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    Katame

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    Katame

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    書きかけで放置されてた小説供養
    初がルの家に居候する話
    本当に大昔のやつなのでルの性格解釈が古かったりする、ル×初になる予定だったがそこまで辿り着いてないただのほのぼの小説、オチはない

     天気のいい爽やかな朝。昨日の雨で濡れた道を自転車で現れたのは、ホコタテ運送の社員・ルーイだ。少し前の借金騒動でホコタテ運送の社員はめっきり減ってしまったので、事務所前の駐車場や駐船場は閑散としている。
     だだっ広い敷地を横切って事務所に向かい、自転車を停めていると、屋内がやけに騒がしいのに気がついてルーイは顔をしかめた。せっかく休み明けの仕事なのに、急に面倒ごとに巻き込まれたらたまらない。

     自転車のカギをポケットに突っ込みながらルーイが事務所に入ると、廊下の奥からドタドタと足音が聞こえてきた。しばらくすると、涙でぐちゃぐちゃのひどい顔をした社長が、こっちめがけてとんでもない勢いで走ってきたので、ぎょっとして脇に避ける。社長はそのまま「ワシが悪かったんじゃああああ」とか叫びながら玄関を飛び出していった。 
     ルーイが訝しい顔をしていると、後からやってきたオリマーがルーイに気がついた。
    「おはようルーイくん」
    「……今の、何」
    「ああ、君はここ数日休みだったから知らないか」

     オリマーの話によると、三日前の朝、いつものように初号機と雑談しに倉庫へ行った社長が、しばらくして不機嫌そうに帰ってきた。どうやら、初号機と喧嘩してしまったらしい。しかも、初号機はそのまま探査ポッドだけでホコタテ運送を飛び出して、どこかに行ってしまった。
     最初のうちは「まあすぐに帰ってくるじゃろ」と余裕そうにしていた社長。だが、いくら経っても初号機は帰ってこない。とうとう今日になっても消息が途絶えたままで、社長はあんなことになったらしい。

    「君は初号機を見かけなかったか?」
    「見てない……」
    「そうか……。さて、どうしたものかなあ」
     オリマーはため息混じりに言いながら、社長を追いかけて玄関を出ていった。

     夕暮れの川沿いを自転車で走る。今日は一日中社長の元気がなく、仕事する気も失せたのか珍しく定時退社できた。結局初号機が戻ってくることはなかったが、一体どこにいるんだろうか。ルーイは少し考えてみたが、初号機がホコタテ運送以外に行きそうなところなんて思いつかない。第一、初号機が仕事以外に何をしてるのか知らない。

     まあいいや、今日は早く帰れたからごはんもゆっくり作れる。近くのスーパーで買い物して帰ろう。そう考えながら自転車を走らせていると、橋のそばを通った時に道を猫が横切った。慌ててブレーキをかけると、猫はびっくりして河原に一目散に降りた。
    「危ない……」
     呟きながら河原に目をやったとき、橋の下に何かがあるのに気がついた。その周りにたくさんの野良猫たちが集まっている。不思議に思って自転車を停め、河原に降りてみると、それは何だか見覚えのあるフォルムをしている。
    (……初号機?)
     朝に通った時からいたんだろうか。泥まみれなせいか、いつもよりさらにボロく見える。猫たちが寄り添ってにゃあにゃあ言っているが、初号機が動く気配はない。

     ああ、昨日の雨でずぶ濡れになったのか、それとも何なのかわからないけど、壊れちゃったのかな。口うるさいけど、なんだかんだでいいやつだったよ。面倒なことになりそうだから社長には報告しなくていいや。

     足音を忍ばせて自転車の方に戻ろうとしていると、一匹の猫がめざとくルーイを見つけ、じゃれかかってきた。引き離そうと四苦八苦していると、初号機が目を覚ました。
    『……ルーイさん!』

     マズイ。

     次の瞬間、ルーイは猫を振り払って全速力で駆け出していた。
    『なんで逃げるんですか!』
    「にゃあ〜!」
    『わ、わかったから降りて下さいな。アアッコラ爪磨ガナイデ傷ガツクデショ!』
     初号機が、乗っかっている猫たちが重くて動けないでいるうちに、ルーイは自転車に飛び乗って颯爽と漕ぎ出した。十分引き離しただろう、これで一安心……。
    『ちょっとルーイさん、ひどいですよ!』
     忘れてた、初号機は宇宙船なんだった。自転車が速さで宇宙船に勝てるわけがない。初号機は猫たちを下ろすのに手間取っていたと言うのに、あっという間にルーイに追いついてしまった。

    『全く、散々な目に遭いましたよ。自慢の高級船体がスッカリ毛だらけです』
    「このままだとぼくの家も毛だらけになるんだけど。ていうかなんで上がり込んでんの」
     ぐちぐち言っている初号機を浴室に引っ張り込んでシャワーをかける。
    『ひゃあっ、何するんですか! てか熱ッ!』
    「せっかくお湯にしてあげたんだけどな、水のほうがよかったかなぁ?」
    『ひ、ひどいです、いきなりお風呂に連れ込んでこんなコトするなんて! やめてぇ……!』
    「熱湯の方がよかったかな」

     泥と猫の毛を流し終えて、タオルで水気を拭きとる。宇宙船はある程度耐水性はあるが、内部に水が入り込むと不調に繋がるため、濡れないに越したことはない。自分が壊したらさらに面倒なことになるから、こうやって世話を焼いてるだけであって、ルーイはこれが終わったらすぐに初号機を追い出すつもりでいた。
     初号機は大人しく拭かれながら、
    『ルーイさんってこんなところに住んでるんですねえ』
     なんて呑気に話しかける。ルーイは答えず、後ろから初号機を抱え込んで黙々と水を拭った。

    「はい、できた。じゃあ出てって」
    『ええっ、何でですか!』
    「これからごはん作るし、いられたら困る」
    『私、オリマーさんよりはちゃんと手伝えますよ!』
    「そういうことじゃない」
     ルーイはため息をついた。
    「ここにいられたら困るの。とにかく出てって」
    『もう野宿はこりごりですよ、一回粗大ゴミと間違われて回収されかけたんですよ!?』
     確かに河原にいた時の初号機は不法投棄物にしか見えなかったな、なんて思いつつタオルを洗濯機に放り込む。その間に、初号機はルーイの腕の下をするっと抜けて、勝手にキッチンへと向かった。
    「あっ、こら!」
     キッチンはルーイの城だ。何人たりとも立ち入らせはしないと決めていた。たとえ人でなくて機械であっても。すんでのところで初号機を掴まえて、そのまま玄関の方に押し出す。
    『わわ、ちょっとちょっと!』
     扉を開け、放り出そうとした、が……

     外は土砂降りの雨。

     初号機は反射的に身を引いたが、雨が当たって、機体の縁から水が滴る。今日はずっといい天気だったのに、どうして今更。この雨の中に一晩中いたら、大抵の機械は確実に不調を起こすだろう。
     滴り落ちる水を見て、少し躊躇う。初号機は身を固くして、縋るようにルーイを見つめた。
    「……仕方ないな」
     ルーイは初号機を家の中に入らせて、玄関の扉を閉めた。



     ふと、目が覚めた。カーテン越しには薄明かりが差し込んでいるが、部屋は静かだ。こうやって、目覚ましが鳴る直前に起きてしまうと、二度寝するわけにもいかないし手持ち無沙汰になってしまう。ルーイがぼんやりと窓の方を眺めていると、時計の針が一際大きく鳴った。

    『朝ですよーーー! 起きてくださぁーーーい!』
     いつもの目覚ましの音を想像していたルーイは、あの星の探索中に嫌というほど聞いた大音量で飛び起きた。
    (とうとう幻聴が……!?)
     そう思いながら振り向くと、そこには夢でも幻でもなく、本当に初号機がいた。
    「な、なんでいるの」
    『なんでって……昨日泊めてくれたじゃないですか』
     だんだん寝ぼけていた頭が覚めてきて、ルーイは昨日のことを思い出した。

     ルーイは昨日、家出して彷徨っていた初号機を拾って。昨晩はひどい雨だったこともあり、濡れるのが苦手な初号機を雨の中に追い出すのも忍びなくて、泊めてやることにしたのだった。

    「いただきまーす」
     今日の朝食は、食パンと目玉焼きにベーコンだ。
    『その目玉焼き、卵三個も使ってますよね……?食パンも二枚だし、よく朝からそんなに食べられますね……』
    「このくらい、普通……」
     ルーイは二つある冷蔵庫の右の方をあけて、ヨーグルトとサラダを取り出した。
    『まだ食べるんですか!?』
     この上なく幸せそうな顔をしてトーストを頬張っているルーイに、初号機は呆れながら『コーヒーいります?』と聞いた。
    「欲しい」
    『じゃあちょっと待っててくださいね』
     そういえば、初号機って手無いのにどうやってコーヒー淹れるんだろう……とそこまで考えて、ルーイはハッとした。慌てて見ると、初号機はキッチンの棚からインスタントコーヒーを引っ張り出しているところだった。
    「ぼくの城…………」
    『城?』
     ガクゥッと膝をついたルーイを、初号機はきょとんとして見つめた。
    「なんでもない……」
     初号機は回収口にカップやらコーヒーの素、水入りペットボトルを放り込んだ。しばらくして、回収口から出てきたのはなんと完成したコーヒー。
    『はい、できましたよ』
    「中で何が起きた……?」
    『気になります?』
    「……いや」
     なんとなく聞くのはやめておく。ルーイがコーヒーを啜って巨大な目玉焼きを平らげるのを、初号機は向かい側に浮かんで眺めていた。

    『忘れ物はありませんね?』
    「大丈夫」
    『カギ持ちましたか?』
    「持った」
    『お弁当は』
    「持った」
    『食い気味ですね』
     ルーイが靴を履いていると、初号機が食器の片付けを済ませて玄関に見送りに来た。
    「いってきます」
    『気を付けて行ってきて下さいね』
     玄関を出て、扉を閉める。昨日の雨が嘘のように、今日は快晴だ。カギをかけようとして、はたと手が止まった。何かおかしい。ルーイは閉めたばかりの扉を音を立てて勢いよく開いた。
    「待ってッ何普通に馴染んでんの!!」
    『オワーーッッナンデスカイキナリ!?』
     ビックリしてひっくり返った初号機をむんずと掴んで追い出そうとした。だが全力で抵抗されて、ルーイは初号機を床に押し付ける。
    「もう晴れたんだから出てってよ!」
    『お、お願いですもうちょっとだけ匿ってくださいッ』
    「会社戻りなよ、付き添ってあげるから」
    『それは』
     初号機は少し言葉に詰まって、思いがけず辛そうな声で言った。
    『嫌です……』
     どきっとして、ルーイは初号機を見つめた。こんな声、初めて聞いた。そういえば、なんで初号機は社長と喧嘩したんだろう。初号機がいつも慕っている社長のもとに帰らず、何日もフラフラと出歩いているなんてめったに無いことだ。

     もし、初号機が今、すごく傷付いているんだとしたら。ここで無理やり追い出したら、一体初号機は誰を頼るんだろう?

     昨晩の、縋るような眼差しを思い出した。あれは、ただ雨の中に放り出されかけたことに対してだけだったんだろうか?

    『お、重いですよルーイさん』
    初号機が少し苦しそうに言った。ルーイは掴んでいた手を離して立ち上がる。
    「もうちょっと居ていいけど、出来るだけ早く仲直りして」
    『えっ……いいんですか』
     ルーイは、床にへたり込んで困惑している初号機を振り返ってから、扉を閉めた。
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