晴天の霹靂◆◇◆
自ら苦行に飛び込むなど愚かな事をした覚えはない。ただ、非常に不本意だが、いつの間にかそうなっていたというのが最も相応しい。
人生の節目とでもいうのか、手塩にかけて育ててきた息子が無事独り立ちしたことで、少しだけ己を省みる時間が出来たことも要因と言えよう。
息子の気配が無くなった部屋はいつもよりだだっ広く感じた。彼は物静かな性質だった筈なのに。ひとり杯を傾ける夜は、注いだ先から零れ落ちていくようだった。
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ジリジリと肌を焼くような暑さが非常に煩わしい。まだ朝と呼べる時間帯にも関わらず、エアコンの効いた車から降りて数歩歩いただけで早くも訪れたことを後悔した。
インドラは出来る限りの速足で通い慣れた日本家屋の門を潜る。自分は勿論、家主よりも低く作られた門は大袈裟なほど身を屈めなければ通れず、強制的に頭を垂れさせられているようで当初は癪に触った。しかしそんな事は最早過ぎた話で、両手両足の指では数え切れない程の回数通えば慣れてしまうものだ。
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