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    おわり

    @owari33_fin

    基本的にアズリド/フロリド同軸🆚
    ここに上げたお話は、大幅に加筆してpixivに置いてます→pixiv https://www.pixiv.net/users/31202925

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    おわり

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    ミーティア4️⃣前編-7『anathema』

     今は昔、天からひとつの星がこの地に流れ落ちた。
     山を大きく削り取りその中央深く、真っ黒く焦げたその星は、一人の男と出会う。
     愚かな男がその石に触れると、黒く焦げた表面が剥がれ、命の源のような赤い色を露出させた。
     その赤は、人の愛であり、欲であり、罪の象徴……そして、全ての原初の形を摸っていた。
     それに触れてしまった男は、全ての真理に辿り着きたいと、哀れにも人の身でありながら願ってしまった。
     それは彼の生涯の幸であり、永遠に続く呪いへと姿を変える。

     そして今、英雄の国と陽光の国、一二〇〇キロメートルに渡り半島を横貫する山岳地帯、標高二〇〇〇メートルの場所に隠匿されたその施設。
     神の御身が一欠片、運命の導き、神々の憎愛とも表現されるそれを研究する彼らは、自らを、呪詛・呪い・異端排斥という意味を持つ『anathemaアナテマ』と名乗り、黒いローブでその身を覆い隠していた。
     彼らが求めるのは呪石の力の解明。そして、その石の真理の為に、命を捧げ、日夜真理の研究を行っていた——




     * * *

     頭がグラグラする、重くなった体はボクの体じゃないみたいだ。先程から、誰かがボクに話しかけている。もう少しで意識が戻りそうなのに、目を開けることが出来ない。
     あぁ、寝ている暇なんてボクにはないのに……
     もうすぐ、お腹を空かせているであろう、アズールとフロイドが帰ってくる。子供たちだって、あの程度のおやつではすぐにお腹が空いてしまう。今日はたっぷり料理を作って、テーブルを一杯にして、みんながボクの作った料理を美味しそうに食べてくれるはずだ。だから——
    「そろそろ起きてはどうかね、リドル・ローズハート」
    「——ッ!!?」
     ヒヤリとする声とともに、上に向けた手のひらが、まるで熱した鉄板に押し当てたかのような激痛に苛まれ、ボクは強制的に目を覚ました。
    「アァッ——!!!」
     手のひらに掛けられた液体は、ジュウジュウと焼けるような音を立てて、刃物を押し当てたせいで深く切れ、血まみれだったボクの手のひらの傷を修復すべく肉が踊っている。ボコボコと沸騰した傷は、ゆっくりと再生し元の傷のない手のひらに戻っている。その頃には、ボクの体は強烈な痛みに、毛穴から全身玉のような汗を吹き出させてた。
    「ふむ……元の願いが『やけどの傷を治した』ものだったから、傷を治す際にもその反応が出るようだ。ずいぶんと寝ていたが、気分はどうだね?」
    「ダーハム・グレイソン……貴様」
    「その様子だと、調子はいいようだ。よかったよ」
     睨みつけるボクに、男は白く濁った眼球でボクを見下ろす。その表情は、初めて出会った時から何を考えているのかさっぱりわからなかった。
    「ようこそ我がanathemaアナテマに、リドル・ローズハート……私達は君を歓迎するよ」
    「歓迎? だったら客人には上質な紅茶でもてなして、もっと丁寧に扱うべきでは?」
     ボクは今、金属の椅子に両手足を拘束され座らされていた。気を失う前に受けた拷問の傷は塞がってはいたが、血が足りないのか頭がグラグラする。服は自宅で着ていた服のままだったが、ところどころ酷く破け血がついたままだ。こんな姿を子供たちが見たら……とそこまで考えて、部屋の中をキョロキョロと見回した。
    「二人は……? ボクの子をどこにやった!!?」
     立ち上がろうとすれば、椅子に固定された枷がガチャリと鳴り、立ち上がることを阻止された。
    「あぁ、あの子供たちなら丁重に保護しているよ」
     ダーハム・グレイソンがキーボードを叩けば、壁に掛かったモニターにアスターとサミュエルの姿が別々に映し出された。そこには呪い封じの拘束具を付けられ、備え付けのベッドの上で意識なく眠る二人が映っている。
    「あれのどこが丁重だ!? 早くボクの子を開放しろ!!」
    「あれは、我々が提供した呪石により産まれた産物だ。それは全て『anathema』に返却すると最初に契約しているのだよ」
    「あの子たちは生きているんだ!! 人権も道徳的倫理観も法律ルールも、お前はどうして人の命を無視できる!!?」
     あの子達は、血の通った人間だ。自分で考えて、笑って、怒って悲しんで、そして喜ぶ。自我を持って生きる命を、この男はなんだと思っているんだ!?
    「リドル・ローズハート……少しお話をしようか」
     怒りで顔を赤くするボクにそう言い、ダーハム・グレイソンは目の前の椅子に座った。
    「私は、この五年半君をずっと探していた。それはもう使える手は全て使った。子を願い、男のくせに呪いによって子宮を得たなど、そんな話は過去の記録を漁っても出てこなかったからね。私達にとって君は、それだけ興味深い素材だった」
     だが、ハーハム・グレイソンは、学園を逃げるボクを追いかけるところまでは成功したが、ボクとアズールの反撃により、あの時ボクたちを見失った。それから五年半、何があろうと彼らはボクたちを探すことが出来なかった……なのにどうして今になって——
    「君は『どうして』……と聞きたがっているようだが、そうだな……ほんの一ヶ月前に、おかしな魔力波動が観測記録に上がってきてね、その形状は呪石の持つ〝奇跡〟と同じものだった」
     一ヶ月前と言われ思い出すのは、フロイドとジェイドのお父様に会いに行ったあの時……怒り魔法を使ったアスターとサミュエルだ。
     だが、あれほど強大でないにしろ、二人はボクと約束していても癇癪や兄弟ゲンカで魔法を使うことが過去に何度もあった。なのに今さらanathemaに所在がバレてしまうなんて……
    「呪石というのを良く知らない者たちは、呪いにより間違った方向に願いを叶えようとするただの呪われた石だとでも思っている、がそうじゃない。あれは神の御身が一欠片、運命の導き、神々の憎愛……全ての因と果を書き換え、超越する程の存在だ……お前にその意味がわかるか? あれは使用者の願いの強さによっては、他者からのどの様な干渉も全て無かったことにできるほどの力を持っている……それだけ、あの時までは、お前自身の産んだ子供に対しての願いが強力だったんだろう。本当に、我々はこの五年全くお前に近づけなかった」
     興奮で早口になるダーハム・グレイソンは、一区切りつくと、はぁと恍惚とした表情で大きく息をつく。
    「だが、人間とは欲深い生き物だ。お前が子を思う以外の欲を持った事により、強固にお前を守っていた願いに綻びが生まれた……お陰で呪石の力は削がれ、こうして君に近づけたんだ。しかも、本当に素晴らしい実験結果二つにも」
     ダーハム・グレイソンの言葉に、ボクは言葉を失った。これが本当なら、アスターとサミュエルが捕まったのも、フェデーレさんやジュリオたちが殺されたのも、全てボクが今の幸せ以上を望んだせいなのか? なにより——
    (もしそれが本当なら、ボクは一体、何に願ってしまったのか?)
     ガタガタと震えるボクに、ダーハム・グレイソンは話の続きを聞かせる。
    「あの後、お前が私達から逃げおおせたこの5年間、モルモットにお前のように子を願わせてみたがどれも上手くいかなかった。願って数日、産まれる子供は呪いを強く受けて体が耐えられず、どれも人の形をせず、母体となったモルモットと共にすぐに死んだ」
     昔、イデア先輩の言ったとおりに、呪いで産んだ子の命は儚かったようだ。アズールがいなければアスターとサミュエルもそうなっていたかもしれないと考えると、亡くなった子供たちの事を考えると胸が痛んだ。
    「お前は、何を産んだのか分かっているのか?」
    「それは……どういう?」
    「お前が産んだのは、ただの子供でも、ましてや人魚の子でもない。お前が産んだのは、星の子だ」
    「星の子……?」
    「そうだ、あの二人は表面的な遺伝子こそ、あの雄の人魚との子供だが、内包する魔力の純度は、人間や獣人、人魚に妖精族の全てが束になっても敵わない、あれは神と同等の力を持っている」
     二人は、産まれてすぐ魔法が使えた事以外、本当に普通の子供だった。なのにそう言われてボクは、二人が産まれてきたあの時、微かに聞こえた声を思い出す。

     ーーも、かあさんの子に、なりたい……

     フレドが毎日の様に調べて、ボクのお腹にはひとり分の命しか無かった事は明確だった。ずっと深く考えないようにしてきた事柄の理由がそうなら、二人は……
    「リドル・ローズハート、お前を使えば、あの子供たちも我々に従順でいてくれるだろう、それに——」
     ダーハム・グレイソンの指先が、ボクの下腹部にトンと触れる。
    「お前の体に残る残滓……上手くいけば、また子供を産ませられるかもしれない。そうだな、人魚以外にも、人族、獣人族、妖精族と色々交配させよう。それに、あの子供たちもあと一〇年……いや八年ほどすれば、お前と交尾をさせてもいい。次はどんな化け物をお前が孕んでくれるのか、実に楽しみだ」
    「狂っている」
    「女の体になってまで子供を産もうとした君に言われるとは」
    「ボクは絶対に、あの子たちをこんな事に巻き込む事を許さない、ボクの大事な子だ、そんなこと許すわけ——!?」
     その時ボクは、ダーハム・グレイソンが手にしたファイルに見覚えがある事に気づく。そのファイルは、五年間、フレドがボクの主治医になってから、ボクや子供達を記録したカルテが収められたファイルだ。
    「お前……それをどこから」
    「あぁ、これかい? これは、君の担当医をしていた魔法医術士から借りたものさ。最初はすごく渋られたが、奥方の指を数本削げば、すぐさま協力してくださったよ」
     削ぐ? アルマの指を??
     彼女は一見厳しい人に見えて、中身は本当に優しい人だった。彼女がいなければきっと、ボクは二人をここまで育てることは出来なかった。優しく、ボクの頑固な部分には呆れつつも根気よく付き合ってくれて、たまにボクを叱って、その後細く皺のある指でボクの頭を撫でてくれた。そんな彼女の指を……削いだ?
    「お前だけは絶対に許さない!! 殺してやる!! 絶対に殺してやるからな!!!」
     怒りで頭がグラグラと煮え上がったボクは、拘束具に手首や足首に傷が付く事も忘れ、目の前の男に掴みかかろうともがくが、拘束を解くことも出来ず、皮膚を擦り切るだけだ。
    「今のお前に何ができる? その非力な体に、以前持っていたあの素晴らしいユニーク魔法も魔力もない、お前が私にできることなど、頭を垂れて願うしかないことぐらい、そろそろ分かってみてはどうかね?」
     ダーハム・グレイソンの言葉を跳ね除けるように、暴言を吐きつけるボクにため息を付く男は、まぁいいとひと言、マイクで職員を呼んだ。
    「時間はこれからたっぷりある。君が諦めるまで、私達は付き合ってあげよう。それぐらいの時間はゆうにあるのだから……さぁ、リドル・ローズハートを部屋にご案内して差し上げろ」
    「了解しました」そう言った男二人に、ボクは引きずられ、これからボクの部屋になるという場所に、両手足を拘束されたまま突き飛ばすように押し込められた。
     そこは、部屋と呼ぶにはあまりにも簡素な、真っ白な部屋にベッドとトイレがあるだけの空間だ。通路に面した壁には大きなガラスが嵌め込まれ、壁の無い部屋の中は、全て外や監視カメラから見られていて、プライバシーのかけらもない。
    「出せ!! ここから出せ!!! 子供たちに会わせろ!!!」
     ドアを何度も叩き訴えるが、耳が痛くなるほど静かな部屋の外からは何の言葉も返ってこなかった。
     ズルズルとドアにより掛かるように座り込んだ無力なボクは、安否のわからない人たちの無事を祈ることしか出来なかった。
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