ」
「あ?だって、お前のパーカーに」
「昨日、ベランダに落ちてたの!どっかから洗濯物が飛んできたんじゃない?」
「はあ!?他人のやつかよ!」
それは、ちょっとかなり嫌だ、と周子舒は顔を顰めた。
「ポケットになんぞしまうな!」
「しまったんじゃないよ!白米が来たから慌てて隠したの!こんな、こんな卑猥なもの、白米に見せるわけにいかないでしょ」
白米のOPT発作は厄介だな、と周子舒は納得しかけた。仕掛けたが、ん?と疑問が湧いた。
「卑猥?卑猥とは?」
「阿絮、これなんだと思ってるの」
「OPT、もしくはサポーター」
うーん、と温客行は腕組みして項垂れた。
「純粋な目で見れば、本来の目的物にちゃんと見えるんだなぁ」
「あ?どういうことだ?」
チラリと温客行が隠した下着のような物の方に視線をやる。
つられて周子舒も眺めた。
「……あれはね、ジョッグストラップと申しましてね」
「はい」
「スポーツ選手なんかのね、えーと、その部分をこう、サポートするものなんですね」
「はい」
「物理的な衝突から守ったり、こう、揺れ?からの安定をはかったり」
「はい」
生真面目に講義を受けていた周子舒は不思議な顔をする。
思った通りの一品じゃないか。それが何故、卑猥だなどと。
「今もそういう目的で使用しているだろうね、多くの人は」
「はい……はい?多くの人は?」
嘘をつく時だって堂々と人の目を見て言うタイプの温客行が、やけに言いにくそうだ。ぼんやりと天井のあらぬところを見ている。
「……形状がさぁ……特殊じゃないですか」
「はい」
「こう、お尻が……出せちゃう?出せちゃうって言うか、こう」
「こう?」
「こう……ね?わかるでしょ?お尻を出したい大人がさ」
「出したい、大人?」
なんじゃそりゃ。
周子舒は大きな目を細めた。知己の言うことがわけわからなさすぎたのだ。
出したい大人って、なんだ。
自ら進んで臀部を出したい?出すのか?尻を?出したい?……出したい……
「あ」
「ご理解、いただけたかな」
「それはもしや、おとなの、主に夜の」
「はい、正解」
こんなに当たって嬉しみのない正解も珍しい、と周子舒はぼんやり腕組みした。
いわゆる、そういうことか。いわゆる、せくしーな場面、というやつで、そういう目的で使用する者もいるということか。
「あれの色柄を見る限り、どちらかというとそっちの目的の方だと思われる」
「……いろんな世界がある」
その言葉に尽きる。ほう、と周子舒は息を吐いた。
吐きつつ、ふと正面に座る知己を見やれば、彼は周子舒から目を逸らすようにしつつ、下着ではあるらしい物体を隠した新聞のほうをチラリと見たりしている。
「どうしたんだ?」
「い、いや、なんでもない」
「嘘だな。なんだ?言ってみろ」
はぁ、と息を一つ深く吐くと、温客行は観念したようにぽつりと言う。
「前々から……ジョッグストラップには興味があって」
「ほお」
「本来のね!?どんな具合なのかな、とかさ」
「履いてみればいいだろ。買えば?」
ぱぁ!と明るい顔で温客行は周子舒を見つめた。
「実は!買ってあるんだ!」
「あ、そう」
「阿絮の分も」
「あ、そう、はぁ、はぁっ!?」
何をのたまうこの馬鹿は、と素直に顔に刻む知己を、温客行は器用に身を屈めて上目遣いする。
「私の分だけ買ったら不公平かな、と思って」
「そういう界隈でのお気遣いは結構だ!」
「阿絮に似合いそうな、表が深いブルーで、ゴムの裏が赤になってるおしゃれなのを選んだよ」
私のは黒にした!と嬉しそうに言われても、周子舒は全く嬉しくない。
「阿絮似合いそうだな、と思ったし」
はあっ!?
大きな目をさらに大きく見開いて周子舒は思わず立ち上がった。椅子がたてる物音に、遠くから「うなうな」と不満の声があがる。
白猫がキャットタワーの最上階から眠たげで不機嫌な顔をして睨んでる。
「す、すまん」
小声で謝ってからそろそろと座り直し、視線を知己に戻す。
お前のせいで怒られただろ、と目で叱る。
「だって、どんな感じなのかな、って検索してるうちに、似合いそうだな、って」
「なんでそうなる」
「わかんないけど」
「俺は履かんぞ!お前ひとりで履け」
「ええー。阿絮は気にならないの?どんな履き心地なのかなって」
思わず周子舒はうぐ、と喉の奥で唸った。
ほらみろ。私は知ってるんだ。阿絮は案外、好奇心旺盛なんだ。
「ねぇー、履いてみようよー」
「……」
「決まりね!部屋から取ってくる!それぞれ履き替えて、5分後にリビング集合ね」
そういうことになった。
5分後。
神仙は二人並んでソファに座っていた。
温客行は普段と変わらぬ様子でゆったりと腰掛けている。
ちらりと、周子舒はその組まれた長い足を見やる。いつも大股を開いてどかりと腰掛ける彼の両腿は、ぴたりと揃えられて大変行儀がいい。両手は硬く、それぞれ腿の上で握られている。
ついでに背筋もいつもに増してぴん、と伸びている。
「なんだろう、ちょっと違和感はあるけど、思ったよりしっくりするね」
周子舒はぎょっと目を見張り、隣の男振り向いた。
「あれ?違う?」
「…………おちつかない」
「えー?精神的なものじゃない?それか、履き方間違えてない?」
「まちがえてない、と、おもう……」
えー?とまた疑問を呈しながら、温客行はおもむろに腕を動かした。
ひゃんっ!
瞬きすら忘れて温客行は固まり、隣の男をじっと見つめた。
周子舒の顔が見る間にのぼせたように染まっていった。
「なっ!なにするんだ!突然!この変態野郎!!」
罵りながら恥ずかしそうにあわあわと、周子舒は温客行の伸ばされた手をぐいぐい押して自分から遠ざけた。
自分から、自分の尻のあたりから。
「……ちょっとまって。今の」
「今の!?なんかあったか!?」
「すんごく可愛い鳴き声が聞こえたんだけど」
「かわ、かわいくもないし、鳴き声なんかじゃない!!おま、おまえがっ、急にひとの尻をさわるからっっ!もう脱ぐ!!」
桃色に染まった顔を隠すように師弟から背け、黒髪の男は立ちあがろうとした。
「わ」
しかしなぜか、次の瞬間にはソファに転がされていた。
「な、なん!?」
呆然とする周子舒の手首を捉え、温客行は長めの白髪を垂らして覗き込んだ。
「阿絮。まぁ、おちついて」
「おちつけるかっ離せ!」
「脱ぐ前に見せてよ」
「はぁっ!?ばか!ばかだ!おまえは、ばかっ」
「いやー、今の可愛い声で盛り上がっちゃったなぁ」
「ばかだろ!ばかっ」
「いいじゃないか。見るだけだから。変なことはしないって」
「すでにおまえは変なんだよっ」
「ひどいなぁ。大丈夫。私のも見せてあげるから」
「いらん!!やめろ!!脱がそうとするなっ」
ぎゃあぎゃあ喚きながら攻防を繰り広げる二人は、やがてはたと動きを止めた。
うななん?
なにしてるの?
可愛らしい小さな丸い手がソファの肘置きに並んでいる。好奇心にらんらんと染まった目をして、白猫は後ろ足で立ち上がって二人を眺めていた。
「なん、なんでも、ないんだ、白米!どけろ!いかがわしい真似しやがって!変客行!!」
「ひどくない?」
うにゃう?
てつだう?
とりあえず尋ねる白猫に周子舒は引き攣った顔で首をふる。
「大丈夫だ!ありがとうな白米!あしゅはちょっとパンツを」
「あっ!だめ!あしゅ!」
しまった、と周子舒は顔に描くが、もう遅かった。
にゃんう!?にゃんう!
ぱんつ!ぱんつ!と雄叫びを上げながら白猫がケラケラ笑い転がる。
ああ……と温客行が悲痛な声を上げてどさりとソファに座り込んだ。
「阿絮のばか」
「お、おまえが悪いんだろ!」
にゃんう!にゃんう!と言いながら、白米ははたと動きを止め、笑いすぎて涙の滲んだ目で二人を見る。
うにゃう?
てつだう?
いらんよ、と二人は手をふる。
それを見届けてからまた、にゃんう!にゃんう!が始まった。
「なんなんだ、この地獄絵図は」
「お前のせいだ、このOPT野郎」
「ひどい罵りだ」
にゃんう!にゃんう!の合間に神仙がため息をつく。
その度に白猫は手伝いがいるかと訊ねる。
それをしばらく繰り返した。
【おわり】