「先生! 鍾離先生いますか!?」
先日稲妻へ旅立っていったはずの旅人が、息を切らしながら真昼の往生堂へ駆け込んできた。
堂主は果物をかじろうとした口を開けたまま、筆を持った若人達は目を丸くして、そして彼らに対し教鞭を取っていた鍾離はぱちりと目を瞬いて、それぞれが一斉に急な客人へ視線をやった。
「鍾離さんに用事? いいよいいよ、月を跨ぐ前に返してくれれば」
にっこり笑った胡桃が鍾離の手から講義の資料をもぎ取り、そら行けと言わんばかりに手をひらひらと振る。
あまりにあっさりと言うものだから、今度は旅人のほうが驚いてしまった。
「だってあなたがそんなに慌てるんだもん、急ぎかつ鍾離さんじゃないとダメな用事でしょ? 別にこのくらいなら私でも説明はできるし大丈夫大丈夫。あっ稲妻に行くならお土産よろしくね~」
2697