ドアのベルが鳴る。その音を見事に聞きつけた少女は遊んでいた人形を放りだして玄関へとかけていく。その後ろを母親である晶が必死に追いかけた。
「おかえり、パパ! おじさんもいらっしゃい!」
玄関先にいる二人の男性に少女は元気に挨拶をする。パープルの長い髪をたなびかせながら、少女は片方の男性に抱きついた。
「おやおや」
抱きつかれた男性――シャイロックは困ったように笑いながら少女を抱きかかえた。満更でもなさそうな笑みを浮かべて隣にいる男をちらりと見た。
「どうしました、ムル」
「……え? いや、え……?」
彼にしては珍しく混乱しているらしい。彼らしくもなく言葉の歯切れが悪くて、その大きな瞳を一層大きくして少女を見つめていた。
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