───こんこんと夢にとらわれ続ける少年の傍に青年がたっていた。空気の入れ替えのために開けられた窓の隙間からそよそよと風が吹き、眠る少年の前髪をゆらす。邪魔になると思って青年は己の手を伸ばして元の位置に戻そうとして、そしてそのまま少年の頬をひとつ、撫でた。
───瑞々しい、ふっくらとした張のある感触を訴えるその頬にピクリと指先が躊躇するかのように跳ねる。
「───ねぇ、今日から7月だよ。ほら、風もそれらしくなってきただろう?」
君が目を覚まさなくなってからもう一月もたったよ。
このひとつきの間、少年は目を覚まさず、もちろん食事も、排泄も、人間のおおよその活動全てを行ってこなかったにも関わらず肌の張りも、髪の艶もまったく失われておらず、それはまるで秒針の止まった時計のようだった。
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