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    mmmori0314

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    mmmori0314

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    リヒ→シモ……?っぽい何か。GoS時空。高祖大好きリヒが高祖のいないところで高祖ともっとお近づきになりたいって言ってるだけの話。最終的にどうなりたいかの自覚もない鈍感ピュアピュアリヒ。

    ##悪魔城ドラキュラ

    好意、あるいは愛の話「少し、悩んでいることがあって。聞いて欲しいんだが──」
     ある日の深夜。エルゴスの片隅にて。
    「──高祖シモンに俺のことをもっと見て貰う為にはどうすればいいと思う!?」
    「ちょ、声でかっ!?急に何。これ何の相談?何で俺?!」
     少し勢いがつきすぎてしまった。
     ばん、とテーブルに身を乗り出したリヒターは、思ったよりも大きく響いた声と、慌てふためく蒼真の様子に反省してすすす、と音を立てないように身体を戻した。
     草木も眠る丑三つ時である。既に皆寝静まり、この談話スペースの他は昼間の喧騒を忘れたように沈黙している。幸い誰かが起きてくる気配はなかったが、静かにするに越したことはない。 
    「いやまあ、ここで会ったのが丁度よかったというのもあるが……」
     特に示し合わせた訳でもなく、お互いただ眠れないからという理由でかちあっただけである。そのまま流れでなんとなく、ここで向かい合ってココアを啜っている。ちなみにこれは蒼真が自分の分のついでにリヒターにも淹れてくれたものだ。とても甘い。
    「君は退魔の家や組織に属していないし、話しやすかったというかなんというか」
     まさかこんな馬鹿みたいな悩みを身内に相談する訳にもいかない。かといって、自分が『ベルモンド』の家名を背負っている以上、他の家や組織の者にそんな情けないところは見せられない。
     その点、蒼真はそういったしがらみとは無縁である。ドラキュラの魂という一番ベルモンドが弱みを見せてはいけない相手な気もするが、まあそれはそれ。彼の精神は前世とはまったくの別人だ。あの吸血鬼とはまったく違う、ごくごく普通の人間の少年のものだ。問題はない。
    「いやまあいいけど……。で、何だっけ?高祖シモンにもっと見て欲しい?何を?筋肉?」
    「今でも充分目をかけて頂いてるとは思うんだが……それだけでは満足出来ないと思ってしまうんだ。俺にとってあの人は特別だが、あの人にとっては俺も他と同じようなものと思うと何だか複雑で……」
     偉大なる先達、高祖シモン。
     傑出した力と、それに傲らぬ清廉な精神を兼ね備えた人。
     幼い頃は、その英雄譚に胸を躍らせたものだ。子供心に抱いた憧れと尊敬は、こうして時代を超えて巡り合う奇跡を経て、ますます強まった。一族でもっとも高潔と称されるその人は、穏やかで思慮深く、眩しく。そして、誰にでも分け隔てなく優しい。
    「?特別好きだから特別扱いして欲しいってことか?普通じゃないかな、それ」
     特別扱いして欲しい。
     言ってしまえば、それだけなのかもしれない。
     自分だけに向けられる、他とは違う何かが欲しい。
     あの人にとって、数いる後進のうちの一人ではなく、ただ一人の人間に向ける感情が欲しい。
    「ふ、普通か。そうか。よかった……いやでも、高望みじゃないだろうか?闇に呑まれた俺が、二度にわたり偉業を成し遂げたあの人に、そんなことをへぶっ」
    「うんその自虐俺にも刺さるから止めような!俺のほうが痛いからねそれ。泣くぞ」
     べしん、と軽く顔面をはたかれ言葉が途切れる。
     痛いというほどでもないが、黙るしかなかった。朗らかに言う蒼真の顔が直視できない。
    「……す、すまん」
     闇に染まった、という点では、闇の勢力の術中に落ち悪魔城の城主となっていたリヒターも、自らの魂に抗えず魔王と化していた蒼真も同じである。リヒター自身を責める言葉はそのまま蒼真を責める言葉だ。
     というか、19歳の頃の再現体であるリヒターには、24歳の時に過ちを犯したという事実は知っていても記憶はない。それに比べ蒼真が魔王化していたのはつい先日のことで、本人もばっちり覚えている分、言葉のナイフが余計に刺さる。サウザンドエッジだ。
     迂闊な自虐、ダメ絶対。
    「ところで話戻すけど。『貴方が特別好きです。特別扱いして欲しいです』って本人には言ったのか?」
    「いや、そういえば口に出して言ったことはないな……」
     とりあえず、蒼真はこれ以上その話題を続けるつもりはないらしく、些か強引に軌道修正してきた。まあ、お互い傷付くだけの話である。続けないほうがいい。
     それはともかく。
    「まあ『特別扱いして欲しい』は厚かましいかもしれないけどさ、『特別好きです』は伝えたほうがいいと思うよ」
    「そういうものか?」
     リヒターとしては、もう少し段階を踏んでから、行動で示してから、と思っていたのだが、蒼真はさっさと言葉にしろと言う。少し性急な気もするが、それくらいの積極性が必要なのかもしれない。参考になる。
    「……これは俺の話だけどさ。有角は俺のことが特別好きだし特別扱いしてるだろ?」
    「自分で言うのか……意外とポジティブなんだな」
     確かに端から見ていても特別扱いしているのはその通りだが。
     魔王化が解けた蒼真が協力を申し出た時、有角は蒼真を戦いに巻き込みたくないと言った。有角が戦局に私情を差し挟むなど、あまりに意外で驚いたものだ。どれだけの感情を押し殺して、魔王蒼真に対していざとなれば非情な決断を、と言っていたのだろう。それほどまでに有角の中で蒼真の存在は重い、のだが。
    「全然ポジティブじゃねぇよ!俺はついこの間まで全く気が付いてませんでした絶賛反省中です!」
     突然わっと感情をぶちまけて、テーブルに沈み込む蒼真の姿はなんとも痛ましい。二人でいる所をよく見かけるし仲が良いんだなとしか思っていなかったが、実際は色々溜め込んでいたものもあるらしい。
     まあ、リヒター自身もきっと周囲から見ればシモンとは上手くやっていて、悩みなんてないように見えるんだろう。そんなものだ。
    「俺が会った頃の有角は今より態度がクソだったとか俺が何も知らなかったとかあるけどさぁ……こっち来て本人とちゃんと話してようやく知ったんだよ俺は。高祖シモンが俺みたいなニブチンかどうかは知らないけど、言わなきゃ伝わんない事もあるから言ったほうがいいよ……」
     だんだん小さくなっていく蒼真の声には実感が籠っていて、彼なりに痛みや後悔があったことを感じさせる。そして、同じようになるなよ、という優しさも。
     すとん、と胸が軽くなった気がした。
     そうだ、当たり前のことだ。きちんと伝える前から何を悩んでいたのだろうか。
    「蒼真……!ありがとう」
     テーブルに突っ伏したままの蒼真の手を両手でぎゅっと握る。
     びゃっと弾かれたように顔を上げた蒼真は、ぎぎぎ、と困惑気味に首を傾げていた。驚かせてしまったようだ。申し訳ない。
    「なんだか迷いが晴れた気がするよ。俺は少し臆病になっていたみたいだ。らしくなかったな。そこは当たって砕けるべき所だ」
    「そ、そっか……。いや俺たいしたこと言ってないけど。まあ、吹っ切れたならよかったよ」
     今でも充分可愛がられている。特別扱いして欲しい、なんて望みを知られたら、引かれるんじゃないか、軽蔑されるんじゃないかと、無意識に縮こまっていたのだろう。まったく、情けない。
    「ところで、よければ参考に聞かせて欲しいんだが。有角とちゃんと話して特別扱いされていることに気付いた、と言ってただろう。どういう言葉を交わしたんだ?」
    「『愛してる』」
     ………。
     ずいぶんとかっ飛んだ返答が来てしまった。参考にするには少し難易度が高い。というか、どうしよう。ちょっと予想外だ。どう反応すればいいんだこれは。
    「あー……。その、蒼真?」
    「うん?」
     蒼真は大事な宝物を見せびらかすように、幸せそうな、はにかんだような笑みを浮かべている。純粋そのものの表情からは、彼がドラキュラの生まれ変わりなんて思えない。
    「君と、有角は……」
     あの有角が?そう言ったのか?
     それだけでも驚きだが、蒼真はそれを受け入れたのだろうか。二人は愛し合っているのか?
     ぐるぐると疑問が頭を回って。
    「……?親子だけど?」
     そしてぴたりと止まった。正直つんのめりそうになった。
     当然知ってるだろ?と言わんばかりの蒼真の口ぶりに内心の焦りを必死で隠す。変なことを言わなくてよかった。とんでもない誤解を口にするところだった。危ない危ない。
    「そ、そうか。そうだよな。いや、そうなのか……?」
     有角──アルカードがドラキュラの息子であることは周知の事実だ。リヒターも知っている。そして蒼真はドラキュラの生まれ変わりだ。それも知っている。
     だが前世の息子、父親の来世、はて、それは親子だろうか。
     蒼真に父たる前世の記憶はなく、有角が蒼真を我が子のように溺愛しているのがまた話をややこしくする。
    「いやまあ、今は血は繋がってないけど。でもお互い家族としか思えないし……もう親子でよくないかな」
     まあ、本人達がいいならそれでいいのかもしれない。他人がどうこう言う事でもないだろう。幸せそうだし。
    「そうだな、うん……。親子が特別なのは当然だな」
     そして結局、あまり参考にはならなかった。いきなり『愛しています』と言うのは流石にハードルが高い。どんな流れで言えばいいんだそれ。
    「リヒターにとってのシモンは家族じゃないのか?同じベルモンド家の……えっと」
    「高祖父だ。俺の祖父の、そのまた祖父にあたる」
     直系の血族であるとはいえ、家族と言うには遠い続柄だ。生きた時代もかすってすらなく、リヒターにとってシモン・ベルモンドという人は、本の向こうにいる英雄だった。
     ここで、出会うまでは。
    「祖父がな、よく話してくれたんだ。とても強くて立派な人だったと。子供の頃の俺は高祖シモンの英雄譚が大好きでな。憧れだったよ」
     物語の中の英雄。幼い憧れは現実に会って崩れるどころか、いや増した。
     穏やかな人柄、強靭な肉体と精神。後進を導き見守ってくれる尊敬すべき先人。初めて会った時の胸の高鳴りは未だリヒターを裏切らない。
    「よく祖父にねだったものさ。高祖シモンのドラキュラ退治の話をしてくれって──あっ」
     口が滑った。
    「いや、すまない。失言だった」
     蒼真個人の気質でつい忘れそうになるが、というか少し忘れていたが、目の前にいるのはその退治されたドラキュラの生まれ変わりである。お前の前世を殺す話が好きだ、なんて。あまり気分の良い話でもないだろう。
    「え?……あぁ、いいよ別に。有角はわざわざ父親の所業読み漁ってダメージ受けてるけど、俺はあんまり覚えてないし」
     何やってんだろうなあれ、と蒼真は眉を曇らせたが、すぐにこの話は終わりと言うようにひらひらと手を振りながらへらりと笑って見せる。リヒターが心配する程に気にしてはいないらしい。その表情に影がないことに、ほっと胸を撫で下ろす。
    「それよりさ、リヒターはその憧れの高祖シモンとどうなりたいんだよ?」
    「どうって……」
     どうなりたいのだろう。
     いざそう言われるとこれだとはっきり言える答えが見つからない。
     憧れている、尊敬している。かといって弟子になりたいかと言われるとそれも違う。並び立つ存在でありたい。じゃあ友達になりたいのか?と聞かれれば、それもなんだか想像できない。
    「……わからない。わからないが……俺はあの人が好きだ。穏やかで、優しくて。でも優しいだけじゃなく厳しく叱咤激励してくれることもあって、争いは好まないが信念を曲げない。誰相手でも意見には耳を傾け、真摯に対応する。立派な人だ。あの人のようになりたい、なんておこがましい事は言えないが、見習いたいと思う」
     ひとつひとつ、噛み締めるように、好きだと思うところを上げていく。こうしてあの人の事を考えるだけで、じんわりと胸に熱が広がる。
    「戦いにおいて妥協しないところも好きだ。今の自分に満足せず常にその先を模索し続ける。俺のような若輩者に意見を求めてくれることだってある。鍛練を怠ることはないし、そうやって貪欲なまでに強さを求める姿勢には共感するし、尊敬する」
    「……ほんとに立派な人なんだな。立派過ぎてこわいんだけど。強くて優しくて人格者とかなんだそれ。クソ強いけど人格破綻者とかの立場がなくないか」
     そう言われても。だってそういう人なのだ。
     ひねた口を利いてテーブルにべたーっと転がる蒼真に苦笑する。
     というか、その人格破綻者って誰の事を言ってるんだ。有角か。有角のことなのか。この言い放題っぷり、やはり身内の距離感だ。リヒターには到底言えない。いや、そう思っているわけではないけれども。
     それはともかく。
    「……まあ、俺も最初は高祖のことを『理想の英雄』そのものだと思ったよ。でもな、あの人だって人間だ。悩みもすれば迷いもする。俺は……こう言うのもあれだが、少し……嬉しかった。俺のような心弱い者と同じ面が、あれほど立派な人にもあるのだと」
    「それは……なんとなく、わかる気がする……」
     それは、弱き者、堕ち行く者の勝手な思いなのかもしれない。強く輝かしい者、手の届かぬ高みにある者に落ちて来て欲しいと願うような。だが、そうだとしても。
    「出来ることなら、あの人の弱さを埋めるのが俺であればいいと思う。あの人に頼られたい。必要とされたい。あの人が膝を折りそうになった時に、それを支えるのは俺がいい」
     ああ、きっと自分は欲深な人間なのだろう。この胸の奥には、飢えた狼がいる。
    「そうだな、やっぱり俺は、特別扱いして欲しいらしい。あの人の心の深いところに置いて欲しい。『特別』になりたい」
    「……うわー、ごちそうさま。わかった、わかったよ。リヒターがシモンのこと大好きなのはよくわかった」
     わざとらしく言いながら、蒼真が大袈裟に身を引いて見せる。けれどそこにリヒターを嗤うような悪意はなく、注がれる視線はどこまでも優しく柔らかだ。
    「まあ頑張れよ。どうせ俺達には今しかないんだから。今のうちに、大事なもんは大事にしとかないとな」
     所詮、自分達は目録から召喚された過去の残響。目的を果たした後は跡形もなく消える泡沫の夢。
     だとしても、今ここにいる自分の心は嘘じゃない。何も残らないとしても、今ここで巡りあった奇跡を無駄にしたくない。
    「ああ、そうだな。今のうちに、伝えたい事は伝えておかないとな」
     決して後悔をしないように。
     この心を全て晒して、拒まれる恐怖は消えていない。特別を望むなど、出来損ないの子孫には過ぎた望みかもしれない。偉大なる祖はそんな風には思えない、と呆れて余計に心を離すかもしれない。
     それでも、自分の心を殺せばきっと悔いが残る。
    「頑張るよ。俺は、あの人が好きなんだ」
     何かの宣誓をするように、手元にあったカップを持上げて掲げる。真似して同じようにする蒼真とそれをカチンと合わせて、少しぬるくなったココアを飲み干す。
     じんわりと、温かな感覚が広がる。
     優しくとろけそうなそれは、ふわりと芳しく。

     どこまでも、どこまでも、甘かった。
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