ヒヨコではない 重い音を鳴らして玄関の扉がしまった瞬間、温客行の顔から笑みが消えた。
現代にあっても類稀な美貌は、喜色を失うと周囲の温度がぐっと下がるような冷たさを纏う。
リビングに戻ると、テレビの真向かいに置かれた猫ベッドの前でしゃがみ込んだ。
「起きて! 白米!」
ベットで丸くなっていた白猫はにゃむにゃむと迷惑そうな声を上げた。大きな手でふわふわとゆすられて、金色の瞳をかっ! と見開いた。
にゃうな!
眠いの! ぴしゃりと同居人の暴挙を叱る。
「寝てる場合じゃないの! 阿絮が嘘をついて出かけたんだよ!?」
フンマンヤルカタナイ白猫は、二人いる同居人の白い方を叱ってもらおうと、黒い方の姿をきょろりと探した。
周囲は静かで、本当に居ないらしい、と理解した。
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