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    おわり

    @owari33_fin

    アズリド/フロリド同軸🆚
    ここに上げたお話は、大幅に加筆してpixivに置いてます→pixiv https://www.pixiv.net/users/31202925

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    ミーティア4️⃣中編-17 『en:Return②-6』

     それから数日、ボクとフロイドの生活はほんの少しだけ上向きになった。どうしてかと言えば、フロイドが厨房のバイトをしている間、ボクも今できる範囲の仕事をするようになったからだ。
     生まれて初めての労働は、魔法を使った簡単な作業だった。それでも魔法士が重宝される場所なせいか、それなりに他の職種より給金が頭ひとつ高い。これでフロイドにもしっかりと温かい食事を取らせて、ホテルに泊まって身体を休ませられるはずだ。
     夜、ダイナーの閉店と共に、余り物のピザが入った紙袋を手にしたフロイドが店の裏口から出てきた。ビールケースに座るボクを見つけすぐさま笑顔になったフロイドが、駆け寄りボクを抱きしめる。
    「金魚ちゃん、待っててくれてありがとねぇ」
     チュッと音を立てて額に口付け、髪に頬を擦り付けるフロイドは本当に嬉しそうだ。二人して今日の成果を見せ合えば、一番グレードの低いホテルなら一泊できる金額で、今日は久しぶりにホテルに泊まれると二人で笑い合い泊まったホテルは、狭い部屋にシングルベッドとテーブルと椅子がひとつ。今日もくっついて寝なければならないようなベッドだけれど、この頃のボクはフロイドに抱きしめられる事に抵抗がなくなっていたから特に気になどしなかった。
     ホテルに泊まって、二人でチーズも生地も硬くなったピザと、ボクはペットボトルの紅茶、フロイドは炭酸水を口にする。以前までの生活では、こういった食事を摂ったことがなかったが、お腹が空いてしまえば何を食べても美味しく感じるのか? いや、違うな。フロイドがひとりゴミを漁るような真似をせず、こうやって嬉しそうに食事している姿を見ながら一緒に食事ができたから、きっと美味しく感じるんだ。
     食事が終われば、一緒にシャワーを浴びる。ボクの大きくなったお腹では洗いにくい部分があるでしょと、一緒にシャワーを浴びて、フロイドの長い指に髪や体を洗われるのは気持ちが良かった。
    「大きくなったねぇ」
     ボクの膨らんだお腹を触りながら、嬉しそうに首筋に鼻先を埋めるフロイドは、まるで大きな犬みたいだと、少しかわいく感じたのに。その唇が首筋を這った途端、明確な性的接触に変わり、驚いて肩が跳ねた。
    「子供がお腹にいるのに、何を考えてるんだッ!?」
     ボクの体を不埒に這うその手を、指で抓って止めさせれば、頬をぷくりと膨らませたフロイドが「金魚ちゃんのケチ」とボクの頭に顎を乗せる。その仕草があまりにも子供っぽくて、なんだかかわいいとさえ感じ、結局怒りはシャワーの水と共に排水溝に流れてしまった。
     シャワールームを出れば、魔法で洗って乾かしたフロイドの大きなパーカーに腕を通す。毎日着ているそれは、ずいぶんと色がくすみ、腕の部分は少し擦り切れている。この服の痛み具合に、ずいぶん遠くに来てしまったと思わずにはいられなかった。
     先にベッドに横になっていると、ボクを潰さないように潜り込むフロイドが、いつものように狭いベッドの中でボクを引き寄せるように抱きしめた。
    「金魚ちゃん……稚魚が産まれたら、三人一緒に海が見える家に住もうよ。庭が広くてさ、金魚ちゃんみたいなバラも植えてあってね」
    「ボクみたいな薔薇は分からないけれど、そうだね……人魚のキミの子供なら、きっと海が好きな子になるんだろうね」
    「あはっ、稚魚だけじゃなくて、金魚ちゃんにも泳ぎ方教えてあげるね?」
     ボクは、知識としては泳ぎ方を知っている、教えてもらわなくとも理論上は出来るはずだ。そう言えば、目に見えてボクへのからかいを含ませた笑顔のフロイドは、「じゃあ、その時はどれだけ泳げるか見せてね」ってボクの耳元であはっと笑う声が聞こえた。
     ここ最近のフロイドは、こうやって生まれてくる子供とボクと三人、この先の楽しい未来をこうしてボクに語るようになった。その声がとろけるように幸せそうで、フロイドのお腹の子への愛情の深さを肌で感じ、ボクの胸の内が多幸感でいっぱいになる。
     ボクが幼少期得られなかった、空想の中にしか無いあの幸せな家族に、ボクもフロイドとお腹の子がいればなれるのだろうか?
    「そ〜いえば、稚魚の名前、ど〜しようか?」
     いっぱい考えなきゃねと指を折って数えるフロイドに、どれだけ産まれると思ってるんだと、その指先をきゅっと手のひらで掴む。
    「卵生の人魚と違って人の子は胎生で産まれるから、一回の出産でそんなに大勢は産まれるわけないだろ。それにボクのお腹の大きさなら、お腹にはひとりしかいないはずだよ」
    「んぇ〜、そうなの? 稚魚にも一緒に生まれてくる兄弟がいたほうが、ぜ〜ったいにおもしれぇのに」
     そう考えるのは、フロイドに双子の兄弟がいるからだろう。ボクには兄弟がいなかったけれど、もしあの家の中で兄弟という存在がいたら、あの時のボクは少しは何か変わったりしたんだろうか?
    「で稚魚の名前、なんて名前にしよ〜か?」
    「そのことだけど、もう考えている名前があってね」     
     ボクがすでに考えていると言うと、それが以外だったのか一瞬きょとりとしたフロイドが「へぇ〜なんて名前なの?」って口角を上げる。
     しかし、「名前はね——」と言いかけたボクの口を、フロイドが手で塞ぎ、瞬時に周囲を警戒した。この表情からして、相手は『anathema』だろう。
     フロイドの家から遣わされた黒服の男たちと接触することはあっても、皆相手がフロイドだということもあって、保護しようと話し掛けてくる人がいても、武力で抑え込もうとする輩はいなかった。捜索願が出されている警察なんて声をかけるぐらいで、それほどの危険を感じる事はなかった。
     しかし、『anathema』は違う。ボクたちを捕まえるのにある程度の負傷は織り込み済みなのか、容赦なく武器を突きつけてくる姿を何度も見た。きっとこういった事に場馴れしているフロイドがいなければ、ボクの魔法だけでは逃げ切れなかった可能性が高い。
     ギィィ……音を立ててドアがほんの少し開けば、隙間から転がされた瓶から、煙が吹き出した。そのハーブの香りに、麻痺性の毒だと気づく。
     舌を打ったフロイドが、ボクを抱き上げカバンを掴み、背後の窓を蹴破った。部屋に充満した煙とともに窓の外に飛び出したフロイドは、縦樋を掴んで壁を蹴り、ホテルの外壁に取り付けられた室外機を踏みつけながら地面にたどり着いた。
     着地してすぐに膝をついたフロイドを大丈夫かと心配すれば、手指が少し麻痺しているのかピクピクと痙攣している。
    「あいつら、マジでウゼェ……」
     何度か手を握り込んでいると、ボクたちを取り囲んだ『anathema』が攻撃態勢に入る。ボクはすぐさまマジカルペンを手にし、フロイドも反撃の体勢をとる。
     ボクの首を刎ねよオフ-ヴィス-ユア-ベッドで魔法を封じ、フロイドの攻撃の合間に炎で攻撃しなんとか制圧したボクたちは、足早に場所を移動した。
     せっかく今日はベッドで眠れるはずだったのに……『anathema』に毒を吐き、路地裏を足早に進む。それでも覚悟を決めた今は、以前のように闇雲に逃げているときとは違う前向きさがあった。
    「でも、ちょ〜面白かったぁ! 奇襲しといて逆に手も足も出ねぇの!!」そう叫んで、フロイドが上機嫌にボクの手を握る。
    「楽しいね金魚ちゃん」と笑うその表情は、どこまでも嬉しそうで。ボクの方も気分が高揚して、先程までの怒りも忘れ、いつの間にか逃げながらふたりして大笑いしていた。
     このお腹の子が、キミとの子で本当に良かった……
     そう思うぐらい、この時のボクはこの状況に対して不満も後悔も一切なかった。ボクを愛してくれるフロイドを、ボクも同じかそれ以上に愛していたから。
     生まれてきた子と三人、幸せになるんだと路地を抜けようとしたその時、お腹にギュッと痛みが走り、小さなコップ一杯ほどの血混じりの水が、太ももを伝って地面に溢れた。
     お腹に胎児を確認して四ヶ月ほど……急速に育ったこの子が産まれようとしてるんだ。
     急に立ち止まったボクに、振り返ったフロイドの視線が、足元の小さな水たまりと、青くなったボクの顔を交互に見る。更には、しつこく追いかけてきた『anathema』からの追手に、フロイドはボクを抱え、急足でその場を離脱した。
     身を潜めた路地裏、カバンから引っ張り出した服を重ねた上にボクを下ろしたフロイドは、「金魚ちゃん、金魚ちゃん」と何度もボクの名を繰り返し呼んで手を握っていた。
     壁に寄りかかり、目の前が白くなるほどの激痛が波のように押し寄せ、大量の汗が肌を滑る。体を内側から割く痛みに、何度も遠のく意識……それでも耐えられたのは、ボクの手を必死に握り声を掛けてくれたフロイドとこの先の未来を、ボクも夢見ていたからだ。
     数十分……何時間? 時間の感覚さえ曖昧になる中、朦朧とする意識の中ボクは、やっとのことでキミとの子を産むことができた。
     が、何故かフロイドの表情が青ざめる。キミのそんな顔が初めてで、ボクは薄れゆく意識で問いかける。
    「フロイド、ボクたちの赤ちゃん……」
     無事に生まれたかを問えば、ニコリと笑ったフロイドの目から、涙が溢れていた。
    「無事に生まれたよ、オレと金魚ちゃんにちょっとずつ似た稚魚……すげぇかわいい」
     フロイドが喜んでくれて、ボクは心底ホッとして、全身から力が抜けた。
    「そう……よかった……ふふ……赤ちゃん……うれしい……ね……ふろぃ……」
    「だから、ね、金魚ちゃん……金魚ちゃん?」
     パタリと地面に落ちたボクの手に、赤ちゃんを手に抱いたままのフロイドは、ただ茫然と、動かなくなったボクを凝視した。

     こうして、その世界のボクは生を終えた。
     今まで繰り返した中で、一番大きく育ったその子を産むには、その時のボクの体力ではとても難しかったようだ。
     しかも、フロイドはボクたちに似たと言ったが、生まれた子は人の形が崩れたただの肉塊で、いつものように生まれた瞬間に弱り始め、一分も保たずフロイドの手の中で息を引き取った。
     生まれた、人の子とも呼べない存在の死と、同時に男の身での出産に耐えきれなかったボクの死を目にしたその世界のフロイドは、この苦しみに耐えきれず最後、ボクと子供の亡骸を前にオーバーブロットした。

     それが、ボクの見たこの世界の最後だった。
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