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    yahiro_69

    だらだららくがきおきば @yahiro_69

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    yahiro_69

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    銀博 というか銀→(←)博
    銀灰がドクターと添い寝する話
    当主様の追い込み漁ともいう

    ##アークナイツ

    暖かいベッド、見慣れた天井、柔らかく落とされた照明。
    視線を横にずらせば、見目麗しいフェリーンの青年が頭を撫でながら耳触りの良い声でどこかの民謡などを口ずさんでいる。
    …………一体何がどうしてこうなってしまったんだっけ?
    ドクターは状況の咀嚼に苦しみながら、ただただ脳裏に宇宙を広げるしかなかった。



    時刻は数時間前に遡る。
    いつものように執務室で書類を片付けていたドクターは、ノックの音に顔を上げた。

    「どうぞー……ってシルバーアッシュ? どうかした? 君も交えての作戦会議は明日のはずだけど」

    穏やかな笑みを浮かべて入ってきたのはカランド貿易のCEO、シルバーアッシュ。
    真銀斬をはじめとした戦闘技術もさることながら、戦術立案:卓越は伊達ではなく。
    ドクターほどではないにせよ、その目や思考は実に頼りになると度々作戦における助言を頼んでいた。
    この人軍人じゃなくていち貿易会社の社長なんだよね?とこっそりアーミヤに問い正したところ、至極真面目な顔で頷かれたのをよく覚えている。

    「いや何、今日は私が盟友の秘書を担当することになってな。仕事の手伝いに来たというわけだ」

    ぴたりとドクターの手が止まる。
    ついでに「じゃあどういう用事だ」と開きかけた口も止まる。
    たっぷり5秒の間をおいて、ようやく疑問が言葉になった。

    「いや秘書はずっとアンセルくんにお願いしてたはずだけどっていうか君自分の会社は!?」

    カランド貿易とは一応外部提携とかそういう契約ではなかったか。
    秘書はロドス所属でなければならないなんて決まりはないが、よそのCEOを秘書に据えるのは流石にどうなのだろうか。

    「勿論私が見なければならないものは既に処理してきている。あとは概ね部下に任せても構わないものばかりだ。
    どうしても緊急のものがあればクーリエに寄越させるよう話してある」

    ふふんと得意げに尾が揺れる。
    仕事が増えた部下可哀想、というよりは普段からある程度任せられる程度に教育が行き届いているのだろう。
    本当にどこをとっても隙のない男だと内心戦々恐々とする。

    「それからかのコータスの少年だが、今日は医療オペレーターの研修があるから秘書を変わってほしいと」
    「聞いてないけど」
    「言伝を頼まれてな、数日前に。なら私が引き受けようと」
    「そういうのまず私かアーミヤに先に言ってくれない!?」

    もしかしたら確信犯かもしれない。さては別の誰かに変更されないよう黙っていたな。
    フェイスガードの下で苦虫を噛み潰し、ため息混じりに秘書業務の説明に入る。
    今から変更というわけにも行かないので、今日だけは仕方なくこの横柄なフェリーンを秘書にすることにした。


    「盟友、この空軍迎撃の予定だが戦術演習に変更しよう。エーギルの彼がもう少し練度を高めれば昇進できたはずだ」
    「あっうん」
    「こちらの殲滅作戦には私が出よう。メンバーはここを入れ替えで」
    「オッケーそうしよう」
    「最近配属されたロボットは発電所に。代わりに彼女には加工所に行ってもらう」
    「うわサーマルEXすごい張り切ってる」
    「それから龍門での会合の予定だが……」

    ある程度予想はしていたが、雑務があっという間に溶けていく。
    そのうえ本当にクーリエが運んできた自社の仕事もさらっとこなすのだから重ね重ね恐ろしい男である。

    「……嘘だろ日付が変わる前に終わってしまった」
    「お前の抱えている問題を解決できるのは私をおいて他にない。そう言っただろう?」

    得意げな表情が実に腹が立つが、実際とても助かっているのでぐうの音も出ない。

    「……で、どうする? とりあえず今日の仕事は終わりだけど。さほど遅い時間でもないから帰ってもいいし宿舎使ってもいいし。クーリエくん呼ぶ?」

    お疲れ様、と労りの言葉を投げつつ首を傾げると、シルバーアッシュも同じように首を傾げてみせた。

    「ここには秘書用の簡易寝具もあったと記憶しているが」
    「あるけど寝心地はあんまり保証しないぞ。アンセルくんだってこれでは寝ないんだし。宿舎行きなよ」

    ほら、と指差した先には宿舎のものやドクター用のものよりも簡素な折りたたみベッド。
    あのシルバーアッシュをこれに寝かせたとなるとクーリエやマッターホルンに怒られ……はしないだろうが、多少の動揺を招くだろう。
    ドクターとしても功労者をこんなところで寝かせるのは忍びない。

    「はて。秘書は一日中ドクターと共にいると聞いていたが。彼をここへ寝かせたことがないと?」
    「あっ待ってなにか誤解してないか君」

    というかやはり確信犯だなとドクターは密かにため息をつく。
    秘書に夜まで一緒にいさせる義務などもちろんない。
    アンセルが朝までこの部屋にいるのには理由があった。

    「誓ってやましいことは何もしていないからとりあえず私の話を聞いてくれよ」
    「ほう?」

    未だ胡乱げな目を向けるシルバーアッシュを宥めながら、ドクターは話しづらそうに後頭部をかいた。

    「いやさ、うーん。恥ずかしいんだけど私は人の気配のないところで眠るのが苦手でね」

    ドクターにはアーミヤに救出される以前の記憶がない。
    “前の”ドクターを知るものはあまり多くを語ろうとしないものの、想像もできないような奇行や冷徹さが垣間見える話をちらほらと耳にしたことがある。
    おそらくはかなり多くの命を屠っている。己の手でなくとも、そのように指示することで。
    そのせいか、あるいは自分の思い込みなのか定かではないが、一人きりになると嫌な思考が頭をよぎり、怨嗟の声が聞こえだす。
    生きているものにも死んでいるものにも、自分は恨まれているのでなかろうか。いやきっとそうに違いない。
    それらが安眠の妨げになり、疲労として表に現れた。
    具体的にいえば、作戦行動後に突然倒れオペレーターたちをざわつかせた。
    そうなると隠しているわけにもいかず、同行していた医療オペレーターであるアンセルにすべて打ち明けたのであった。

    「そうしたら夜中に私の体調を見るついでに部屋にいてくれることになった……というだけだよ」
    「彼は眠っていないのか?」
    「どうも元々夜型らしくて。私の入眠確認が終わったら勉強したり本を読んだりしてるみたいだよ」
    「つまり共寝はしていないと」
    「してません断じて」

    ようやく納得してくれたらしいシルバーアッシュの尾が下がり、ドクターも安堵の息を吐く。
    男の子だとはいえアンセルは大変愛らしい見た目をしている。
    変な噂が立とうものならまず100%ドクターに非難の声がかかるに決まっているのだ。

    「ふむ。では今日はどうするつもりなんだ? 一人では眠れないのだろう」
    「今日は仕方ないよ。一日くらいなら徹夜したって平気さ」

    だから君はやはり宿舎に行くか一度帰って……と続けようとした言葉に被せるようにして、シルバーアッシュはさもいいことを思いついたかのように言葉を紡ぐ。

    「では今宵は私がお前とともにいよう」
    「なんでだよ。君普通に夜は寝るでしょうが」

    まさかあれを使うのか?と簡易寝具を指差せば、フッと鼻を鳴らして笑うことで否と返される。
    そういうイケメンさは是非とも別のところで発揮してほしい。

    「なに、お前のベッドは私の体格でも問題なく収まる大きさをしているだろう?」
    「あっ私が向こうで寝ろってこと? 嘘だろ一応この部屋の主だぞ私」

    もう一つの可能性を頭から追い出しつつ唇を尖らせて抗議すると、ひょいっと事も無げに抱きかかえられベッドに放り出された。

    「おぉいちょっと待て。ちょっと待てぇい!」
    「安心しろ、私は妹二人がいる長兄だぞ? ぐずる子を寝かしつける術くらい持ち合わせている」

    かつての幼子と同列扱いされていることには異議申し立てを行いたいが、残念ながらしれっと添い寝をするつもりらしいことにも大いに不満がある。
    前述の通りどこをとっても不足のない男前が、同じベッドにいる。あらゆる意味で緊張して眠るどころではない。
    私に君へのお兄ちゃん補正はないんだぞとドクターは再び唇を尖らせた。
    しかしシルバーアッシュはおそらく最初からこの状況に持ち込むことを想定して秘書業務を勝ち取ってきている。
    結局ドクターのありとあらゆる言い訳はすべて丸め込まれて冒頭に至るのであった。



    「(あぁでも、本当に寝かしつけるだけなのか)」

    常日頃シルバーアッシュはドクターを盟友と呼び、ケルシーやドーベルマンが不審に思う程度にこちらに有利な契約を交わしている。
    その理由はドクターにその価値があるからだと本人は言っていたが、そこに個人の情が含まれていることにはドクターも多少なりと気づいている。
    これ幸いと抱き込まれることも一応想定してはいたのだが、杞憂だったらしい。

    「どうした? 考え事をしていると眠れないぞ」

    ボリュームを落とすことで掠れたように聞こえる声にすら慈愛を感じてしまう。
    ほんの少しだけ、彼の理性を疑ってしまったことを恥じた。

    「……いや。エンシオお兄ちゃんは優しいな〜って思ってただけ」

    からかうように呼んでみせれば、ふかふかの耳がピクリと動く。

    「弟を増やすのも悪くはないが……その名は別の機会に呼んでほしいものだな」

    喉を鳴らして笑う顔は、慈愛よりも今は妖艶に見えて。
    ……踏まなくてもいい地雷を踏んだかもしれない。
    形のいい唇をニィっと歪め、撫でていた手がするりとドクターの顎をすくう。

    「お前が望むのなら、今から閨事にしても構わないのだが」
    「私が大いに構うんだよからかってすみませんでした」

    素直に謝ればくつくつと笑ってその手は柔らかく髪を撫でに戻る。
    決して無理に事を進めようとはしない。
    そのことがほんの僅か、ドクターの胸につきりとした痛みをもたらした。

    「(……期待した? そんな馬鹿な)」

    一瞬よぎった思考を散らすようにぎゅっと目を閉じる。
    軽いやり取りで変な緊張が抜けてしまえば、規則正しく撫でる大きな手は暖かく、歌声は低く心地がいい。
    ドクターがうとうとと夢の世界に落ちるまで、そう時間はかからなかった。

    「……おやすみ盟友。お前はいつになれば再び私に気を許してくれるのだろうな」

    ひとりごちた声を聞くものはなく、すやすやと眠るドクターの額にひとつ口付けを落としてシルバーアッシュもベッドへ沈んだ。



    翌朝目を覚ましたドクターが目の前の色男に思わず悲鳴を上げて、駆け込んできたアーミヤに怒られたのはまた別の話。
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